51 波紋の行方

51 波紋の行方


進藤満の生活を支え続けた免許証と、ともにあった1枚の写真。

僕の人生は、間違いなくこの人の存在から始まった。

この人が……

僕をこの世に送り出した。





彼がどんな生き方をしようと、それだけは変えようのない事実。





事故のショックからめぐみが立ち直り、『世界大会』へ向かって再スタートを切った日。

僕は進藤満が入院している病院へ、初めて足を運んだ。

体力が回復してから、肺の手術を勧められたが、すでに他の箇所への転移も見つかり、

あの人も、無理な延命治療は望まないと宣言したようだった。

個室の扉を軽く叩き、ゆっくりと開く。

進藤満は、一度僕の顔を見たが、すぐに逸らした。


「はぁ……落ち着かねぇなぁ、全く。人が入ったり出たり」

「それだけのことが言えるのなら、心配は無いようですね」

「心配なんてしてないだろうが、お前にとってはお荷物なのもわかってるよ」


相変わらずの態度だった。

それでもその挑発に乗って、この場を去るわけには行かない。


「警察から戻されました、ここへおきます」

「ん? あぁ……どうも」


進藤満は布団を深く被り、僕に背を向けた。

確かに、体がまた小さくなった気がする。


「お聞きしたいことがあります。答えてもらえますか」

「なんだよ、改まって。答えてやるよ、お前が望むならさ。
こうして病院に入れてもらっているんだ、文句なんていえた立場じゃないだろうしな。
あの佐久間の父親っていうのは、頑固だぞ、全く……」

「『居眠り運転』をしていたというのは、ウソですね」


単刀直入に、僕は事実を突きつけた。

進藤満は、表情を見せたくないからか、背を向けたままだ。


「ウソじゃねぇよ、警察にもそう言ったし、そんなウソをついてどうするんだ」

「めぐみは……あなたが手で逃げるように指示をしたと、そう言っていました」


めぐみが夢を見たわけではない。

進藤満が、逃げるように指示を出したのだ。

自分がいなくなることで、全てを終わりにしようと考えて……


「ばかばかしい。お嬢さんは恐怖の中で、きっと幻を見たのでしょう」

「ふざけないでください」

「ふざけてなんているか! 俺がウソをついてどうなるって言うんだ。
もう、帰れ、帰れ!」

「杉町をかばうためですか」

「なんで杉町さんが出て来るんだよ、あの人には関係ないだろうが……」

「放火事件のことを聞き、あなたを追い込んだのは杉町のはずだ。
教習所から引き抜いた時のお金や、過去の事件の清算を求めて……」


自分を愛してくれた祖母を奪った放火事件。

そのきっかけを作った進藤満への、これは復讐だったはず。


「……金の返済を求めて? で、なんだっていうんだ」

「言うとおりにしろと……」


進藤満は、僕に背を向けたまま、こちらをバカにするように笑って見せた。

何秒かのことだろうが、とてつもなく長い時間を感じてしまう。


「言うとおりにしろ……か。あぁ、ばかばかしい。
そんな戯言に付き合っている暇は無いんだよ。とっとと帰れ」

「本当のことを……」

「だから言ってるだろうが、『居眠り運転』だ!」


進藤満は、そう声を出すと、ナースコールのボタンを押した。

看護士が廊下を走る音がして、扉が開かれる。


「どうしました進藤さん」

「あぁ……看護婦さん。なんだか頭が割れるように痛くてさぁ、傷口開いてないか」

「エ……今見てみますね。ほら、動かないで」


看護士は僕に頭を下げると、すぐに包帯を確認し始めた。

脈を取ったり、点滴を調節したり、慌しくなる。




きっと……

何度聞いても、『居眠り運転』としか言わないつもりなのだろう。




僕はショルダーバックをテーブルの上に乗せ、そのまま病室を出た。


あの人が本当のことを言うことはない。

黙ったまま、全てを背負う覚悟を決めていたのだから……。

大切にしていた免許証に挟まっていた写真、

戻らない時を後悔する気持ちが少しでもあったのなら、

亡くなった母も、気持ちが晴れるだろうか。

不器用で、どうしようもない人だけれど、その中に、かけらでも……

愛情があったのだと……思うべきだろうか。





進藤満は、病院を退院すると、とある『ホスピス』へ入った。

体が動く間は何かをしていたいと、小さな畑を耕したり、

施設のメンバーがかわいがる犬の世話を買って出ているらしい。







緑が眩しい季節から、木々は葉を赤く染め、

やがてまた新しく生まれ変わるようにと、自らの輝きを終え落ちていく。

僕らの季節も流れ続け、この事件から1年が経過した。





『Tosp 石垣めぐみ 世界大会ラストラン』





めぐみが『世界大会』での引退を決め、それを知ったスポーツ誌が1面に掲載した。

同じ大会で自己新記録を更新し、次世代の期待がかかる三輪が、同じ写真に並んでいる。

めぐみは後輩の成長に、嬉しそうな笑みを見せた。


まだ引退するような年齢ではないが、本人はしっかりと次の道を定めている。

石垣めぐみは、上杉めぐみになることを決めた。





「僕は、日本中を敵に回したようです」

「何を言っているんだ。めぐみが自分で決めたことだ。
『陽香里』のお母さんだってそれを喜んだだろう」

「そうなんですが……」


本格的に家業を継ぐと決めた肇は、時々こうして僕のところへ遊びにやってくる。

二人を見続けてきた、血の繋がらない仮の兄としては、

こうして幸せへ向かってくれることは何よりの喜びになる。


「『Tosp』はめぐみがいなくなっても大丈夫だ。三輪もこの通り伸びてきたし……」

「あ……それをめぐみの前で言うと、怒りますよ」

「わかっている」


副社長室のトロフィーも、1年でまた数が増えた。

『Tosp』は今や、社会人で長距離を走りたい学生の人気企業になり、

今年もまた、優秀な社員が門を叩いてくれた。


「沙織さんの体調はどうですか?」

「あぁ、うん。軽いつわりはあったようだけれど、今は安定していて、
あちこち動いているよ。今日も……」


僕と沙織は秋に結婚し、今、彼女は妊娠5ヶ月を迎えている。

来年の春、僕が社長になるときには、もう一人喜んでくれる人が増えるはずだ。

進藤満と僕とは、あの日以来、何も言わない関係のままだが、

その気まずさを沙織が紡いでくれている。

残りの人生などどうでもいいと言っていたくせに、

少し体の弱ったときも、沙織が会いに行くと、

『赤ん坊の顔が見てみたい』と笑顔になるという。



結局、進藤満は『居眠り運転』だと押し通し、

あの事故の中に、杉町の名前が出てくることはなかった。



僕は今でも、めぐみの言っていたことが本当だと思っている。

進藤満は全ての罪を背負い、自らの命と引き換えに、

『波紋』を消そうとしたのかもしれない。



人を憎み、落としいれ、

その罪にまた……誰かが暗い影を見る。



僕が、全てを許したのかと聞かれたら、簡単には頷けない。

それでも、何かは変わった……そんな気がする。


「葵ちゃんの運転で、大丈夫ですかね」

「あぁ……それが一番心配なんだ」


沙織が『ホスピス』へ行くのを知り、いつの間にか葵が付き添うようになった。

取りたての免許だった春から、運転技術もずいぶん進歩したと本人は言っているが、

佐久間の母は、駐車場に入れるときにも、ハラハラすると笑う。





「沙織、あと一つ仕事を終えたら戻るから」

『はい、お義母さんにそう伝えておきます』

「あぁ……」


車は『SS』の拠点となる場所を通り過ぎ、

『Takamiya』の経営するアウトレットショップに入った。

3列に並ぶそれぞれの店舗があり、その一番隅に立つと、

僕の到着を待っていた尚道さんが頭を下げてくれる。



そして……



その一番奥に、杉町が立っていた。





「すみませんでした。なかなかこちらへ来られなくて。もう完成に近いのですね」

「はい、『Tosp』の店舗が入るのは、こちらとしては本当に心強いです」

「ありがとうございます。
『Tosp』もこうして色々な企業と肩を並べていただけることは、
本当に光栄だとそう思います」


『Tosp』は、この場所に初めて出店を決めた。

このアウトレットが出来たときとは違い、力を発揮する店、

イメージだけで勝負に負け撤退した店、時間がそれぞれの明暗をわける。

『Tosp』は当初提案された場所よりも、よりポジションのいい場所を確保した。




望まれる企業に、なったのだ。




尚道さんは『Takamiya』の統括を勤めていて、

以前より頻繁に東京へ足を運ぶことになった。

東京を全てしきっていた杉町は、尚道さんの少し後ろに並び、黙っている。


誰もあれから、事件のことを話そうとはしないが、無視していい話だとも思っていない。

息子の待遇が悪くなったことを、母親が長男に追求することもなく、

影に隠れていた井ノ口雅美は、正式に杉町と籍を入れた。



何も知らない、あのもみじの手を持った子供が……

いつか、この大きな企業を継いでいくために……



「お久しぶりです」


僕の言葉に、杉町は無言のまま横を歩く。

以前のように何か挑戦的な言葉を投げるかと思ったが、弱い風が頬に触れるだけだ。



「あなたへの憎しみから、僕は変わったのだとそう思っていました」



ゆっくりと進んでいた杉町の、足が止まった。

伝えたいことがあるのだ、勝手に去られては困る。



「でも……それだけではないことがよくわかりました」



そう……僕にはわかったことがある。

これだけは杉町に伝えておきたい。たとえ、この男が何をどう感じようとも。



「『愛しさ』よりも強いものは、この世にないようです」



僕は、側に立っていた尾崎さんに合図をすると、そのまま店舗内へ歩き出す。

『Tosp』がさらなる展開を見せるはずの店内には、

これから向かう未来を示すような、明るい光が差し込んでいた。






『Ripple of the love 終』






昼ドラのような展開を目指そう! と始まった『ももドラ』も今日が最終話です。
少しオーバーな設定とセリフと……を意識して作ってみましたが、
どうだったかな。

なかなかみなさんのコメントをもらうのは難しいですが、
ここは最終回! ということで、ぜひぜひご参加下さい。
ナイショにしたい方は、
コメントの欄の下にある『管理者だけに……』の印をつけてもらえれば、OKです。
お待ちしております。
そして、ランキングポチや拍手も、よろしくお願いします。

長い間、おつきあいありがとうございました。







いつも応援ありがとう。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします *´∀`)ノ ヨロシクオネガイシマス♪

コメント

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ついに最終回・・・

ももちゃん

またまた夕方から「ももんた家のブログ」にお邪魔してました^^v

そろそろ最終話だと思い、一気に読み始めたら、最終話が今日UP!!(ラッキー♪)


ドロドロの昼メロ風 「ももドラ」

本当にいろんなことがありました。

人の思惑をつなぎ合わせ、交錯させ、結末へ導く

さすが! と拍手 ^^/


このいりこんだ状態を、どのように解決するのかワクワクしながら読み進めましたヨン

「許すこと」・・・これに尽きますね。

負の連鎖 恨みの連鎖 広がる波紋

題名の意味はそうだったのかと・・・


長い連載、お疲れ様でした。

次なる挑戦も、待ってますから~! 

お疲れ様

『ももドラ』楽しませていただきました。
色々ありながらも、何か一つの答えが見つかった気がして、
ほっとしました。
杉町に、もっとやり返して欲しいとも思いましたが、
それでは波紋が終わらないですよね。
ももんたさんの次なる連載を待っています。

ありがとう

なでしこちゃん、こんばんは
さっそくの感想をありがとう。
今年は、色々と忙しいのに、こうして読んでもらえて嬉しいです。

>人の思惑をつなぎ合わせ、交錯させ、結末へ導く

そんなふうに見てもらえたら、いいんだけど。
なるべく違和感のないようにとはいつも考えるけど、
つなぎ合わせていくのは難しいよね。
ヒントを与え過ぎちゃうと、インパクトないし、
あまり隠しすぎると、唐突すぎたり、違和感があったり……

これからもこの場所で、楽しみ続けます。
本当に、どうもありがとう。

ありがとう

あんころもちさん、こんばんは

>色々ありながらも、何か一つの答えが見つかった気がして、
 ほっとしました。

はい、大貴の心も成長しました。

>杉町に、もっとやり返して欲しいとも思いましたが、

あはは……でも、そうなると深みに嵌ってしまうので。
この変でお許しください。

これからもよろしくお願いします。

ありがとう!

目指せ昼ドラならぬ、ももドラ!ということで始まった
『Ripple of the love』ハラハラドキドキ&ドロドロを期待して!
期待を裏切らない展開にのめり込んだよ!

大貴と沙織に幸せが訪れて良かった、良かった。

又新たな挑戦待ってます。
ありがとう、お疲れ様でした。

ありがとう

拍手コメントさん、こんばんは

>いつもいつもどうゆう展開になるのか楽しみでした。

楽しみにしてもらえることが、
何よりも嬉しいです。
私も終わってしまうと、寂しい気はするのですが、
それはまた、次への始まりなので……。

よろしかったら、これからも『発芽室』にお付き合いください。
コメント、ありがとうございました。

ありがとう

yonyonさん、こんばんは

>『Ripple of the love』ハラハラドキドキ&ドロドロを期待して!
 期待を裏切らない展開にのめり込んだよ!

ありがとう。
ハラハラとドキドキがあったのなら、嬉しいな。
意識はしたつもりだけれど、感じ方はそれぞれだろうしね。

またあらたな挑戦へ向かって、
スタートします。
いつもありがとう。
本当に、励ましてもらっています。

……そちらは進んでいるの?

ありがとう

yokanさん、こんばんは

>それぞれの立場で前に向かって生きてる^^
 明るい未来を感じる最終話で嬉しいです。

私なりのハッピーエンドにしたつもりです。
どうですか?

>杉町にも頑張ってもらいたいわ。
 復讐など考えず、前を見て生きて行ってもらいたいです。

最後の二人のシーン。
杉町がどう大貴の言葉を聞いたのか、
それはわかりませんが、
親となること、立場が変わることで、
また、思うところも出てくるでしょうね。

こちらこそ、ありがとうございました。
いつも、励ましてもらっています。
これからも、無理なく、お付き合いください。

終了ですね

ももんたさん、こんばんは
今回も楽しく読ませていただきました。
ハラハラ、ドキドキを目指したというももドラ、毎回、次はどう意地悪をされるのか、どう返すのか、考えた予想は外れまくりましたが、その分余計に楽しめた気がしています。
次のはーとふる、その次のお話も、楽しみにしています。

ありがとう

pigbigbagさん、こんばんは

>毎回、次はどう意地悪をされるのか、どう返すのか、
 考えた予想は外れまくりましたが、その分余計に楽しめた気がしています。

楽しんでもらえたのなら、嬉しいです。
外れまくり……も、さらに嬉しいですよ(笑)

『はーとふる』もその後も、マイペースで続けますので、
よかったら、これからもお付き合いください。
ありがとうございました。

ありがとう

拍手コメントさん、こんばんは

>ハラハラ、ドキドキのドロドロでしたが、
 写真の裏に、大貴と書かれていた…少し感動しました。

最後まで、お付き合いありがとうございました。
何もいいことをしなかった『一人の父』ですが、ほんの少しだけ、
人間味のあるところを、出したくて。

また、お好きなものにお付き合いください。