43 3つの顔

43 3つの顔




古川議員の秘書佐原を見かけたのは、友海の思い出の土地だった。

あの土地の所有は『TTK』という幽霊会社で、誰が代表を務めているのかさえ、

よくわからない。

しかし、佐原に似ている袴田の存在が明らかになり、

しかも、伊豆で水産加工の会社を経営していることもわかった。

佐原と袴田は親戚ではないかと思うのが普通で、袴田に会いにきたのだと思えば、

佐原があの場所にいたこともなんとなく理解できる。



そして……



『企業と手を組んで、自分だけ正義のような顔をした、峰山会長だった……』



友海が見間違えたのでなければ、袴田の父親は峰山会長と言うことになり、

もしかしたら、あのリゾート開発計画に、

佐原や古川議員まで関わりを持っていたのではないかと言う想いが、

航の中に浮かび上がった。


「峰山……」


以前、朝戸に調べてもらった資料の中に、峰山守という名前が記してあった。

航はこのつながりには、もっと深いものがあるのではないかと、

茶色の封筒に、資料を押し込んだ。





「パパに?」

「あぁ。昨日、『天神通り店』に袴田さんが偶然給油しにきてくれたんだ。
その時、住野さんと食事会があるから、一緒にどうだって誘ってもらったんだけど、
僕が出席しても問題ない会なのかどうか、住野社長に伺いたくて」

「私から聞くのは構わないけど、入り込むのは嫌なんじゃなかったの?」

「ん? うん……。でも、疑問は直接聞くのが、一番わかる気がして」

「疑問? 何かあるの?」


聖の問いかけは当然のことだった。

それでも、航は正直に言うことは出来ずに、黙ってしまう。


「うそよ、もう聞かないから。でも、もし……ちゃんと話せるときがきたら、
私にも話してくれる?」


航は聖の方を向くと、しっかりと頷いた。

それならば協力すると、聖はすぐに携帯を開け、哲夫へ連絡を入れる。

哲夫は事務所の中にいて、航が袴田と会いたがっている話をすぐに受け入れ、

明日会う店の場所を教えてくれた。


「はい、これ……時間。店の場所はわかる? 
もしわからないようなら、パパがここに迎えに来てもいいって
そう言っていたけど」

「いや、それは失礼だよ。急に参加するんだ。確か……」

「海人と3人で、初めて食事をした店、覚えてる?」

「あぁ……うん」


航が『SI石油』に入り、初めて海人と向かい合って話をしたのがこの店で、

確かその時も哲夫と会い、母の面影があると、懐かしく言われたことを思い出した。





航が仕事を終え、店に着くと、一番奥の大きな個室へと案内された。

6人の席が用意されていて、すでに哲夫は席についている。


「住野社長、今回はすみません。急な申し出をしてしまって」

「いや……あれからすぐ、袴田君からも連絡が入ってね。
君を誘っても構わないかというから、実は君のほうから参加したいと
連絡が入ったと、そう言ったんだ。
この間も、もっとゆっくり話したかったらしいが、
後ろに乗っていたお父さんを送らなければならなかったようで、
時間がなかったと……そう」

「あの……袴田さんは伊豆にお住まいなんですよね」

「あぁ……。伊豆で水産加工業をしているんだ。
普段は地元との付き合いなんだけれど、2年位前から、
都内にも出荷するようになってね。その運搬をうちが一手に引き受けている」


哲夫は自分の隣の席を指差し、航に座るようにと指示をした。

航は無理を言ってきた手前、逆らうことも出来ずに、隣へ座る。

横に座った航の顔を見ながら、哲夫は満足げに微笑んで見せた。


食事の会に姿を見せたのは、元、国土交通省の役人と、住野運輸の営業部長、

そして、袴田だった。袴田は航の前に座り、すぐに手を差し出した。

航はその手を握る。


「いやぁ……、現場でお会いできたのは、嬉しかったな。
僕は経営者だからとか、管理者だからとふんぞり返る人よりも、
現場で一緒に汗をかこうという人が好きなんですよ。
成島さんはそういう雰囲気のある人だって、
最初に会ったときから思いましたけどね」


袴田は楽しそうに話し続け、哲夫はその様子を満足そうに見た。

航は一通りの挨拶を済ませ、袴田に質問をする。


「袴田さん、伺ってもいいですか?」

「なんでしょう」

「あの……佐原さんとは……」

「ん?」


佐原の名前を出すと、それまで明るかった表情が、一瞬だけ曇りを見せた。

哲夫はそんな袴田に、航が佐原を知っている理由を明かす。


「『SI石油』は古川議員にお世話になっているからね。
航君も、パーティーかなんかで、佐原さんを見かけたのだろう」

「あ……そうか、そうですね。あいつは特徴ありますから、顔に」


袴田はそう言って笑うと、佐原とは双子の兄弟だと語りだした。

航はやはりそうだったのかと思いながら、話の続きを待つ。


「男2人の兄弟で、僕は幼い頃に袴田の家へ養子に入りました。
袴田は、母の実家になるのですが、跡取りがいなくて、次男だった僕がそこに……。
まぁ、父も母も兄がいるからとそう思ったのでしょうが、
兄は東京へ出て、佐原家の娘さんと親しくなり、結局婿養子に」


佐原、袴田、峰山と3つの別苗字を持つ男たちの接点が、初めて明らかになった。

航は、そのままさらに話を加えようとする。


「お住まいは伊豆なんですよね」

「はい、その中でもものすごく田舎育ちです。自然だけは多いんですけどね、
まぁ、だから、こんな豪快な人間になるのでしょう」

「あの……袴田食品がある場所から、少し高台に向かうと、
以前はペンションが並んでいましたよね」


航がペンションの話を出した途端、明らかに袴田の表情が変化した。

それまでの友好的な態度から、何か壁を作ったかのように、口を閉ざす。

航はさらに話を続けようとするが、隣にいた哲夫に、話題を変えられる。


「東京での活動はどうですか?」

「あ……やはり、みなさん細かいですね」


そこから航のところに話が戻ることはなく、袴田は航を避けるように、

元役人や、住野運輸の営業部長と話をするようになってしまう。

なんとかして、つながりを知ろうとした航の思いは、

中途半端な状態で、終わりを告げた。





航は哲夫と同じタクシーに乗り、店を離れることになった。

袴田と佐原が兄弟で、あの伊豆の土地とも何か関わりがあるところまでは

わかったが、結局、避けられてしまい、真相まではわからなかった。


「航君」

「はい……」

「色々なことに興味を持つのはいいが、知らなくていいことは、
知らないふりをすることも、これからは必要だよ」


哲夫はそういうと、腕を組み、背もたれにぐっともたれかかった。


「和彦さんは、海人がいなくなっても、
君に『SI石油』を譲ることはしないだろう。佐原さんと袴田さんのことなど、
探ったりする必要などないのでは……」

「僕は、『SI石油』を欲しいとも思いませんし、
譲ってもらおうとも思っていません。跡取りは、今も、これからも、海人一人です」


哲夫は、そういい切った航の横顔を改めてみた。

まっすぐな思いを隠すことなくつげ、何に対しても臆病にならない態度は、

母、華代子にそっくりだった。


「君は経営者に向いているよ。どうだ、うちの会社に、その思いを向けないか?
聖と一緒になって……」


航は隣に座り、自分を見ている哲夫の方を向くと、申し訳ありませんと頭を下げる。


「こんなふうに、勝手なことを言って、参加させてもらったのに、申し訳ないですが、
僕は聖さんに対して、友人以上の思いを持ったことはありません。
素敵な女性だとは思いますが、住野社長の想いには、答えられません」


適当なことを言えば、勘違いされ、引きずり込まれるのはわかっていた。

だからこそ、聖に失礼だと思いながらも、航はしっかり断りの言葉を継げる。


「僕には……思う人がいますので」


哲夫はその言葉に、そのまま目を閉じた。

タクシーは繁華街を抜け、少しずつ住宅地の中を走っていく。


「君は、お母さんによく似ている。
まっすぐなところも、そして、生き方が下手なところも……」


哲夫の冷静な分析と、冷たい笑みに、

航はそれ以上視線を合わせていることが出来ず、車外の景色へ目を向けた。





44 善意と悪意の目
<photo:tricot>

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コメント

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三妖怪?

別の名を持つ親と兄妹。複雑な家庭のようで・・・

哲夫は分る人かと思ったけど、やはり企業のトップに立つ人間。
世の中を上手く立ち回ろうとしちゃうのかな?
航の母を好きになった人ならと少し期待したけど・・・・

キッパリ断るのは友海のためにも、聖に対してもいい加減な態度よりはずっといい。

しかしまだ問題は続くな~糸口すら見えない。

それぞれの関係

ももんたさん、お久ぶりです。

三人の関係が見えてきて、影に利権に絡むことがありそうですね。

最初袴田と佐原が同一人物?
と思っていたので納得です。


>知らないふりをすることも、これからは必要だよ
そんなところから航の真っ直ぐさ見えますね。

哲夫はそんな彼を心配するとともに、経営者として育てようとしたのかな。
航は婿としてはいい存在だったんだね。


>「思う人がいます」
都合の悪いことこそ早めに伝えた方が、ややこしくならないよね。

伊豆の土地・・・
なんかありそうですね。

わくわく

yokanさん、こんばんは

>佐原、袴田、峰山、三人の関係が明らかになったので、その辺はワクワク、

ありがとうございます。
やっとつながりました。登場人物が多く、謎解きのような状態になっていますが、
楽しんでもらえると嬉しいです。

過去の自分

yonyonさん、こんばんは

>航の母を好きになった人ならと少し期待したけど・・・・

商売も成功し、それなりの地位も築いた哲夫にすると、
思い通りにならなかった過去が、航という形になって、
また蘇ってきた気分なのでしょう。

華代子の代わりに……という思いかもしれません。

>しかしまだ問題は続くな~糸口すら見えない。

キャー……ごめんよ。
長くなって(笑)

正体は双子

tyatyaさん、こんばんは

>ももんたさん、お久ぶりです。

いえいえ、こちらこそ、お久しぶりしちゃってます。

>最初袴田と佐原が同一人物?
 と思っていたので納得です。

はい、双子でした。
過去の事件をからめて、現在の友海や航、そして海人達にも
からんでくる男達です。

>伊豆の土地・・・
 なんかありそうですね。

あります!(笑)