わがまま 【2】

はーとふる・ぷち わがまま
【2】



配達していくと、色々な人から声がかかり、

ちょっとした世間話に花が咲いてしまうこともある。

『ラーメン富田』の名物おばちゃんは、自他共に認める畑山さんの大ファン。

店にある、巨大冷蔵庫には、畑山さんの等身大ポスターが貼ってある。

いつもそばにいてくれるのはいいけれど、油っぽくなるのが悲しいのと、

豪快に笑うんだよね。


「あぁ、史香ちゃん、ご苦労様」

「遅くなりました。ちょっと道路が混んでしまって」

「いいのいいの、うちは次の仕込みようにネギとかをお願いしているんだからさ、
それよりも、今日は『オレンジスタジオ』へ顔を出したの?」

「あ……はい、ここへ来る前に。
でも、今日は畑山さんは予定に入っていなかったみたいですよ」

「あら、そうなんだ。だとしたら今日はロケなのね。
ここのところ天候が悪かったから、スタジオ撮影よりも、ロケが優先なのかも」


私も、少なからず業界にいたことがあるから、事情がわからないわけではないけれど、

今時の素人さんは、業界人よりも業界人っぽいことがある。

ネットだのツイッターだのが普及したからかもしれないけれど、

芸能人は、ますますプライベートを守るのが大変になりそう。


「それじゃ、また」

「あ、史香ちゃん、ちょっと待って」


富田のおばさんは、自家製のチャーシューを分けてくれた。

うちの実家もラーメン店なので、父がチャーシューを作るのを見たこともあるし、

もちろん食べたこともあるが、『ラーメン富田』のチャーシューは、

また味が違って美味しいんだよね。


「いいんですか? こんなにたくさん」

「いいの、いいの。こっちは『丸代青果』さんの分で、
こっちが史香ちゃんの分だからね。彼氏と一緒にでも食べてよ」

「あはは……」


ビニール袋に包まれた、美味しそうなチャーシュー。

今日は確か、日向さんが早く撮影を終える日、一緒に食べよう。




ごめんなさい、富田さん、畑山さんに差し入れしたいご自慢のチャーシュー、

ライバルの日向さんと、美味しくいただいちゃいます。




「ありがとうございました」

「またね!」


なんとしても、今度畑山さんに会って、

『ラーメン富田』さんへのサインでももらわないといけないな。





車はそれから順調に進み、ほぼ予定通りの時間に配達をし終え、

私の仕事は終了した。





「へぇ……宗也ファンの人なのか」

「そうなんですよ、富田さんは強烈なファンなんです。
ファンクラブにももちろん入っていますし、その熱狂振りは、
ファン同士の間でも有名なんだそうで」


私は、食事の準備をしながらそう話した。

日向さんはちゃんと食器を出したり、お箸を並べたりしてくれる。

将来、いいだんな様になるかも……なんて、ついついにやけてしまう私。


「……あ! いけない」


私はリモコンを手に取り、すぐにテレビをつけた。

にやけている場合ではなかった。

画面にはドラマのエンディングが流れていて、なんとか間に合ったみたい。


「あ、そうか、今日からか」

「そうなんです。今日からだって、この1週間くらい、メールが届きっぱなしで。
返信しても、返信しても、何度も来るんですから」

「それだけ緊張もしているんだろ」


そう、何を隠そう。

今日は、あの、保坂さんが初めてテレビに出る日だった。

『番組ナビ』というほんの3分くらいの生放送で、

保坂さんの担当は隔週の月曜日になる。


「あ、出た。日向さん、出ましたよ」

「うん……」


保坂さんは少し髪の毛を短くし、明るめの口紅をつけ、楽しそうに話しだした。

この後、特集番組があること、ゲストが今話題の若手漫才師であることなど、

時々原稿に目を落としながら、無難につなげていく。


「すごい、すごい」

「あぁ……初めてにしては……」


そう思った途端、画面の中にいたはずの保坂さんが急に姿を消した。

あれ? と思った瞬間、また画面の中に戻ってくる。


「何していたんだろう、今」

「今、完全にしゃがみこんだだろう」


突然の出来事に目を丸くしたままの私と日向さんだったが、

保坂さんは何事もなかったかのように笑顔のまま、放送を終えた。


「どうしたのかな」

「うーん……明らかに、彼女の方が腰を落としたからな。
スタッフの放送事故ということではなさそうだったけれど」


突然、キャスターが画面から消える番組なんて、聞いたことがない。

でも、それは本番終了後にかかってきた、保坂さんの電話で明らかになった。


「くしゃみ? くしゃみをしたってこと?」

『そうなんですよ、突然鼻がむずむずして。
だって、画面に向かってするわけにもいかないし、
もし、ツバでも飛ぶのが映ったら、まずいじゃないですか』

「はぁ……」

『私のデビューですから、自信のあるところだけをお見せしたくて。
私、自分のくしゃみ顔、いけてないと思うんですよね、だからそこは遠慮しました。
いい顔だけ覚えてもらわないと』


遠慮したというよりも、画面から消えたんだよ……と言いたくなるのを、

グッとこらえてみる。


「怒られなかった? ディレクターさんに」

『怒られたんですかね、口がポカンとなってましたけど』



怒る気持ちにも、ならなかったんだ。

それって、もっとまずい気がするんですけど。



あいもかわらずマイペースな保坂さんは、次回も必ず見てくださいねと念を押し、

電話を切った。



あるのかなぁ……次回の放送。

保坂さんのマネージャー、森永さんの頭を抱えた顔が、ちょっぴり浮かんだ。





 【3】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

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アーァ

ライバルを応援するおばちゃんに、
『日向さんの方がカッコいいのに!』ってか?

保坂さん頑張っているんだ、と思っていたら、
ありゃりゃ・・次は無いかもね~

出会い

yonyonさん、こんばんは

史香も、働きながら色々な人と出会っています。
保坂も一人立ちし始めだのですが、
やってくれてます(笑)

細かく回数だけ多いから、
毎度コメント入れなくても大丈夫だよ。
無理ないようにしてね。