【S&B】 2 すいーつらんち

      2 すいーつらんち 背景




この店自慢の『季節のケーキ』が、釣り銭の550円と一緒に、僕の手元に戻る。

もう一人の購入者の横を通り、店から出ようとした時、

ポケットに押し込んでいた携帯が鳴った。申し訳ないが外で話しをすると、

手がかじかんでしまいそうだったので、店の端に立ったまま話し始める。


「もしもし……あぁ、悟か。あと1時間くらいかかるけど、なんだよ」


電話の相手は同居人の伊勢原悟で、家に着くまであとどれくらいかかるのかを聞いてきた。

だいたいこんな時は何が起こっているのかがすぐにわかり、あと1時間だぞと念を押す。


「1450円になります」


さっきの彼女も、同じものを買った以上、当然金額は一緒で、

ピンク色の財布を取り出し、チャックを開けた。

僕は悟との電話を切り、それをポケットに入れ、そのまま店を出ようと扉に手をかけた。


「あ!」


その大きな声に振り返ると、メガネの彼女は完全に失敗した表情でうなだれ、

首が下がるのと同時に、フレームが少し下にずれた。


「どうされましたか?」

「すみません、お金が……」


何かの手違いで、自分の思っていた金額が財布になかったと、辛そうに彼女は話しはじめ、

そうですか……と理解をみせるようなそぶりをしながらも、

店員は箱詰めされたケーキを見せ、どれを削るのかと冷静に聞き出す。


そう、僕たちは店員にとって、どっちでもいいようなただの客。

だめなら次へ乗り換えれば済むことだ。


「えっと……」


しかし、こちらはそうはいかない。今日は2月の最終日、

ここで逃したケーキは来年まで食べることが出来ない。

3つのうちから一つを削れなどという選択は、

離婚するときに子供3人のうち誰かを捨てろというくらい辛いのではないかとそう思う。


いや、離婚の経験などもちろんないのだけれど、感覚でそう思うのだ。


僕は右手の中にあった500円玉を確認すると、そのOLの肩を叩き、

驚き顔の彼女に、手渡した。


「どうぞ、せっかく来たんだ、みんな買えなかったら悔いが残るでしょ?」

「すみません……、あ、いや、でも……」


通りすがりの、別に目を引かれるような美人でもない、普通のOL。

店に飛び込んできた時のメガネの曇りを思いだし、なんとなく彼女の性格を想像する。

真面目だけれど、生き方は決してうまくない。


広告代理店に勤め、人と会うことも多く、観察することが増えたからなのか、

僕の予想はほぼ100%当たる。100%と言い切れない理由は別にあるのだが。


「電話番号を教えてください、えっと、あ、違う。住所……」

「いいですよ」


初めから返してもらおうなどと考えてはいなかったので、右手で言葉を止める合図をした。

申し訳なさそうな彼女の顔が、ドアに映っていたが、僕はそのまま店を後にする。

肌に突き刺さるような冬の空気が、僕に向かってきたが、

これからの時間を想像するだけで、あたたかい気持ちで家へ向かうことが出来た。





「ただいま」

「おっかえり、祐ちゃん」


リビングから顔を出し、僕に投げキッスを送ってきたのは琴子だった。

漂う匂いに今日がカレーなのだとわかり、そのまま靴を脱ぎ自分の部屋へと向かう。


「あ、祐ちゃん、一緒に食べようよ。悟と待ってたんだよ」

「待ってた? 嘘付け!」


僕は琴子にそう言い返し部屋へ入った。

このマンションは18畳のリビングが自慢の2LDKで、僕の親父から借りているものだ。

いや、正確に言えば借りてやっているものだ。


両親は父の女好きのせいで、昔からもめにもめていた。

子供が小さい頃は離婚できないと、僕が二十歳になったその日に、

ワインで乾杯し離婚届を出した。

兄はすでに結婚し、母も独立して店を持っている。父は……。


時々メールをよこすが、今は誰と暮らしているのかさえ、よくわからない。

それでも基本的にはパイロットなのだから、お金の苦労はないのだろう。

このマンションはその父が、一番愛していた……とよく口にした愛人に与えたものだが、

その愛人はさらに羽振りのいい別の男を見つけ、とっととここから出て行った。

もちろんそんな部屋に住みたいと母が思うわけもなく、

僕が独立してここに住む権利をもらってやった。


半年前までは前の彼女と同棲していたのだが、突然いなくなられた後に、

悟が転がり込んできた。きちんとした職についているくせに、

あいつの性格は僕よりもゆがんでいる。大学からの縁だったが、

いつも問題を起こすのはあいつの方だった。

ここへ来たのも、大家と大げんかして、飛び出してきたからだ。


「ねぇ、祐ちゃん、食べないの?」

「いいよ、二人で仲良くどうぞ」


琴子は悟の彼女で、よくここへ遊びに来ては悟の面倒をみている。

悟にはもったいないくらいの出来た子で、彼女とつきあい始めてから、

あいつの性格も変わりだした。


「琴、いいよ、祐作はどうせまたケーキでも買ってきたんだろ」

「よくおわかりで」


PC前に座り、箱を左に置く。後ろでなにやら話している二人にそこを出て行けと、

手で追い払うポーズをとった。


「でも……ケーキが夕飯になったりして、大丈夫なの?」


そんな意見を無視しながら、僕は楽しみにしていた箱を壊さないようにゆっくりと開け、

少しあがってきた香りをまずは楽しんだ。

ワインじゃないからテイスティングとは言わないのかもしれないが、

ケーキを味わう時には、必ずしている儀式。


「はぁ……」

「祐ちゃん!」

「いいよ、琴、食べよう。あいつは、甘いものを前にすると、
何も言うことを聞かないって、もう何度も言っただろ」

「……だって、悟と二人で食べてると、また変なことするもの」

「変なこと? なんだよ、さっきまで、いい! 悟……いい! って言っていたくせに」

「バ……バカ!」


琴子が持っていたお玉を使い、悟の頭を叩いたコツン……という音が響いてきた。

そう、自分の家なのに、時々帰る時間を修正させられることがあるのは、

こいつらのせいなのだ。


「おい、うるさいからあっちへ行けよ! 悟、お前去年、
今年中に出て行くって言っただろ。カレンダー見てみろよ、もう2月じゃないか」

「家賃払ってるだろ1万円!」

「お前は車か!」


この時間を邪魔されたくなくて、仕方なく立ち上がると僕は二人を部屋から押し出した。

カギはかからないので、大きなソファーを移動し、入れないようにする。


「いいか、今度邪魔したら、荷物ごと追い出すからな!」

「ダメ! 祐ちゃんの監視がないと、悟、どこに行くかわからないから……」


デスクの上に置かれているノートパソコンの電源を入れ、マウスを動かしながら、

あるブログを開く。



『すいーつらんち』



そう、これは僕のブログだ。初めはおいしいスイーツ情報を載せているブログを

渡り歩いていたのだが、いっそ自分でブログを持ち、ここに情報者を集めた方がいいと、

考えを変えた。ブログなら誰が書いているのかなんてわからないし、

本名を明らかにする必要もない。

自分でありながら、自分じゃないこの空間が、僕にとっての癒しになっている。


まだ初めて1週間、見つけてくれた人は3人、HN、雷おこしとランデブーと……

ぺこすけという、どこの誰かも知らないメンバー達。


「祐ちゃん!」

「琴子、いい加減に……」

「紅茶入れたよ……」


僕がケーキの時に飲むお気に入りの紅茶を、琴子は入れてきてくれた。

怒りのまま振り向こうとしたが、彼女の優しさに思わず顔がほころんだ。


「ありがと」

「うん……」


琴子、本当に君は悟にはもったいない人だよ。

こっちに向かってあかんべをしている悟に向かってそう言おうとしたが……

無駄な時間になりそうだから、やめた。



3 隣の上司はコシヒカリ へ……





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コメント

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見っつけた♪

ふんふん・・
スィーツ スィーツ!

美味しいものね。好きよ~。

でも飛び切りのいい男が スィーツに目がなく
こっそりブログまで 開設しているなんて 誰も思わないわよね。

世間はよい男 お酒 たばこ クール・・・のアイテムを用意するだろうね。

どんなお顔して キーたたいているのやら 頭の中で空想してしまうわ(笑)

次のお話まで 私も何かスィーツを・・・

見っつけた♪ 2

こんなところにこんなすてきなお話が・・・・・

男の人って意外に甘い物好きですよね。
かっこつけて(?)スィーツを食べないからか、缶コーヒーや紅茶も砂糖入りを飲むのは男のようだし。
ま、いい男がスィーツを前ににやけている姿は想像できないですけれど。

そんな想像できないお話がどんな風に展開していくのか楽しみです。

かく言う私はあまりケーキには感動しないのですが、お話に感動しますので、今後ともよろしくお願いします。

すい~つ

思わずその"ブログ"検索しかかったよv-274ププ

飛び切りの良い男(だと思う^^;) がスイーツ片手にウキウキしている図
かなり興味深いv-391

しかし悟君と琴子ちゃん、よそん家で余りいちゃつくのはどうかな?v-23 祐作はそれで平気なのか?どういう神経だ?

メガネの彼女はもしかして"雷おこし”か"らんでぶー”はたまた"ぺこすけ”さんかな?

azureさんへ!

コメントありがとう!

>でも飛び切りのいい男が スィーツに目がなく
 こっそりブログまで 開設しているなんて
 誰も思わないわよね。

あはは……そうそう、そうでしょ? そのギャップが大事なのですよ、これは。
自分でやっていても思うのですが、絶対に思い込みってあるじゃないですか。
おもしろいですよね、人って。

さて、どんな顔をしている男なのかは、まだまだ明らかになっておりません。
短めの1話(そう、サークルものの半分です)ですから、
リズムよく、読み進めてください。

3話は、新年明けてすぐだと思うので、
またお付き合いしてもらえたら嬉しいな。

swimmamaさんへ!

コメントありがとう!

>男の人って意外に甘い物好きですよね。 かっこつけて(?)
 スィーツを食べないからか、
 缶コーヒーや紅茶も砂糖入りを飲むのは男のようだし。
 ま、いい男がスィーツを前ににやけている姿は
 想像できないですけれど。
 そんな想像できないお話が
 どんな風に展開していくのか楽しみです。

私の周りにも、甘いものに目がない男がいます。
だんなですけど(笑)
でも、いい男じゃないから、関係ないですね(あはは……)

サークルにくらべて、文章量は半分なので、リズムよく読んでもらえるかなと思っています。
想像出来ない話……
これからあれこれ、展開されますので。
そうそう、また人が増えていくんだ。私の作品らしく(笑)

swimmamaさんは、ケーキだめなんですか?
あ、でも、タイトルはケーキのみじゃないですから
(って、どうでもいいかもしれませんが)

3話は、新年明けてすぐだと思うので、またお付き合いしてもらえたら嬉しいな。

yonyonさんへ!

コメントありがとう!

yonyonさんのコメントを見て、あっ、そうか! と
私が検索してみたよ『すいーつらんち』v-274

そしたらここがヒットしたv-308


>しかし悟君と琴子ちゃん、よそん家で余り
 いちゃつくのはどうかな?
 祐作はそれで平気なのか?どういう神経だ?
 メガネの彼女はもしかして"雷おこし”か
 "らんでぶー”はたまた"ぺこすけ”さんかな?

あはは……悟と琴子は、マイペースなんだよ。
よその家という感覚は、二人にないだろうね。
祐作の神経? まぁ、穏やかではないだろうが、
その辺もだんだん明らかになりますよん。

メガネの彼女について、考えてるねぇ、yonyonさん

その読みがどうなのかは、続きを読んでね!

3話は、新年明けてすぐだと思うので、
またお付き合いしてもらえたら嬉しいな。

拍手コメントをくださった方へ!

こんばんは!
拍手コメントをくださってありがとうございます。
2話をUPしてすぐに、コメントをいただいたんですよね。
(いや、HNはわかるのですが、非公開なので、こんなふうに書き込んでます)

【again】にも、コメントをいただいているのに、
そのHNだと、サークルからお返事が出来ずに困っています。
よろしかったら、サークルでのHNを教えてください。
それは……というのであれば、また拍手のページからでもいいのですが。

ごめんなさい、どこで聞いたらいいのか迷って、ここで書いてます。

楽しみ♪

うっふふ・・・これから先が気になるお話。

いい男と甘~~いスイーツ。カッコ良ければ
なんでも絵になちゃいますね。

また、近くにいるカップルが引っかき回すのかしら^^
でも、本音を見せられる人たちなんでしょうね。

今回のお話に出てきた人たち・HN。。。
お話がどう進むのか期待でワクワク楽しみですっ!

beayj15さんへ!

どうもです!

>いい男と甘~~いスイーツ。カッコ良ければ
 なんでも絵になちゃいますね。
 また、近くにいるカップルが引っかき回すのかしら^^
 でも、本音を見せられる人たちなんでしょうね。

あはは……
なんだか、この辺のみなさんは、私の作品ではもうベテラン組ですね。
あれこれ考えてくれている。

まだ1ページを開いたくらいですからね、楽しみにしてくれて
ありがとうございます。

3話は、新年明けてすぐだと思うので、 またお付き合いしてもらえたら嬉しいな。