わがまま 【1】

はーとふる・ぷち わがまま
【1】



私は、世界一幸せだと自分でそう思う。

それを証明しろと言われたら、間違いなく自分の首を見ることにする。



たった一つしかない、私だけの『BLUE MOON』



日向さんが私のためだけに、忙しい時間を使って作ってくれた、

大事な、大事な宝石。





宝物……





「前島さん」

「はい」

「これ、予定通りに配送されたのか確認して、それでOKなら専務に渡して」

「はい」


日向さんとの交際が事務所にわかってしまい、結果的に仕事がなくなってしまったが、

そんな私に助け船を出してくれたのは、事務所を辞めるようにと言った社長だった。

日向さんの気持ちに甘えているわけにはいかないと、

焦る気持ちだけが大きくなっていた時、米原さんから1枚の紙が届いた。



今からちょうど2か月前のこと。



「これ……」

「社長の妹さんが嫁いだ先なの。『丸代青果』っていって、
テレビ局の中にある食堂に野菜を入れているお店」

「野菜?」

「そうよ、『オレンジスタジオ』の『MARUKO』もそうだし、『希林そば』もそう」


社長の妹さんは、昔、少しだけモデルの仕事をしたことがあったらしく、

出入りしていた業者の息子さんと結婚した。

それが『丸代青果』の跡取りで、今は2人の母親になったという。


「上の息子さんは専務として頑張っていて、下のお嬢さんは確か、
史香と同じ年齢だったはず。子供の頃は少しモデルをしていたらしいけれど、
身長があまり伸びなくて、それで辞めたんだって聞いたことがあったな」


私と同じ年の女性。

それなら、それなりの話が出来たり、たまには一緒に食事をしたり……





出来るかもと思ったけれど……





「『丸代青果』です。品物をお持ちしました」


小さな軽自動車で配送するので、私でもそれなりに運転できた。

『オレンジスタジオ』は都心中心部と言える場所ではなく、

どちらかというとまだ緑の残る場所にあって、道路事情もそれほど複雑ではない。

なにより、『オレンジスタジオ』に出入り出来るのは、

そこで仕事をすることの多い日向さんと、すれ違うチャンスが自然に出来る。



私、本当にとことん日向さんが好きなんだな、

会おうと思えば、ちゃんと会えるのに……



専務である長男の慎司さんから渡された、新鮮そのもののブロッコリー。

これをスタジオに届ける仕事……




……そう、これは仕事




日向さんがいるとか、いないとか、そういうことではなくて、




でも、日向さん、いないかな……




「前島さん、何ウロウロしているの?」

「あ……彩花さん」


この人が『丸代青果』の長女、私と年齢が同じだという彩花さん。

モデルを諦めた後、彼女が選んだのは『フードコーディネーター』の仕事だった。

幼い頃から食材に関わっていたからなのか、業界の評判もよく、

今回、日向さんの新ドラマで、担当となった話は、この間聞かされた。


「お兄ちゃんに届けてねって言ったのに……」


明らかに嫌な顔をされてしまった。

そう、彩花さん、私がスタジオへ来ることを、すごく嫌がるんだよね。

同じ年だから一緒に食事をしようとか、ちょっとした話に盛りあがるなんて予定は、

全く未定のままになっている。


「専務は、『スーパーキャッチ』の店長と打ち合わせが急に入ってしまって。
で、急遽私が持ってきました」

「自分から願い出たんでしょ、どうせ……」

「いえ……」


こんな嫌味もいつものことだ。


「史香!」

「あ……米原さん」


メイク道具を抱えた米原さんが、私を見つけて手を振ってくれた。

となると、日向さんも出てくるのかと、つい扉を見てしまう。


「淳平君は、先行取材中だから、そんなに一生懸命に見ても、出てこないわよ」

「あ……いえ……」


もしかしたらと思っただけです。

そんなに迷惑そうに言わなくても、いいんじゃないですか? 彩花さん。



米原さんがニコニコしながら、こちらに近付いてきた。

きっと、彩花さんのトーンは、ここで切り替わる。



「史香、何よ、配達なの?」

「なんだか申し訳なくて、ごめんなさいって今、謝った所なんです。
お兄ちゃんが回った方が近いはずなのに、前島さんに迷惑かけて。
1階の『MARUKO』にも届けたのなら、電話でもくれたら取りに行ったのにって」



そう……

いつもこうなるんだ。



「仕事は仕事だもの、いいのよ彩花ちゃん。
あわよくば淳平に会おうかとでも、思っているんでしょう、史香」


米原さん、またそういうことを言わないでください。

彩花さんに今、怒られたばかりなんですよ。


「あら……そうなんだ。今、取材でしたよね、淳平君、確か」

「いいんです、それじゃ行きますね、まだ配達するところがあるから」

「史香さん、気をつけて」


私は、そう言って頭を下げてくれた彩花さんに、返礼をする。

米原さん、田沢さん、そして何よりも日向さんの前では、

彩花さんは180度、私への態度を変えてくる。


「さて、行かなくちゃ」


社長が日向さんを見つけ、デビューさせるまでの間、

2か月くらい、日向さんは彩花さんの家に居候をしていたそうだ。

朝早く起きて、品物の仕分けを手伝ったこともあると、そんな話しもしてくれた。

日向さんに、自分の兄弟は兄一人なので、彩花さんが妹のように思えると言われ、

私はそこから、何も言えなくなった。



少ししたら……

もう少ししたらきっと……

私のことも、認めてくれるだろう。



車のキーを入れ、エンジンをかける。

『オレンジスタジオ』は、バックミラーからやがて姿を消し、

私は気持ちを切り替えながら、左にハンドルを切った。





 【2】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

非公開コメント

お久しぶりです。
はーとふる♪うふ。嬉しいです。

また史香の前に立ちはだかるやっかいな人が出てきましたね。
淳平がぶれることはないと信じていますが、
一波乱あるのでしょうねえ。
次は、淳平も出てくるかなあ~

お~~新たなるライバル

少し進んだ史香と淳平。
しかしどこにも障害はあるもので・・・

頑張れ史香!

新シリーズ、又楽しみが増えました♪

戻って来ました

れいもんさん、こんばんは
『はーとふる・ぷち』への応援、ありがとうございます。

>また史香の前に立ちはだかるやっかいな人が出てきましたね。

はい、出てきました。
出てこないと、お話が続かないんですけどね(笑)

>次は、淳平も出てくるかなあ~

はい、出ますよ!
ぜひぜひ、おつきあください。

戻って来ました

yonyonさん、こんばんは

『はーとふる・ぷち』は1話の長さが短い分、回数が増えますので、
コメントも適当に入れてください。

>頑張れ史香!

はい、頑張ると思います(笑)

戻って来ました

yasukoさん、こんばんは

>はーとふるが戻って来て、とても嬉しくてコメしました。

うわぁ、ありがとうございます。
『はーとふる』ファンの方がたくさんいてくれて、
ほっとしています。

これをきっかけで知ってくれた『発芽室』
ぜひぜひ、他の創作にも触れてみてくださいね。

史香と淳平の応援、よろしくお願いします。