55 戦闘開始

55 戦闘開始




航と聖、そして戻ってきた海人を乗せた車は、

3人が一番最初に食事をした店へ向かった。

込み入った話があるからと店に話し、奥にある個室へ通される。

聖は、航から全てを聞きながら、父、哲夫がからんでいるのではないかと思い、

話から逃げ出したことを謝罪した。

海人は、『住野運輸』がどうしてからむのかと聖に問いかける。


「パパはね、あくまでも配送を請け負っているだけのようだけれど、
あの土地がどういう目的で動いているのかは知っていたの。
袴田さんや佐原さん、そして二人の父親である峰山さんとも、縁があって……」


聖は申し訳なさそうに下を向き、どこか言葉を発する声も小さかった。

娘としての複雑さが絡み、さらに表情が固くなる。


「聖さん、『TTK』は法律を犯しているわけじゃないんだ。
今の日本できちんと許されている取引をしているだけで、
それを止めるわけにもいかない。ただ、峰山会長は、
地元の人を裏切り富を手にした。そこのいきさつがきっと、
僕らに対して強く出てくる事情なんだとそう思う」

「強く? ということは、『SI石油』に何か? パパもそう言っていたから。
古川一族に逆らうと……つまり、航さんがこの事実を突き詰めていくと、
『SI石油』にはいいことじゃないって」


聖は、そう言い切った後、隣に座る海人の顔を見た。

海人は話の内容にも、とくに驚くことなく黙っている。


「飯田さんも、それを住野社長から聞いたんだね」

「……知っていたの? 航さん」

「うん、飯田さん、ご両親のところへ行くって、そう言っていたから」


航は、友海の両親が岐阜の山荘を経営するようになったこと、

友海がそこへ向かうと決めたことを、海人と聖に語った。


「パパが悪いのよ」


聖は、哲夫と向き合い、真剣な表情で正座していた友海のことを思い出した。

条件に流されることなく、身を引くことを拒んだ友海の目の強さは、

しっかりと頭に残っている。


「飯田さん、航さんに迷惑をかけたくないとそう思っているはず。
『SI石油』を追い込まないように、自分が身を引けば、
航さんのこだわりもなくなるだろうって、そう。
でも何よ、それでもここを離れるのなら、パパの条件を飲んだほうがいいじゃない。
あの時、安く買われた土地だって、値段どおりに支払わせることを約束したし、
峰山さんに謝罪させてもいいって、パパはそう言ったのよ。
私、彼女はここに残るんだって、そう思っていた……それじゃ……」

「あいつ変わったんだな」


海人はそういうと、何かを思い出したのか口元をゆるめ、そして笑い出した。

その海人の表情を見ていた航も、自然と笑顔になる。


「何よ、二人とも……どうして笑っているの?」

「あいつ変わったんだと思ってさ。前に、『天神商店街』の男ともめた時、
あいつさえ謝ればいいとそう言ったのに、自分は間違っていないから、
謝ることなど出来ないとそう言った。それによって、
店が迷惑をかけられてもいいのかって問い詰めたけれど、
気持ちを曲げることなど決してしなかったのに……」


海人は、以前、友海が晴弘ともめ、

商店街との取引を取り消されそうになった時のことを思い出した。


「あいつは航が必死になっていることを、誰よりも気にしていた。
過去のことも知りたいけれど、それを貫けば迷惑がかかることもわかっている。
あくまでも航を、『SI石油』を守るため、あいつは自分が去ることを選んだ」


聖は、友海が哲夫を向かい合った時の顔を思い出した。

まっすぐに向いた目はぶれることなく、

一度も不安に揺れることもなかった気がする。


「いや……変わったように見えるけれど、彼女は変わっていない」

「ん?」

「海人の言うとおり、飯田さんがここを去ることに決めた理由は、
『SI石油』を守るためだとそう思う。でも、それだけじゃない」

「どういうことだよ」

「住野社長の言った条件を飲んだら、一番喜ぶのは誰だと思う? 
過去の清算をしたことで、自分たちの計画を認めたと思う古川一族だ。
彼女はそれを突っぱねた。要求通りここを去ることになっても、
気持ちだけは絶対に売らないということだろう」


航は、晴弘達と揉めた時の友海の顔を思い出した。

正しいことをしているのに、追い込まれ、悔しそうに唇を噛みしめた顔は、

忘れられないものになっている。


「確かに、叔父さんの言うとおり、僕たちは甘いのかも知れない。
でも、理想と意地を無くしたら、生きていても流されているだけだ」


航は目の前のカップを手に持ち、コーヒーを口に含んだ。

海人は戻ったものの、これから先のことを考え、深くため息をつく。


「どうする、航」

「ん?」

「古川一族と縁を完全に断ち切ることなど出来ないかもしれないし、
もしかしたらそれによって、『SI石油』は大きなダメージをくらうかもしれない。
今ならまだ、別の方向へ話を持っていくことも出来るはずだ」


海人はそういうと、目の前に座る航を見た。

航はカップを置くと、海人の目の前で両手を組んでみせる。


「お前はどうする?」

「俺?」

「『SI石油』の跡取りは海人、お前だ……」


航は、あくまでも『SI石油』の跡取りは海人なのだと強調し、

指示を待つのだと問いかけた。海人は心配そうな聖の顔を確認し、

出されたカップに一度口をつける。苦みの残るコーヒーがノドを通り、

それと逆に海人の決意が、しっかりと押し出される。


「俺は自分の思ったとおりにやってみたい。元々、一度家を捨てたんだ。
あの土地へ行って、俺は自分として生きていく方法を考えた。
もう一度会社に入るのなら、言いなりにはならない。
やりたいようにやれないのなら、会社を継ぐ意味などない」


その言葉は力強く、航はしっかりと頷き返す。


「ならばそれについていく」

「航……」

「彼女もきっと……それを望むはずだから」


聖は、覚悟を決めた二人の顔を交互に見つめ、

あたらめて意識をしっかりと変えて戻ってきた、海人の顔を見た。





それから、海人と航はそれぞれに調べを進め、チームを作り上げた。

地元の人との交渉に当たるチーフは航が務め、組み立てを考えるチーフには

朝戸があたる。関山は銀行との間に入り、『消防法』により、

閉鎖を考えているスタンドへの援助方法などを組み立て始めた。


「ただいま……」

「あ、お帰り真湖」

「うん……ねぇ、また航が来ているの?」

「そうよ、海人の部屋にこもって、なにやら計画を立てているみたい」

「ふーん……いつからそんなに親しくなったのよ、二人は」

「そうね……」


登志子は海人が戻ってきたこと、

そして甥である航と手を取り合うように経営をし始めたことが嬉しく、

二人のために料理をしたりする日々が続いた。

始めは航が家に来ることを拒んだ真湖も、兄である海人の、

今まで以上に感じる仕事へのやる気に、その現状を受け入れるようになる。

二人のタッグを心地よく思わないのは、

古川一族から、大きな援助が受けにくくなった和彦だけだった。


「まだいるのか、成島は」

「はい……」

「いい気なものだ、そのおかげで、
古川さんから露骨に嫌味を言われているというのに」

「嫌味?」

「あぁ……演説会場を仕切ってくれるはずが、今は自分の方が手一杯になって、
こちらまで人を回せなくなったと、昨日連絡をもらった。
明日から、街頭で演説をしなければならないのに、不慣れなスタッフだけで、
どう仕切ったらいいのか……。今まで、必死にやってきたことが、
あいつらのおかげで……」

「いいじゃないですか。選挙なんて落ちてしまったって」

「何?」


登志子の言葉に、和彦は怪訝そうな表情を浮かべ、

勝手なことを言うなと付け加えた。以前までの登志子なら、

そこですぐに引いたところだったが、海人が戻り、

前向きになったことで気持ちが大きく変わったのか、さらに言葉を付け足していく。


「海人がやる気になってくれたことが、何よりも大きなことです。
あれもこれも手に入れようなんて、バチが当たります」

「……登志子」


和彦の反論を聞くことなく、登志子はテーブルに残された海人と航の食器を、

嬉しそうに片付け始めた。





次の日の土曜日は、天気も晴れて、地方選挙に立候補している候補者が、

届出をした場所で、それぞれ演説を行った。

和彦も『森崎店』が近い場所にある広場で、地域活性化の公約を懸命に訴える。

当初の予定では、古川が用意してくれた陣営が、

人を動かす約束になっていたが、それが出来なくなり、

演説を聞く人は2人しかいない。


「これからの地域は、人々の力を組み合わせて、やっていかなければなりません。
私は、『SI石油』の社長を務め……」


公園の横でゲートボールをしていた人たちが、1人、2人と、

和彦の演説に耳を傾け始めた。そしてその中の一人が、

ゆっくりと演説中の和彦に近寄ってくる。


「あんた……『SI石油』の社長さんかね」

「はい……新谷和彦と申します。今回……」

「そうかね、『SI石油』の社長さんかね」


訴えかけようとした和彦に背を向け、男性はまたゲートボール場へ戻っていった。

和彦が視線を元に戻し、また語り始めると、

今度はゲートボール場のメンバー全員が、こちらに向け近寄ってくる。


「社長さんよ!」


その中でも一番年配の男性が、マイクを持ち立っている和彦に、そう声をかけた。

そばにいたスタッフが、今は演説中のためと注意するが、男はそれを振り払う。


「私はあんたに入れるよ、1票」


和彦に対して、何か文句を言うのかと思っていた男性は、

そう言うと、しわだらけの顔を崩して見せた。





56 親離れ 
<photo:tricot>

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コメント

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海人自身

yokanさん、こんばんは

>海人、生まれ変わったというより、
 本来の自分に戻ったと表現するのが正しいのかな^^

そうかもしれません。
祖父と父の影にいた海人ですが、
自らの道を見つけ、思いを前に出せるようになりました。
それも航の存在あって……かもしれません。

若い人達の動きに、和彦も何を感じるのか、
残りは、6話なので、最後までよろしくお願いします。