1 25年前の事実

1 25年前の事実


今から25年前の冬、僕の運命は大きく動いた。





その頃母は、百貨店の中にある『スポーツ用品』売り場に勤務し、僕を一人で育てていた。

保育園ではいつもおとなしく、母を待っている僕に、

園長先生は色々な歌を、聞かせてくれた。

母が仕事で遅くなり、迎えに来るのが最後になっても、

僕が泣いたりすることなど一度もなかったらしい。


「こんばんは」


その男性に会ったのは、たった1度きりだった。

母が嬉しそうに、その人に対して笑顔を見せている姿に、

僕は幼いながらも、どこからか『幸せ』がやってくるものだと疑わなかった。





しかし……

母は、それから3ヶ月後、突然の病でこの世の中からいなくなり、

僕はたった一人になった。





「大貴、おいで」


僕を引き取ってくれたのは、あの1度だけ保育園へ来てくれた男性だった。

後から聞いた話だったが、彼は母の勤めていたスポーツ用品メーカー

『Tosp』の若き社長で、母との結婚を考え、僕を息子として育てたいと望んでいた。


「いいかい、今日からここは大貴と私の家だ」

「おうち?」

「そう。私が、君のお父さんなんだよ」


母と住んでいた、小さな古いアパートではなく、

新しい父の家は、とにかく部屋数があり、

なんのために使うのかわからない場所もあった。

そして、家の裏には一度歩き出すとどこに行けばいいのか迷ってしまうくらい、

広い敷地がある。


「私も両親を早くに亡くしたんだ。大貴と同じだ……」


僕は、彼の養子となり、名前を『佐久間大貴』と変えた。

父にはすでに両親がなく、兄弟もいなかったが、

何名かの叔父と伯母が、その敷地奥に住んでいた。

独り身のまま、子供だけを受け入れてしまった父に、親戚達は揃って結婚を勧め、

僕のことも考えた父は、それから2年後、結婚を決める。

そしてさらに1年後、僕には妹、葵が出来た。





いつの間にか、それが当たり前の家族になり、

僕は生んでくれた母よりも、もっともっと長い年月、新しい家族の中に入り、

そして育てられた。







「大貴、いる?」

「あぁ、ここにいるけど……」

「いるけどじゃないでしょ。どういうこと?」

「何が?」


僕は人並みに大学を卒業し、そして父の経営する『Tosp』に就職した。

父は血の繋がらない僕を、本当の息子として育て、

そして、この先築きあげた企業を継がせたいと思っているようだった。


「少しくらい待っていてくれたらいいじゃないか、沙織」

「ダメよ、今日は目一杯買い物に付き合ってくれる約束だったでしょ?
どうして仕事をしているのよ」

「あぁ……はいはい」


沙織は、僕より一つ年下で、大学時代から続く彼女だ。

沙織の家は、お父さんが2期連続で県会議員をしていて、

お母さんは普通の主婦だが料理がうまく、

僕はなんだかんだと理由をつけては家へは戻らずに、

沙織の家で食事を済ませることもよくあった。

父親の還暦を祝いたいという沙織は、以前から頼んでいたお店に立ち寄り、

オーダーメイドでスーツを新調した。


「あ、あと……あれもお願いします」

「はい、お待ちください」


店員はそういうと、僕の方を一度だけ見る。

どうしてこっちを見たのかわからないまま、

荷物持ちに徹しようと店の隅に立っていると、別のスーツが登場した。


「こちらでございます」

「ありがとう……」


沙織はそのスーツを受け取ると、顔を隠しながら僕の方へ歩いてくる。


「何だよ、その笑い顔は」

「これはね、大貴のスーツなの。私がお願いしたのよ」

「僕の?」

「そう、この生地いい色でしょ。前にこちらへ来た時、
すぐにこの生地で作って欲しいってお願いしたの。
だって、大貴の着ている姿が、しっかりと浮かんだから」

「沙織……」


オーダーメイドスーツをどうして作れるのかと思った時、

以前、ちょっとしたハプニングがあったことを思い出す。


「そういえば……あの時」

「そうよ、今気がついたの?」


沙織の父親を応援してくれている後援会長さんは、

地元でも有名な酒蔵を持っている酒造メーカーで、

僕は新酒披露パーティーに呼ばれたことがあった。

その時着ていたスーツにお酒がこぼれ、慌てて着替えさせられた覚えがある。


「ということは、君のお母さんも組んでいるってことか」

「そうよ、大貴」


沙織は楽しそうに笑顔を見せ、高級なスーツを2着並べた。

僕のために彼女が作ってくれたスーツと、少し恰幅のいい父親へのスーツ。

同じように並べてもらえたことが、僕は正直、嬉しかった。





東京の夜景を見ながら、輝くライトの前に沙織と二人、並んでみる。

海風に彼女の髪がなびき、その香りが僕の鼻をかすめていく。


「ごちそうさまでした」

「あんなスーツを見せられた後だと、何をおごっても、足りない気がしてしまうよ」

「そんなことないわ。あなたと一緒に食事が出来るだけで、私は幸せだもの」


僕の腕は、自然に沙織に伸び、その体を引き寄せた。

彼女への思いがあふれ出し、このまま帰したくはないと、耳元に残してみる。


「……ダメよ、今日は帰らないと」

「どうして?」

「今日は早く戻りますって、母に約束したの。それに、今日の大貴だと、私……」

「ん?」

「きっと、壊されちゃいそうだから」


照れくさそうに大胆なことをいう沙織の唇に、自分を重ね、

どうしてもこのまま離したくないと、彷徨う指先を髪の毛にからめていく。

深いキスの合間に、互いの呼吸を確認し、さらに強く思いを乗せた。


「困らせないで……大貴」

「沙織……」

「私はいつでも……あなたのものだから」





沙織は、僕の全てを知っている。

僕が佐久間家の本当の息子ではないことも、

母が妹の葵をかわいがり、実は僕を疎ましく思っていることも、



そして……

葵はまだ何も知らず、僕を兄だと信じていることも……



「ねぇ、陸上チームの選抜って、もう終わったの?」

「あぁ……そうみたいだよ、僕はあまり細かく知らないけれど」

「ふーん……オリンピックに出るような人が、入ってくれたらいいのにね」

「そうはうまく行かないよ、きっと。
社長も、『Tosp』の名前を知ってもらえたらと思っているだけだ。
なにしろ、陸上競技選手獲得に動き出してまだ、3年だしね」


沙織の強情さに負けて、車には乗り込んだものの、

僕はまだエンジンをかけられずにいた。


「僕達もそろそろ、きちんとしないとな」

「焦る必要なんてないわ、大貴を信じているもの」


長い付き合いの中で、僕が沙織との結婚に踏み切れないのには理由があった。

妹の葵が、将来にどんな希望を持つのか、それを知ってから行動に移したかったからだ。

本音を言うと、葵が婿をもらって、『Tosp』を継いでくれるのが一番いいと思っているが、

社長を勤める父は、そう思っていない。



『うちの跡取りは、大貴なんだ』



僕の未来は、どこへ歩み出せばいいのか、わからないまま月日だけが流れていく。


「沙織……このまま帰らないでくれ」


大きな家の自分の部屋ではなく、大企業の仕事場でもない。

僕が、本当の僕でいられる場所は、沙織の腕の中でしかなかった。


「大貴……」

「どうしても帰るというのなら、あと少しだけ、こうしていて」


僕より背も低く、力もない沙織に、全てを預けるような顔をして、

子供のようにそっとささやいてみる。

助手席に座る沙織の方へ、僕は頭を傾けた。

彼女の香りが僕を優しく包み、遠くに聞こえる波音がオルゴールのように流れ出す。





『Tosp』が店を構えているホテルでは、

予約がなくても、部屋を用意してもらうことが出来た。

フロントで鍵を受け取り、無言のまま、エレベーターに乗り込む。


「……私って、どうしてこうダメなんだろう」

「何が?」


沙織が優しく、どこまでも僕を愛してくれていることを知っているため、

最後はこうして、受け入れてくれることも、どこかでわかっていた。

カードキーを差し込み部屋へ入ると、そのまま唇を重ねる。


「大貴、ねぇ……シャワー浴びよう」

「早く帰らないとまずいんだろ」

「……ちょっと……」


沙織を抱きかかえ、歩く時間さえもったいないのだと、僕はベッドへ彼女を降ろした。

慣れた香りに顔をうずめ、心と身体を解きほぐすように、キスを重ねていく。

沙織は、僕の頭を軽く叩くと、全てを受け入れるつもりになったのか、

手の動きを助けるように、少しずつ導き始める。

ぬくもりの中から解放した膨らみは、すでに僕を待っていた。

強く押しつけることなどせずに、軽く触れると、沙織はピクッと動き、

それでも嬉しそうに笑ってくれた。


「あぁ……もう……」

「なんとでも言ってくれ。これが僕なんだからさ」

「……わかっているの」

「ん?」

「そんな大貴が好きでたまらない自分が、腹立たしいの……」


沙織と僕は、そこから互いの吐息の中で、確実に生きていることを感じあい、

誰よりも『愛している』という気持ちを、言葉にならない声に乗せ続ける。

強く背中に触れる、彼女の指の力に、

何があっても君を守るのだと、さらに深く自分を重ねた。





僕は……

君がいなくなったら、きっと、

生きていることをやめてしまうかも知れない。





くびれのあるウエストを両手で抱え、多くの悦びの中、

ほんの少しだけしわを寄せる沙織の顔を、逃すまいと見続けた。



『誰よりも愛している』



そう心でささやきながら。







2 明かされる秘密

『ももドラ』確立を目指し、奮闘中です。
励ましの1ポチ、よろしくお願いします *´∀`)ノ ヨロシクオネガイシマス♪

コメント

非公開コメント

ももドラ 超期待!

始まったのね・・・「ももドラ」

「もしどら?」じゃないよね、「ももドラ」だよね(と確認 ^m^)

「昼ドラのような物語」って、どんな展開になるの?
出生の秘密をもった主人公とお嬢さまの恋だけじゃないってのはわかるけど・・
妹が義兄と知って恋に落ちるのか、葵はすでに事実を知っているとか!

限りなくいろんなことを想像できそうで、楽しみ~♪

ところで、この「ももドラ」の更新のペースは?

ドロドロ?

昼ドラの様なももドラ。超期待!!
ドロドロな感じ?それとも切ない悲恋?
どっちも欲しいな~~

出生の秘密、血の繋がらない兄妹、跡継ぎ問題、
妄想、想像掻き立てる。フ・フ・フ・・・楽しい♪

佐久間大貴。既にある人を想定してるyon

『ももドラ』だからね

なでしこちゃん、こんばんは。
そうそう、『もしドラ』じゃないよ、『ももドラ』(笑)

>「昼ドラのような物語」って、どんな展開になるの?

なでしこ嬢、それを書いてしまったら、
創作出来ないじゃないですか。
まぁ、『昼ドラ』とはなんぞや……と調べてみたら

『家族・親子の愛情譚(たん)』
『男女の関係において、演劇的に誇張された愛憎劇』
『(温泉地や病院といった)労働の現場における奮闘劇』

だそうです。
色々と、想像、空想しながら楽しんでね。

>ところで、この「ももドラ」の更新のペースは?

おそらく4日に1話くらいだと思うよ。
まぁ、時間のある時にでも、読んでみてね。

ゴチャゴチャしますよ

あんころもちさん、こんばんは

>なんだか出だしだけで、私好みな気がして、嬉しいです。

あはは……嬉しいです。
出だしが好みというのは、『出生の秘密』部分かな?
ややこしくなりそうなのが、楽しみだと……

どんどん更新!
出来るように、頑張りますね。
よろしくお願いします。

私流ですけどね

拍手コメントさん、こんばんは

そうなんですよ、3年が経ちました。
私も3つ、年齢アップです。
まぁ、もう何年か前から、数えないようにしているので、
よくわかりませんけどね(笑)

>楽しみだわ~~
 ももんたさんが昼ドラを意識して創作するとどうなるのか・・・

まぁ、私流の感覚なので、『昼ドラ』はこれだ! っていうのは
ないんでしょうけど、調べてみると

『家族・親子の愛情譚(たん)』
『男女の関係において、演劇的に誇張された愛憎劇』
『(温泉地や病院といった)労働の現場における奮闘劇』

だそうですから……
この辺を意識してみようかと。

これからも4、5年と続けられたらいいなと思っています。
どうか、無理なく、都合のいい時に、
遊びに来て下さい。

出来る限りで!

yonyonさん、こんばんは

>ドロドロな感じ?それとも切ない悲恋?
 どっちも欲しいな~~

yonyonさんの楽しそうな口調に、つい、あれこれ書きたくなりますが、
ここは何も書けませんよ(笑)

>出生の秘密、血の繋がらない兄妹、跡継ぎ問題、
 妄想、想像掻き立てる。フ・フ・フ・・・楽しい♪

そう言ってもらえると、こちらもとっても楽しい!
インプット完了ですね。
それでは、よろしくお願いします。

yokanさんの『予感』(笑)

yokanさん、こんばんは

>何だかとっても複雑そうなお話になりそうな予感ですが・・・、
 だって複雑になりそうな要素が沢山散らばってるんだもん(笑)

あはは……そうそう、そうでしょ?
『複雑』となるのか、『ドロドロ』となるのか、
まぁ、自分の中にある『昼ドラ』のイメージを追った、
『ももドラ』ですから。

お暇な時で結構です。
ぜひ、お付き合いお願いします。
いつも、お願いばかりですみません……