3 衝撃の告白

3 衝撃の告白


今日という日は、そんな日だったのかもしれない。

いつも忙しく、早く帰ることなどない父が、仕事の変更で家に戻り、

学生気分を満喫し、遊んでばかりいる妹が、レポートのため家にいた。

葵がおじいと呼ぶ父の叔父に、以前から母が跡取りのことを相談していたようで、

『佐久間』の血を引く葵を差し置いて、僕が前に出ることを望まない思いが、

こうして突然の告白へつながったのだろう。

葵は、父と母をリビングに集め、全てを語って欲しいとそう言った。

父は少し迷うような表情を見せたが、僕はその方がいいだろうと、

葵の気持ちを後押しする。

途中まで知り、あとがわからないほど、息苦しい話はないからだ。

僕がどんなふうにここへ連れてこられたのか、それを隠す必要もない。


「わかった、それなら話をしよう」


葵の真剣な眼差しに、父も覚悟を決めたようだった。





今から25年前、父が経営する店に働くようになった僕の母は、

その時すでに僕を育てていた。父は、子供がいる女性だということも全て知り、

それでも母を愛し、結婚を望んだ。

『会社経営者の息子』と『バツ1で子供がいる女』では、

とうてい無理だと母は拒絶し続けたが、すでに親がいなかった父は、

親戚の反対を振りきり、母と一緒に人生を歩むと決め、その準備に取りかかった。

しかし、母は突然の病に倒れ、そして帰らぬ人となり、そこには僕が一人残された。


「真梨子の死があまりにも突然で、親がどこにいるのかも、
兄弟がいるのかさえもわからなかった。施設へ引き取られそうになる大貴を、
私が育てると宣言し、養子の手続きをとった。
真梨子がおそらく気にしていたのが大貴のことだと思っていたし、真梨子と知り合って、
結婚をしようと決めた私の、それが当然の役割だと思ったからだ」


父は僕を引き取り、本当の息子として育て始めた。

しかし、親戚は独身のまま子供を育てている父に対し、結婚を勧め、

父も家族が出来た方が僕のためにもいいだろうと、母と結婚する道を選択し、

そして、二人の間に葵が生まれた。


「葵を騙そうとしたわけではないんだ。でも、複雑な話をして、
お前たちを混乱させるのもと思った。だから、葵には大貴は兄だといい続けてきた。
実際、血のつながりはないけれど、お前が生まれる前からこの家に大貴はいたし、
幼い頃からずっと、妹としてかわいがってくれただろう」


僕も葵が生まれた頃には、まだ小学生に成り立てで、

『血のつながり』など、意識もしたこともなかった。

小さな手をしっかりと握る妹を、本当にかわいいと思い、

病気になったときには本を読んでやったこともある。

年を重ね、事情を知った後でも、葵への気持ちは変わることなく、

大学時代、バイトで初めて稼いだお金を使い、洋服を買ったこともあった。


「お父さん」

「何だ」

「そんなことだったら、早く話してくれたらよかったのに」


葵の表情は、無理をしていたのかもしれないが、

明るく普段と変わらないように見えた。

『異母兄弟』だと思っていた兄が、

全く別の家庭からもらわれてきたということを知っても、

違うと思っていたねじが、さらに1本増えたくらいの感覚しかないのかもしれない。


「そうか……だからおじいは、私が婿をもらって会社を継ぐことばかり言うし、
お母さんもお兄ちゃんには少し冷たかったんだ」

「葵……」


母は、葵の指摘に驚いたのか、僕を避けるように下を向いた。

突然の告白にはなったが、長い間つかえていたものが取り去られ、

僕の心も少し晴れていく。本当に葵の言うとおり、もっと早くに話をしていたら、

跡取りのことだって、別の展開を見せたかもしれない。


「事情はわかったけれど、
それでも私はお兄ちゃんが跡取りになることが正しいと思うわ」

「葵、あなた……」

「お母さん私には無理よ。本当はそう思うでしょ? 無理なことは期待しないで。
私は、お兄ちゃんをしっかり支えていくから」





『支えていく』





初めてだった。

会社に入ること自体が嫌で、出来たら組織の中からも外れたいのだと、

僕はずっとそう思っていたのに、葵は協力すると口にする。


「さてと、それじゃ部屋へ戻るわ。明日レポートを提出しないとならないし、
これでも忙しいの」


長い間の告白をした割には、葵の反応はあっさりしたものだった。

身構えた僕達の方が、大きくため息をつく。

階段を上がる音が聞こえ、扉が開く音が聞こえる。


「薄々気づいていたんだろうか、あいつは」

「どうでしょうか」


父は背負っていた荷物を一つ下ろし、葵が言ったように、

もっと早く話しておけばよかったかもしれないなと、笑顔を見せた。

母は、大叔父に跡取りのことを相談をしたことが父にわかってしまい、

少しばつが悪そうに、リビングから出て行く。

その時、家の電話が鳴り出し、僕は受話器を上げた。


「もしもし、佐久間ですが」


電話の相手は、以前、家の前まで葵を送り届けた彼だった。

あいつの携帯を何度も鳴らしたが、『着信拒否』になってしまい、

つながらないのだと嘆いている。

僕はこうと決めたら徹底的に進んでしまう葵らしいと思いつつ、電話を保留にした。

各部屋につながっている子機とは内線でつながっているため、

僕は葵の部屋を呼び出し、電話がかかってきたことを告げた。


『切っていいわよ』

「何言っているんだ。お前と話がしたいって、わざわざかけてきているんだぞ」

『もう別れたの、しつこいのよ』

「別れるのかどうかは勝手だけれど、きちんと納得してもらうように話をしろって。
それこそ住所も知っているんだ、本当にストーカーになるぞ」

『ストーカー?』

「あぁ……」


『思いの深さ』に反比例したその代償は重いのだと、僕は脅しを含めて、

葵にそう言い切った。それにしても、まだ22だというのに、

いったい何人と付き合えば、落ち着くのだろうか。


『わかりました!』


葵はそこから内線を切り、外線にかかってきた彼の電話を取ったらしく、

今まで赤だったランプが、そこで緑に変わる。

僕は誰もいなくなったリビングでその日の新聞を捜し、開いてみた。

1枚の広告が、テーブルの下にはらりと落ちる。

駅前に大きな宝石チェーン店が出来たことは知っていた。

6月の花嫁を意識した『ブライダルリング』のフェアが行われるのだと、

リングやネックレスが輝く姿を見せる。



沙織だったら、どんな形のリングが似合うだろうか。



小粒でも品のいい石をつけた、真ん中のリングに目が止まる。

彼女の細い指に、誓いのリングを通す日が、早く来るようにしなければと、

ちらしを新聞に挟んだ。すると階段を下りてくる音がして、葵が姿を見せる。


「話したのか?」

「うん、もう別れますってハッキリと言ったの」

「そうか……」


幼い頃からそうだった。好きだと思ったものを手にするまで、

絶対に諦めないのが葵だった。逆に嫌いだと思ってしまうと、

どんなに高価なものでも、平気で捨ててしまう。


「もう……いらないから……」

「いらない? 何がいらないんだ」


かけていた手を離し、葵はリビングの扉を閉めた。

『カシャン』といういつもの音が、僕の耳に妙な響きを残す。


「よかった……今日、電話がかかってきて」


葵はゆっくりと僕の前に座ると、

僕が新聞に挟んだ宝石のちらしを取り出し、じっと見続ける。

時々笑みを浮かべ、何かを考えているような表情が、

その場を離れようとした僕の足を、止めてしまう。


「素敵な宝石……」


妹と、ただリビングにいるだけなのに、

この息苦しい場所から、早く出なければならないと、体が僕に訴えかける。





「私……もう、彼氏はいらなくなったって、そう言ってやったの」





葵はそういうと、あらためて僕の方を向いた。

その目は初めてみる目で、葵の口元は何かを見つけたのか少しだけ上がる。





「ねっ……」





妹が見せる『女の顔』に、僕は正体のわからない恐ろしさを感じながら、

無言のままリビングを後にした。





次の日、僕は出社をした後、一通りの仕事を終え『Tosp』の研究室に向かう。

データを取るため、所属選手たちが大きな機械を取り付け、

ランニングマシンの上で走っていた。

二人のうちの一人は、あの特別生になっためぐみで、

すぐに根をあげるかと思っていたのに、

データが全て取り終わるまで、一度も休憩なしで走り続ける。


「すごいんだね、君の持久力は」

「毎日家からここまで、走ってくるんです。その方が交通費も浮きますし、
練習にもなりますし」

「家はどこ?」

「……あ、大貴さん、女性の家をそう簡単にたずねてしまうあたり、
相当なプレイボーイですね」


そんなことは全く考えていなかった。

10も年が離れると、これだけ考え方が違うのかと、僕はおかしくなる。


「そんな趣味はないよ。ただ、距離がどれくらいか知りたいだけだ。
最寄り駅はどこなのかって、そう聞いたつもりだったんだけどね」

「あら……」


めぐみも、本当はそれをわかっていたようで、ケラケラと楽しそうに笑い続ける。

小さくて、後ろから押せば倒れそうな子だったけれど、

どこか秘めた力がありそうで、僕はめぐみから目が離せなくなった。





「そうなんだ、葵ちゃん知ったのね、全て」

「あぁ、でも、どこか気づいていたのかな、思ったよりもあっさりとしていたよ」


それから3日後、僕は沙織と待ち合わせをし、いつものように時を過ごした。

あらかじめ抑えておいた部屋で、互いのぬくもりに『幸せ』を感じていく。

彼女の思いが僕の指先に触れ、その艶やかな感覚は、全身へ向かう。

微妙に触れる部分を変えていくと、汗ばんだ沙織の頬が、

さらに赤く染まっていくのが見えた。


「正直だな……沙織は」

「そう?」

「あぁ……何をして欲しいのか、すぐにわかる」


彼女の体をすべるように進み、指先に感じた思いを、僕の唇に乗せる。

脚を折り曲げた向こうにある沙織の肩が、その瞬間グッと大きく力を入れてそられ、

反抗したい指先は、僕ではなくシーツをつかみあげる。

しばらく彼女の香りに包まれていると、自然に思いは鼻に触れ、

そのまま顔を上げていくと、沙織は僕の鼻にそっと口付けた。


「ただいま……」

「……もう……」


沙織と触れ合う時間は、なにものにも変えがたく、

彼女を抱くこの腕は、何よりも温かみを感じ取る。

僕の全ては、彼女のためにあり、



そして……



僕の思いは全て、沙織に向かった。





しかし、『幸せ』だった僕らの時間は、突然断ち切られる。





沙織の父親から呼び出されたのは、それから5日後だった。

大事な話があると言われ、指定された店へ行くと、すでに秘書が立っていて、

僕に頭を下げてくる。

僕は、これから何が起こるのかわからないまま、静かな渡り廊下を進み、

そして、父親の前に座った。


「悪いな、大貴君、急に呼び出したりして」

「いえ……」


僕の前におかれたのは、茶色の封筒で、

中には相当な枚数のレポート用紙が詰まっていた。

なにが書いてあるのか見てみたかったが、勝手に見ることは許されないだろう。


「結論から、先に言わせてもらう」

「はい」

「娘とは、別れてくれ」


突然放たれた、ナイフのようなセリフは、

僕の心をずたずたにするのに、十分すぎるくらいの鋭さだった。







4 父の影

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コメント

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何?何?

葵ちゃん畳み掛けてきますかね。
『支えていく』が、ちょっと怖い(@@)

沙織へのリングの想像もしている最中
その父からの呼び出し、そして『別れてくれ』宣言

何があるのその封筒に???
今更親の事も無いと思うけど・・・・
いや~~ん心配

封筒を開けると!

yonyonさん、こんばんは

>『支えていく』が、ちょっと怖い(@@)

あはは……そうそう、怖いでしょ?
『ももドラ』を確立中ですので、
色々とあるのです。
葵の気持ちがどうなるのか、
それはまだまだ、これからです。

>何があるのその封筒に???

yonyonさんと同じように、大貴もそう思っているはず。
謎のまま、4話へ続きます!
いつもありがとうね。

拍手は気持ちだと思ってますよ

拍手コメントさん、こんばんは

>拍手をする内容とは違うかも知れませんが、
 どんどんドキドキ感が増しています。

あはは……確かにそうかもしれませんね。
追い込まれている大貴なので……

でも、拍手は嬉しいですよ。
読んでくれているんだなって、わかりますから。

ドキドキが増しているのなら、さらに嬉しいです。
大貴がどうなっていくのかは、言えませんが、
『戦う』ことだけは、宣言しますね。

何かが、起こる

yokanさん、こんばんは

>我儘なお嬢さん、
 兄を手に入れるまで相当頑張るんだろうな~ハァ~(ーー;)

yokanさんにため息をつかれちゃったよぉ(笑)
葵がどうするのか、今は言えませんけどね。
まぁ、『ももドラ』ですので、
何かあるでしょう。

さて、レポート用紙の意味、は、
次回にわかります。
これからもお付き合いよろしくお願いします。

楽しんで下さい

拍手コメントさん、さらに、さらにこんばんは

>あらすじを読んで、気になったので、読み始めました♪

ありがとうございます。
これは、以前、別の方に、

『あなたの創作は、昼ドラのようですね』

と言われたことがあり、それを意識して作りました。
私のイメージの昼ドラです。
出生の秘密、いじめ、ドロドロ……などなど(笑)

どうか最後まで、楽しんで下さいね。