50 隠れた真実

50 隠れた真実


めぐみは、『世界大会』への準備を兼ねて、新潟へ単独の練習に出かけていた。

コーチの八幡がそばにつき、今日もいつもどおりのスケジュールをこなしていたという。

沙織にも、念のため気をつけるように話し、僕はすぐに『Tosp』へ戻った。

混乱していた情報は、その後の『新潟県警』からの情報でまとめられる。


めぐみは確かに崖から滑り落ちたが、運ばれる救急車の中でも意識はしっかりして、

救急隊員の問いかけにも、問題なく応えたという。

むしろ、めぐみに向かってきたと思われる車の運転手の方が、

急カーブを切り、そのまま反対側の斜面へ激突したため、

額を切り肋骨を折る怪我をしたという。


「めぐみはアスリートだ。見た目でどうのこうのではなくて、
きちんと検査をしてもらってくれ」

「はい、八幡にそのように伝えてあります」


状況を知るために、陸上部のヘッドコーチと肇が新潟へ向かってくれた。

僕はただ、めぐみに大きな怪我がないよう、祈ることしか出来ない。





「車が石垣に向かってきたとは、どういうことなのでしょうか」

「うん……」

「警察からは、今までもそんなことがあったのかどうかと、聞かれたようですが」


僕には、その車の運転手が誰であるのか、なんとなく予想が出来た。

進藤満は、杉町につれてこられるまで、自動車教習所の教官をしていた。

運転技術には自信もあるだろう。


杉町は、昔沙織にしたように、世の中から進藤を切り離し、

過去の事件の責任を問い正した。進藤満にかけたお金の清算も迫ったかもしれない。

追い込まれた進藤は、自分の余命と、間接的に関わった放火事件の大きさと、

僕からの言葉を全て受け止め、杉町の指示通り、めぐみを犠牲にしようと試みた。



あくまでもこれは推測に過ぎないが、おそらくそんなところではないだろうか……



『お前の大切なもの……』



また、罪のないめぐみが、恨みの中に巻き込まれるところだった。





「それにしても、めぐみちゃんが大きな怪我もなくてよかったわ」

「あぁ、でも、それまで誰と会ってもしっかりとしていためぐみが、
肇の顔を見て、大泣きしたらしい」

「そう……ほっとしたのよきっと。上杉君が来てくれたことで」

「そうだね」


めぐみは打撲などはあるものの、滑り落ちた途中にあるくぼみに、

体が止まったことが幸いし、骨折などのダメージは受けなかった。


しかし、落ちた場所が、もう少しずれていたらどうなっていたかと、

現場を見たヘッドコーチは顔を青くしたという。


「運転手は、進藤満だった」


沙織にも、僕が言おうとしていることは伝わったのだろう。

無言のまま頷き返す。

杉町が車の中にいたという情報はないため、確かなことは言えないが、

この事故は間違いなく、めぐみを狙ったものだろう。


しかし、進藤満は警察の事情聴取に、一貫して『居眠り運転』をしていたと、

説明したようだった。警察が行った現場検証でも、事故の少し手前から

ふらつきながら急にブレーキを踏んだあとがいくつか残っていて、

急カーブを切った場所でも、タイヤが焦げ付いた跡がしっかりとついているらしい。

これだけ状況証拠が揃うと、『居眠り運転』という結論を出すのに、違和感はなかった。



そして、怪我が回復したら東京でもう一度、警察と話をすることを条件に、

佐久間の父が身元引受人となった進藤満は、

めぐみとは別の便で東京の病院へ入ることになった。





杉町は、この結果を、どこでどう見ているのだろうか。

唇を噛みしめたのか……それとも……





めぐみは東京へ戻り、軽いリハビリを始めた。

体のバランスが崩れてしまうと、フォームに無理が出る。

僕はあいつの好きなサンドイッチを見舞いにすると、病室の扉を叩いた。

事故から1週間が経ってしまい、見舞いに来るのが遅いと膨れるだろうか。




「大貴さん、遅いじゃないですか!」




めぐみは全く病人らしくなく、僕の思った通りのセリフを言うと、

明るく笑顔を見せた。


「肇が来ていたんだから、僕が来る必要などないだろう」

「ん?」


僕は嫌味を付け足した後、見舞いのサンドイッチをテーブルに置くと、

体の調子はどうだと問いかける。

めぐみは自分の腕や足を軽く叩きながら、指で小さく丸を作った。


「精神的なダメージがないと言ったらウソですが、でも、体は大丈夫です。
青あざは何箇所か残っていますけど、軽く走っても違和感はないですし」

「もう走っているのか」

「体は使わないと怠けるんですよ。
お医者様にもちゃんと許可をもらってしていることですから、心配しないでください」


めぐみは、僕の前ではいつも明るく振舞ってくれる。

それは、めぐみが本当に強く、優しい人だからだろう。

僕は、この笑顔に何度励まされ、勇気をもらってきたことか、

だからこそ、進藤満と自分の関わりを隠しているわけにはいかないと、

めぐみに全てを語った。




『今すぐ……消えてくれ』




あの日、僕があの言葉を進藤満に投げつけなければ、

あの人はこんなに無謀なことをしなかったかもしれない。

いや、父に言われた通り、もっと早く杉町から離していれば、

また違った出来事があったかもしれない。

過去を後悔することは、何よりも空しいことだとわかっているのに、

僕はそうせざるをえなくなる。


「大貴さん、私、頭の中でずっと、浮かんでいることがあって……」

「浮かぶ?」

「はい。でも自分自身で絶対の自信がないから、黙っていました」

「何?」

「あの日、確かに車がスピードをあげて、私の方へ向かってきたんです。
八幡コーチは、反対側に立っていたので、何もわからないはずですけれど……」


めぐみは思い出そうとしているのか、僕から視線を外し、少し下をじっと見る。

何があったのかとせかしてはならないと思い、僕も黙ったまま次の言葉を待った。


「右は崖だし、道はその反対にカーブを切っていたので、
逃げる場所がないと思ったとき、見えたのは……」



究極の場面に立たされためぐみが、その目に見たもの。



「運転手さんが私に向かって、道路の方へ逃げるように、手を動かしていたんです」

「手?」

「……だと思うんです」


めぐみは、結局、視線を落としたときに見えた大きな石の上に足を乗せてしまい、

バランスを崩して下へ転落した。しかし、途中のくぼみに引っかかり、

大きな岩が転がっている場所にまでは行かなかったのだ。


「そうだと思うんです。でも、運転手の人が『居眠り運転』だと言ったことを聞いて。
もしかしたら、夢の中に出てきたシーンだったのか、現実だったのか、
頭で整理がつかなくなってしまって」


めぐみは、進藤満は最初から自分を轢くつもりなどなく、

そのまま車ごと転落するつもりだったのではないかと、言葉を続けた。

しかし、当人の進藤満が『居眠り運転』だと通し、

現場にそれらしき証拠が残っている以上、それを立証するのは難しい。


「あれから何度か、夢を見たので……」

「そうか……」


もし、めぐみが言うことが本当なのだとしたら、

進藤満は、全てを背負いこの世を去ろうとしたのだろうか……



何も僕にはわからない……





めぐみを見舞った後、僕は会社へ向かう道を走った。

途中で大きな右カーブのある道へ差しかかる。



『運転手さんが私に向かって、道路の方へ逃げるように、手を動かしていたんです』



スピードを出しながら、冷静に目の前の相手に指示を出せるだろうか。

『居眠り運転』から飛び起きたのだとしたら、そんな時間はないはずだ。

めぐみを右へ逃がそうとしたのなら、やはり……



車にブレーキをかけて、カーブの場所で止まる。



「はぁ……」



僕は大きく息を吐き、ハンドルに顔をうずめる。

何も語ろうとしない進藤満。

以前僕に見せた力の抜けた顔が、何度も脳裏に浮かんでは消えた。





僕が会社へ戻ると、デスクの上に小さなショルダーバッグが置いてあった。

どこかで見覚えのあるものだと手に取ったとき、

それが進藤満のものであることがわかる。


「副社長、戻られたのですか」

「尾崎さん、これは誰が」

「社長がお持ちになりました。警察から戻されたそうです。
副社長に届けさせるように伝えて欲しいと……」


ショルダーバッグの下には、進藤満の免許証入れが別に残っていた。

黒い皮製で少し色が落ちた部分もある。

それを開き中を見ると、あの人の生活を支え続けた免許証があった。

その反対側には……





色が少しあせてしまった1枚の写真……





まだ目を閉じたままの幼子と、優しく微笑む母の姿。





この写真は……





僕だった。





『命名 大貴』


写真の裏に、消えかかっていたけれど、ボールペンでそう残されている。





『大貴』という名前をつけたのは……





あの人だった。







51 波紋の行方

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コメント

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ついに

pocoさん、こんばんは

>こんばんはついに次回は最終回なのですね。
 大貴は、一枚の写真に何を想ったのでしょう。

はい、なんとか最終回までたどり着きました。
大貴の思いを感じ取りながら、お付き合いください。

いよいよ

めぐみが無事でよかったよ~~~(ホッ)
肇君、泣きつかれて嬉しかったか?コラコラ

ももドラもここまで来ましたね。
昼どらのドロドロ感、十分に出ていましたよ。

さてさて次回は最終話。どんな大団円が待っているかな?

ありがとうね

yonyonさん、こんばんは

>昼どらのドロドロ感、十分に出ていましたよ。

ありがとう!
そう言ってもらえると、また調子に乗るよ、私(笑)
どうか最後までつきあってね。

ラス前です

yokanさん、こんばんは
昨日は、コメントに気づかず、お返事が遅れてすみません。

>杉町の件は自分でケリをつけたかったんでしょうね。
 今はそう思いたいです。

めぐみの見たものが本当のことなら、
進藤の思いは、そこにあったのではないか……
大貴も思っているはずです。

次回は最終回です。
いつもお付き合い、ありがとうございます。
ぜひ、最終話も……