49 青色の夢(4)

49 青色の夢(4)


勢いというのは、どこでつくのかわからない。

日向さんの主演ドラマ『BLUE MOON』は、

開始当初、思ったよりも視聴率が上がらず、スタッフはそれを上げるために、

より視聴者に刺激を与えるため、台本を替えようとした。

しかし、それは未遂に終わり、

ドラマ第5話で、鍵を握るアクセサリー『BLUE MOON』が登場すると、

願いを叶えるというキーワードが、OLの心をつかんだのか、一気に話題をさらう。


『メビウス』のお嬢様である、デザイナーの紗那さんが作ったこのアクセサリーは、

限定のデパートでしか手に入らないという不自由さがさらに評判を広げ、

6話、7話と回が進み、視聴率は一気に8%も伸びた。


それによって、少し減りつつあったインタビューや取材も、一気に増える。


「マスコミなんてこんなものよね。今までそっぽを向いていた人達が、
急に取材を申し込んできたり、スタジオ見学に訪れたり、
一気に騒がしくなったみたいよ」

「そうみたいですね」


米原さんは『メビウス』の担当者と、最終話に向けての衣装打ち合わせが忙しく、

ここ何日か徹夜に近いと、大きなあくびをした。

それでも、充実しているスケジュールがそんな疲れを吹き飛ばす。


「淳平、ホテルに入っているでしょ」

「はい、最終回まで家には戻れないみたいです。
でも、電話の口調もすごく明るいし、
近頃はスタッフとも真剣に話し合いが出来て良かったって、そう言ってました」

「そう……」


『BLUE MOON』は、夜の撮影が多くなり、

人通りが少なくなる深夜や、霧が消えない早朝の撮影をするため、

日向さんが部屋へ戻ってくることは出来なくなった。

視聴率があまり伸びず、部屋で溜息をつく日向さんを見ているよりは

この方がいいと思いつつも、何もすることがない状況は、私の心を固くする。


せめて、事務所で働いていたのなら、

こんな喜びをスタッフの一人として感じられたのに。


何か力になれることはないかと思ってみても、

全てを管理されているホテルでは、そばにいくことすら出来ない。





カレンダーはあっという間に8月も後半に入り、

『BLUE MOON』は、夏のドラマ1番の視聴率を取るようになった。

電話は毎日かけるわけにはいかなかったけれど、メールだけは欠かさない。



『おめでとう、日向さん』



もっと多くの言葉を使えばいいのかもしれないが、あれこれ書くことより、

気持ちが伝わる気がして、たった1行を送信した。



『ありがとう、史香』



取材と取材の真ん中で、日向さんがすぐに返信をくれる。

そんな日々は、少しずつ重なった。

ドラマが終わったら、また、ゆっくり出来るだろうと思っていた日、

私は、日向さんの様子も聞きたくて、米原さんに電話をする。


「米原さん、また、ランチでもしませんか?」

『あ、いいわよ、あさってとかどう?』

「はい……」


何気ない、いつもの会話をするつもりだった。

でも、米原さんの一言で、私の気持ちはざわざわと余計な音を立て始める。


「淳平、着いた?」

「エ……」

「あれ? 淳平戻ってない? 今日と明日、収録がオフになったから、
田沢さんが部屋へ戻るように指示したらしいけど。じゃぁ、残るのかな?」


日向さんから、部屋へ戻る連絡は入っていない。

もし、戻ることが出来るのなら、一緒に食事でもしたいと思ってくれるはずで、

きっと、他の仕事があって抜けられないのだろうと、その時はそう考えた。

しかし、それから2日後、ある雑誌の文字を見て、その誌面から目が離せなくなる。



『日向淳平 本命の彼女はスポンサーのお嬢様』



美容院や病院に置かれ、暇なおばさま達の愛読書だと思っていた女性誌だったけれど、

どうしても気になり、書店へ買いに走った。

白黒の誌面に、あまり質の良くない紙が使われている。

ハッキリと特定出来ないところがもどかしかったが、

記事の内容を読むと、それがまんざらウソではない気がした。


撮影がハードになり、日向さんがホテルを利用していることが書いてある。

それは私も知っていることだったけれど、そのホテルから外出する日向さんの写真と、

髪の毛の長い女性と二人、雰囲気のあるお店へ入っていく姿と2枚が掲載される。


記事の中に、ドラマ『BLUE MOON』がアクセサリーの登場で、

一気に視聴率を上げ、注目を浴びるようになったことと、

デザイナーの紗那さんが、今、業界で期待されている存在だということも、書いてあった。


そして……


『メビウス』の社長を務める、紗那さんの母親が、日向さんを気に入っていて、

CM契約を長く続けていることなど、二人が親密になるための好条件が並べられる。

仕事をしているのだから、付き合いもあるだろう。

写真など声も聞こえないから、書きたいように書くことが出来る。

私は動じることなどないと大きく息を吐き、その紙面を閉じた。



だって、私は過去の出来事に、ちゃんと教わってきた。

信じるのは、日向さんの言葉だけだって……。

『きっと、こうする理由がある……』

だから、それを知ることが出来る時を、待つべきだ。


紙面を閉じて、洗濯物を取り込もうとした手は、

諦め悪く、また、見たくないはずのページをめくっていた。





日向さんから電話があったのは、その日の夜だった。

雑誌のカメラマンがついてきたことも知らずに、紗那さんに迷惑をかけたと話し出す。


「……ごめん、田沢さんに怒られた」


日向さんがホテルを抜け出し、紗那さんと食事をしたり、

お酒を飲みに行ったことを、田沢さんは全く知らなかったらしく、

疑われるような行動は慎めと怒られたらしい。


「紗那さんのブランドを立ち上げた後、雑誌のCMに出てくれないかって
話になってさ。でもまだ、正式なものじゃないから、
あんなふうに会うことになったんだ。色々な人をからめると、
そうならなかった時に、迷惑もかかるしって」

「そうだったんですか」


どことなく、浮いたような話だったけれど、

確かに、マネージャーなどを通す前に、

本人と直接軽い話をするクライアントは結構いる。

ましてや『メビウス』のお嬢様が相手となれば、

日向さんも簡単に断ることなどできないだろう。





「全くねぇ、田沢君に内緒で出掛けた淳平も淳平だけれど、
『WEEK』に史香との写真を持っていかれたからって、
対抗するように紗那さんのことを、本命だと書くなんて、出版社の争いも醜いわ」


恒例のランチを取るために、私は米原さんが仕事をする、小さなスタジオへ向かった。

何度も通ったオレンジスタジオのように、

色々な放送局が連携して持っているマンション型のスタジオとは違い、

どこかこじんまりとしているけれど、火薬などを使う撮影にはいつもこちらが使われた。


「ごめんね史香。あと2シーンだから」

「いえいえ……大丈夫ですよ、待っていますから」


タレントについてスタジオへ入った米原さんを見送って、

私は少し周りを散歩しようと部屋を出た。

見上げるような大道具が置かれ、『BLUE MOON』の文字が見える。

背の高い棚のようなものは、まだ、ドラマ内で出てきた記憶はなく、

これから何に使われるのだろうかと、つい探りたくなっったが、

人の走る音がして、少しその場を離れてみる。


「……史香」


目の前に現れたのは若村さんだった。

声も聞きたくないし、話したいことなんて何一つない。


「お前、仕事辞めたのか」


誰に聞いたのだろう。一瞬足が止まる。


「あの子、ほら新人の。この間、オレンジスタジオで会ったら、
史香が仕事を辞めたとそう言っていたからさ」


保坂さんだ……

余計なことを言わなくてもとも思うが、

彼女は若村さんの本当の姿を知らないのだから、仕方がない。


「若村さんに、お話しすることじゃありません」


あなたのせいだ……なんて、言うつもりもなかった。

日向さんとの付き合いは、いつかバレてしまうものだったのだろうし、

それを今更、恨み言などつけて、関わりたくもない。



もう、前に進むと決めたのだから。



私が、米原さんの部屋へ戻るまで、若村さんは何も言わないままだった。





日向さんがホテルに缶詰になって10日後、携帯に連絡が入った。

相手役の女優さんが体調を崩し、撮影が1日延びたため、

これから食事に出てこないかと誘ってくれる。


「どこに行けば……」

「ほら、『エナト-レ』。あそこならわかるだろ」

「あ……はい」


私が日向さんに告白されたお店。

打ち合わせなどで何度も使った店だけれど、

こうして二人で行くのは、あの日以来かもしれない。


食事なんて、部屋で何度もしているけれど、外で会うのはやはりドキドキする。

また、カメラマンが……と思わないわけではないけれど、

あの店ならば、逃げ道もちゃんとわかっている。


電車に乗り、駅で降りてまっすぐに進む。

仕事終わりで、少し疲れた顔をしたOLさんとすれ違いながら、

『エナトーレ』を目指した。


「あの……前島です」

「はい、奥にお部屋をお取りしております。もう見えてますよ」

「ありがとうございます」


店員さんの笑顔に迎えられて、私は一番奥の部屋へ入った。

そこには当たり前のように日向さんが座っていて、軽く手をあげてくれる。


「なんだか久しぶりで、緊張しました」

「緊張? 別にそんな……」


日向さんはそう言いながら、何か気になるのか携帯でメールを打ち続ける。

私は目の前に座り、バッグを横の席に置く。


「あ、史香、今日はこっち」

「エ……こっち?」


日向さんは自分の隣を指差し、座るように言った。

並んで食事をするのは、部屋で十分なのに……。


「田沢さんか、米原さんでも来るんですか?」

「いや……違う」


すると携帯が鳴り出し、日向さんは急に立ち上がると、私の横をすり抜け、

部屋を出て行ってしまった。よくわからない状況のまま、

とりあえず言われたとおりの場所へ座る。



……せっかく、久しぶりに食事が出来ると思ったのに。

なんだか、落ち着かない。



「史香……」

「こんばんは!」


扉を開けて日向さんが連れてきたのは、

雑誌が本命だと騒いでいる『メビウス』のお嬢様、紗那さんだった。






50 青色の夢(5)


恋する二人と、空想に励む私に(笑)
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コメント

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おいおい!

史香の目の前にお嬢様登場ですか@@
週刊誌を見てから落ち着かない史香なのに。。ね。。

どうなる?!史香が辛い思いをしませんように~

あ~・・

あー淳平又やっちゃった?週刊誌には気をつけろ!とあれほど言ったじゃないですか!

紗那さん? 
淳平のことだ、きっとはっきり宣言するつもりなのだろう、思う・・・たぶん・・・

若村さん史香が会社辞めたのは、自分のせいだと分ったかな?
反省しろ!

読んでるよ~^^

二人の関係も落ち着いてきて・・・

お嬢さまとのご対面、史香を安心させるためかな、と思ったんだけど。
または、お嬢さまが「史香さんに会ってみたい」と頼んだのか!

なんて、想像しながら読むのは楽しい~♪

次回、待ってます^^

グルグル

れいもんさん、こんばんは

>史香の目の前にお嬢様登場ですか@@

れいもんさんのグルグルと同じように、
史香も淳平の意図がわからず、
きっとグルグルでしょう(笑)

さて、お嬢様の目的は?
次回へ続きます。

恋する女なのです

yokanさん、こんばんは

>週刊誌の記事を気にするのをみると、
 まだまだ自分に自信がもてない史香ちゃん。
 日向君を信用しろって!

恋する女に、不安はつきものなのです(笑)
まぁ、ただの人じゃないですからね、
周りが放っておかない人物ですから、淳平は
(一応、設定上)

さて、お嬢様が来た意味、そしてその後は……
で、次回へ続きます。

さて、若村ですが

yonyonさん、こんばんは

yonyonさんは、紗那を呼んだ理由を、
そう読みましたね……
さて、真相はまだこの先です。

>若村さん史香が会社辞めたのは、自分のせいだと分ったかな?
 反省しろ!

ねぇ……反省するかなぁ……
さらに何か仕掛けてこなければ、いいんですけど。

想像だよね

なでしこちゃん、こんばんは

>なんて、想像しながら読むのは楽しい~♪

そうそう、想像しながら読む……
これは私もよくやります。
想像しすぎて、飛んでいっちゃう時もあるんだけどさ。

『はーとふる』な作品なので、
いつでも、お時間のある時に、おつきあいください。