40 大事なこと(9)

40 大事なこと(9)


眠れない夜が過ぎ、雑誌発売の朝が来た。

私は近くのコンビニに向かい、そこで初めて写真を見る。

写真は暗い中で撮られているけれど、場所がここだということは、

近所の人ならすぐにわかるもので、日向さんと私がちょうど重なるようになっていた。

そのおかげで、私の顔はわからないが、

気遣いながら横に立っている日向さんの顔は、ハッキリわかる。





これを人違いです……とは、言えないだろう。





日向さんに何度か連絡を取ろうとしたが、今、私があれこれ言うのは、

かえって迷惑になるような気がした。

田沢さんと米原さんが、これからどうするか、きっと考えてくれている。

そう思いながら携帯を見ていると、米原さんから電話があり、

私はすぐに受話器を開けた。


日向さんは、『舞台挨拶』の後に、この写真についてコメントをすると発表し、

今、田沢さんと打ち合わせているという。


『史香。淳平には、スタッフだと押し通せって話したから。
スタッフであることは間違いないし、見舞いに行くイコール、
個人的な付き合いまであるとは限らないでしょ。とにかく、そう言ってあるから。
史香には、不満かもしれないけれど、今は、主演ドラマの撮影前だし、
映画も公開されたところだし、とにかくここは収めておきたいの、わかるよね』

「はい」


この状況をわからないはずがない。

日向さんが映画にどれくらい力を入れてきたかも知っているし、

初主演のドラマに対しても、気持ちが入っていることくらいわかっている。


『そっちに何か変なのが行っても、無視だからね』

「はい……すみません」


米原さんの声が、そこで一旦途切れた。

全く、身勝手な二人だと、怒っているのだろうか。


『謝ることではないでしょ。淳平は史香のこと、すごく心配していたから。
会いたかったんだもの、仕方ないの。ね、史香……』





会いたかった……

そう、ただ会いたかった。

心が少しだけ弱くなったとき、大好きな人と一緒にいたい。

普通にみんなが思うこと……それだけだった。





『舞台挨拶』は、昼の少し前11時からだ。

おそらく2時のワイドショーで、日向さんのコメントを含め、流されることだろう。


今、劇場で起こっていることが、私にはわからない。

とにかく、日向さんが押し通せること、それだけを願った。





時間が少しずつ過ぎていき、雑誌を読んだ知らない人が、

この店はここなのかと、母に尋ねる声が聞こえる。

私の携帯電話には、中学を卒業してから、1度も会うことがなかった同級生や先輩から、

メールが入り始めた。



『久しぶり、史香。ねぇ、『WEEK』の写真、史香の家だよね』



文面は少しずつ違っても、みんな聞きたいことは一緒だった。

『日向淳平』が、どうしてここへ来たの? 

公私共に支えるスタッフって、あなたのことなの……そういう内容。





こんなメールに、返信など出来ない。





少しずつ周りが騒がしくなることにおびえながら、私はひたすらワイドショーを待った。



『ただのスタッフです』



こう日向さんが言ってくれたら、私もそう対応すればいい。

俳優だもの、きっとしっかり演じきってくれる。





「おい、史香。どういうことだ……」

「お父さん」

「雑誌にうちが出ていたって、たずねてくる客が、何人か……」


店にいた父が居間へ顔を出した時、ワイドショーが始まった。

『相良家の人々』の舞台挨拶に並ぶ日向さんが映り、インタビューの画像が流れ出す。



『日向さん、今日、発売になった写真誌のことなのですが、
あの写真は日向さんで間違いないですね』

『はい』


日向さんは舞台を下りた後、楽屋に向かう前の道で、記者の質問に答えた。

後ろには田沢さんがいて、1、2分でという声が聞こえてくる。



『記事の内容によると、深夜に近い時間ですし、
事務所のスタッフさんのご実家ということですが、
お見舞いされたのは、先日の事故で怪我された方ですよね』

『はい』



スタッフだから、空いた時間を使って見舞っただけです。

しっかりそう言い切ってくれたら、そこで幕を引けばいい。



『わざわざ、お一人で、車であの時間に行かれるなんて、
スタッフだと言われるには、ちょっと無理があるような気が……』

『スタッフはスタッフですから』

『いや……しかし……』

『怪我の具合が気になっていたので、見舞いました』



居間に現れた父は、私の横に座り、日向さんの受け答えを聞いている。

『スタッフだ』と言い切る姿を見せたら、また、怒り出すかもしれないけれど……。





今は何を言われても、やり過ごすしかない。





『それだけ大事なスタッフということですよね。
個人的なお付き合いがある方だと思って、間違いないのでしょうか』



あの時間での訪問、記者も心の中では薄々気づいているのに、

あえて日向さんに言わせようとする。

わかっているのなら、こんなふうに責めないで欲しいのに……。

ここでいくら握りこぶしを作っても、私は何も役に立たない。





『はい……』





うそ……

日向さん、それって、打ち合わせと違うじゃないですか。

私は『スタッフ』なんです。

ただの『スタッフ』だけれど、心配になって見舞っただけだと、そう言うはずでしょ。





あまりにハッキリ認めたことに驚き、記者たちからの質問が止まる。

後ろにいる田沢さんから、『時間がないので……』と声がかかった。





もういい……

早く、ここから逃げて!

逃げてよ、日向さん!





『彼女は僕にとって、一番大切な人なので……』





こんな言葉をもらって、悲しいはずがないのに、私は悔しくて仕方がなかった。

こんなに真剣に、向かってくれなくてよかったのに。





あなたは誰に……訴えているの?





「お父さんのせいだから……」

「何……」

「お父さんが日向さんに、中途半端なことをするなだなんて、言うから……だから」

「史香!」

「私は、中途半端になんてされたことない! お父さんのせいなんだから!」


父に当たることじゃないことくらい、わかっている。

それでも、何かにぶつからないと、自分が壊れてしまいそうだった。

日向さんを支えたい、そう思っていたのに、

私自身が、日向さんの、そして田沢さんの夢を、つぶしてしまうかもしれない。

階段を駆け上がり、とにかく何も聞きたくなくて布団を被った。

こんなことをしたって、解決なんて出来るはずもないのに。





苦労して撮影した映画の初日なのに……

これから初めての主役ドラマを、撮り始めるのに……





どうしてこんなことに……





騒がしくなった店の音は、容赦なく布団の隙間から聞こえてきたが、

私はただ暗闇の中に丸くなることしか出来なかった。





日向さんからの電話があったのは、その日の夜だった。

落ち込む私とは違い、日向さんは心配かけまいとしているのか、

口調はいつもと同じように、明るいままだ。


「いつかこんな日が来ると思っていたんだ。もし、そんなときがきたら、
絶対にごまかしたりしないって、自分でそう決めていた」

「日向さん……」

「しばらく、近所であれこれ言われるかもしれないけど、
史香は普通にしていればいいから。
何か言われたら『そうですよ』って堂々と言えばいい」

「日向さん、でも、スポンサーとか、事務所の人とか……それに……」

「そんなことを、史香が気にすることはない。後は僕のことだから」


米原さんはどう言っているんですか? 

田沢さんとはどんな会話をしたのですか?

日向さんに問いかけようとするのに、言葉が続かない。


「でも……」

「色々と大切な人はいるけれど、史香のご両親に、
史香とのことをごまかしたって思われたくないんだ」





やはり……

そうだった。





「自分の身を守るために、『ただのスタッフ』ですからなんていう男との付き合い、
認めたくないだろう……」





この先、私たちはどうなるのだろう。

日向さんの言葉を聞きながら、私はそのことだけを考えた。






41 大事なこと(10)


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コメント

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やっぱり

言うと思った、淳平なら。
史香の気持ちもわかるけれど
淳平の発言が言い方向へ向かうと信じたい。

少なくとも
史香のお父さんはわかってくれるんじゃないかなあ~

米原さんや田沢さんもこうなることはわかってたよね。。

淳平らしい・・・

やっぱり、言っちゃったね淳平・・・

一応打ち合わせはしていただろうけど
田沢さんも米原さんも
こういう展開は予想していたんじゃないのかな

後はマスコミや視聴者が
この発言をどんなふうに受け取るか・・・

ごまかしのない真っ直ぐな淳平の思いが
どうか皆に受け入れられますように!

淳平なので

れいもんさん、こんばんは

>言うと思った、淳平なら。

あはは……すっかり淳平のキャラはバレテますね。
そう、誤魔化したくないということで、
言ってしまいました。

まぁ、悪いことをしているわけじゃないけどね。
それでOK! といかないのがこの世界。

さて、どうなるのか……は、次回へ続く。

淳平らしく

パウワウちゃん、こんばんは

>やっぱり、言っちゃったね淳平・・・

はい、言ってしまいました。
淳平にとって『大事なもの』は誤魔化せなかったようです。

さて、あとはどう取るか、
そして、どう収めるか……なのですが、
それは次回へと続きます。

淳平だもの

まーね~~淳平なら言うよ。
そういう人だから史香だって好きになった。

でも今の芸能界”好きな人が居る”位ではそんなに変わらないと思うな。
これが不倫とかなにか嫌な感じのものなら、周りも敬遠すると思うけど・・

お父さんはこれで淳平の人柄が分って、逆に安心するのでは?

淳平だから

yonyonさん、こんばんは

>でも今の芸能界”好きな人が居る”位では
 そんなに変わらないと思うな。

今の芸能界は、オープン! だよね。
結構、堂々と言う方が潔い! と評価があがったりするし、
さて、淳平の告白は、吉と出るか、凶と出るか。

史香の複雑な心境を含めて、さらに続きます。

淳平だね

yokanさん、こんばんは

>マスコミ騒動がうまく収まるといいけど・・・嬉しい反面複雑な思い。

あんなふうに言われたら、本当は嬉しいけどね。
史香としては、スタッフだっただけに、
周りの人達のことも、頭に浮かぶようです。

さて、淳平の告白は、どう二人を動かすのか、
しっかりするのか、おろおろするのか、
史香のこれから……を見てやってください。