38 過去を知る男

38 過去を知る男


杉町は、僕らから取り上げた『笠原運輸』の倉庫跡地に、

『Takamiya』と取引をする企業の、アウトレットショップを建設し始めた。

高速道路の近くであるという好条件から、形が出来てもいないのに、

店舗を入れたいという声はあちこちから上がる。


「『Takamiya』のブランドを持ちながらも、東京はあくまでも別展開をするようだな」

「そうですね」


『Takamiya』で同じように商売をしている他業種の企業には、

取引予定があるのなら、優先的に受け入れる内容の書類が届いているようだったが、

『Tosp』には何も連絡が入らなかった。


「『SS』の拠点と目と鼻の先ですし、
しかも、あの場所は『Tosp』から奪ったようなものです。
そんな曰く付きの場所で、商売などする気持ちはないですから」

「そうだな……」


父は、ドライバーを丁寧に磨き、ケースにしまった。

今日は昔から親しくしている友人と、久しぶりにコースを回る約束をしていて、

そろそろ迎えの時間が迫ってくる。

携帯電話が鳴り、相手の車がビルの前に到着したと連絡が入ったため、

僕も挨拶をしようとビルの玄関前へ行くと、

運転手がすぐに出てきて頭を下げてくれた。


「よろしくお願いします」


僕は運転手と中に座っている父の友人に、それぞれ頭を下げた。

確かあの人は、どこかのスーパーを経営している人だ。

カラオケが大好きで、確か展示会の時挨拶をしたが、ノドの調子が悪いと照れていた。


「お前が働く姿なのに、悪いな、大貴」

「何を言っているんですか。社長こそいつも遅くまで働いているんです。
少しはストレスを発散してください」


広報の尾崎さんが横に立ち、一緒に出発する父を見送った。

車が完全に見えなくなったとき、

尾崎さんが、見てほしいものがあるから部屋へ行きますと頭を下げてくれる。

今日は『Tosp』のシステム管理を頼む企業と打ち合わせがあった。

しかし、時計を見るとまだ時間までには余裕がある。


「まだ出かけるまでには時間があるから、いつでも……」


何気なく受付の前を見た時だった。

白髪混じりの、中年男性がその場に立っていて、

僕の方を向くと、少し表情を崩した。

営業部や総務部にでも来たのかと思い、そのまま視線を外す。


「おいおい……」


受付の女性にでも語りかけているのかと思い、そのままエレベーターへ向かう。

階段から降りてきた社員が僕に気づき、しっかりと頭を下げた。


「おいおい、ちょっと!」

「すみません、何か……」


その男は、受付の女性ではなく、僕と尾崎さんに向かって話しかけてきたようだった。

アポイントもないのに、僕らに直接声をかけてくる企業など、今まで一度もない。

あまりにも失礼な態度だと思ったのか、尾崎さんは僕から離れてその男の下へ向かう。


「先にお戻りください」

「あぁ……」


僕はちょうど開いたエレベーターに乗り込み、体を扉の方へ向けた。

失礼な男は尾崎さんの背中越しに、じっと僕を見ている。





どこかで会ったのだろうか……





展示会、他企業のパーティーなど、数え切れないくらいの人と会っていることは事実だ。

確かに全ての顔と名前を、記憶しているかと言われたらそうではない。

しかし、あの顔を見た覚えは、どこにもなかった。

それでも、なぜか心にひっかかる。





部屋へ入り、こなさないとならない仕事をし始めたが、

すぐに戻ってこない尾崎さんが気になり、受付へ連絡を入れてみた。


『はい』

「尾崎さんは、まだそこにいる?」

『あ、いえ……今、こちらを離れてエレベーターの方へ向かわれました』

「そう……」


部屋の時計を見ると、軽く10分は経過していた。

失礼な客の応対にしては、時間がかかっている。

色々な試みを増やしたために、確かに抱えたトラブルも増えたことは増えた。

それとも、うちの業績を見た会社の、無理な売り込みだろうか。


「少し前に受付前にいた男性は、どこの企業の方か、わかったの?」

『はい、『Takamiya』の方だと』

「『Takamiya』?」


僕がそう答えた瞬間、扉が開き、書類を片手に持った尾崎さんが入ってきた。

受付との電話を切り、事情を知るはずの尾崎さんに何があったのかと問いかける。


「申し訳ありませんでした。話がよく見えなくて。
でも、書類の中身はいたずらではなさそうでしたので、私がお持ちしました」

「書類?」

「はい、『Takamiya』から書類を持ってきたそうです。
どうも、今度オープンするアウトレットの話が書いてあるようで」

「アウトレット?」


今朝、父と話題にしたアウトレットの店に、

出店しないかどうかの誘いが、入っているのではと尾崎さんは言い、

僕の目の前に書類を置いた。他の企業は全て郵送で書類が届いているはずだ。

なぜ、『Tosp』にだけは直接持ってきたのだろう。


「それが、おかしいのです。書類は本物だと思いましたが、
見たこともない人でしたので、出来たら名刺をいただけないかと頼みましたが、
持っていないと言いまして」

「名刺を持っていない? それで取引先へ来るとはどういうことだ」

「はい、自分はここへ書類を届けるように言われただけで、
中身のことも何も知らないと、そう言うだけでした」


尾崎さんの話を聞きながら、僕は書類を開けた。

確かにアウトレットの店に出店するつもりがないかという誘いで、

詳しい設計図や見取り図も入っている。


「名前だけでも教えてくれと言って、それだけは聞きました」

「うん……」





「進藤満と言うそうです」





進藤満……





同姓同名なのかもしれない。

そんな苗字を持つ中年男など、日本中を探せば何人もいるはずだ。


いや、しかし……

あの男を『Tosp』へ寄こしたのは、杉町だ。





僕が、あの男をどこかで見たような気がしたのは、

会ったこともないのに、なぜか覚えがあるような気がしたのは、

それが全て、『血のつながり』というものなのだろうか。





なぜ……こんな時に……





どうして、『Takamiya』にいるのだろう。





本物なのか、それとも……

また、僕を揺さぶるために、あいつが使っている罠なのか。





「どうされましたか。進藤という男を、ご存知なんですか?」

「あ……いや、思い出そうとしたけれど、記憶にない」

「そうですか。私も記憶にないのです。社長はご存知なのでしょうか」


僕は書類をデスクに置き、冷静に尾崎さんの話を聞いているつもりだったが、

そこから先の話は、全く頭に入ってこなかった。





僕を産み育てていた母と別れ、警察に世話になるような人生を送っていた男。

望んでいたわけでもないけれど、僕と血のつながりを持っている、唯一の男。





部屋へ戻り、僕は佐久間の家から持ち込んだ、『進藤満』の資料を取り出した。

沙織との結婚を反対した父親が、親の過去を調べた資料だ。

亡くなった母が、佐久間の父と出会うまでのことは書いてあるが、

その後の『進藤満』については、それほど細かく触れていない。

執行猶予になった後、さらに逮捕された過去を持つ男。

この世のどこかに生きているとは思っていたが、こうして目の前に出てくるなどと、

全く考えていなかった。

しかも、『Takamiya』の内部に入り込んでいるとは。



『このまま……上手く行くと、思うなよ……』



以前、杉町とすれ違った時、確かにあいつはそう言った。

『進藤満』がどこにいて、どんな生活をしていたのか、あいつは全て知っていて、

こうして時を待ち、僕の目の前に送り出してきたのだろうか。


沙織が声を失い、そこから少しずつ元の生活に戻す中で、

僕との時間を、着実に積み上げてきた。

確かに、彼女の父親から正式な許しを得たわけではないが、

鋭かった氷は、以前ほど冷たくはない。

しかし……


僕を見ていたあの男の目を思いだし、資料をしまいながらこの先、

何をするべきなのか、相手の動きをどう読むべきなのか、

静かな部屋の中で、一人ただ無言の時を過ごし続けた。





『Takamiya』から、アウトレットへの参加書類が届いたが、

『Tosp』にはそんな予定はなく、書類は管理されたまま1週間が過ぎた。

『世界大会』に向け、めぐみが日本を離れる日が明日となり、

僕は仕事のスケジュールをやりくりし、研究室へ向かう。


「いよいよだな」

「はい……」

「緊張するだろうけれど、お前らしく諦めずに走ってこい」

「はい」


めぐみは何度か海外へ遠征することもあったため、

荷物作りも全て済んでいると笑顔を見せる。

『陽香里』にいる母から、励ましの手紙が届いたと嬉しそうに報告してくれた。


「そうか、あのパワフルなお母さんも、緊張しているだろうな」

「はい……」


色々と話しかけても、めぐみからの返事は『はい』の一言だけだった。

何か言いたいことがあるのではないかと思い、逆に黙ってみる。

めぐみはすぐに語らなかったが、僕がどうして黙るのかわかったようで、

少し照れたように笑顔を見せる。


「私、約束してもらいました」

「約束?」

「上杉さんのお店に、行ってきたんです」

「肇の?」


めぐみはコクンと頷くと、そのままひざを抱え下を向く。

肇はめぐみが来たことに驚いて、すぐ怪我をしたのかと心配した。


「『世界大会』が終わったら、一緒に食事をしてくれませんかって、私、
上杉さんに言いました」

「うん……」

「何か目標を持った方が、頑張れる気がして……」

「うん……」


『世界大会』に出場する選手が、そんなことでと言う人もいるかもしれないが、

僕にはそのめぐみの言葉が、ストレートに響いた。

人を好きになる気持ちは、いつでもまっすぐで無色なのだろう。

ただ、その人を思い、そばにいたい、そう心が訴える。


「あいつ、OKしてくれたのか?」

「……はい」


めぐみのまっすぐな思いが、肇に通じたのならそれでいい。

その日の僕は、妹の恋愛を応援する兄の思いでいっぱいになった。







39 スキャンダル

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コメント

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次男・・・

オイオイ次男。今度は何をする気?
大貴の父親(大貴はそう思ってないだろうけど)
そんな男を担ぎ出してきて・・・
揺さぶりをかけるだけなのか?
他に何か目的が?
アウトレットに出店しないと?
やな感じ(--;)

めぐみの思いが通じたようね。肇君は『ホッ』かな?

まとまるよ

yonyonさん、こんばんは

yonyonさんにしては、珍しい時間だわ。

>オイオイ次男。今度は何をする気?

何をする気なのでしょう。
そして、大貴をめぐる数々のことが、
全て一つへまとまっていきます。
杉町とのこと……全て含めて、
最後までお付き合いくださいませ。

めぐみはいつも前向きなんだ。
大貴も励まされていると思うし、
肇もきっと、嬉しかったはず。

ノート

へへへ・・珍しい?

ほら、PCがノートになったから(^^)
今はリビングでポチポチしてます。(ワイン片手に 爆)

いや~~なんだか新鮮

ノートはね

yonyonさん、さらにこっちもこんばんは

『創作ノート』はね、内容を書くわけではなくて、
人物相関図とか、エピソードのおおまかな内容とか、
そんなものを書き記してますよ。

ワイン片手にポチポチかぁ……
飲めない私には、あり得ないぞ

出ました

yokanさん、こんばんは

>なんと、実父が出てきた(@@;)

エ! 本当? 予想外だった?
『進藤満』が出てきた意味、その後ろに杉町がいる意味
全ての波紋が、つながり出します。
もう少し、お付き合いください。