わがまま 【6】

はーとふる・ぷち わがまま
【6】



配達事件があってから3日後、私は米原さんと食事をすることになった。

日向さんから舞台の件を聞き、成り行きで応援するようなコメントをしてしまったため、

田沢さんから怒られてしまう。

もう一度、日向さんとゆっくり話そうとしたけれど、こういう時に限って、

ロケだの、打ち合わせだので、ゆっくり会う暇もなくなってしまい……


「じゃぁ、二人で牽制し合っているんですか」

「そうよ、楽屋でも空気が悪いったらありゃしない」


日向さんは、田沢さんの反対に納得せず、

米原さんは、『チーム淳平』の輪が崩れそうだとため息をついた。

なんだか珍しい。

田沢さんと日向さんが言い合うことは、今までだってあったけれど、

そこまで日向さんが譲らないのは、何か理由があるのだろうか。


「彩花ちゃんと仕事しているのが、逆効果だったかもしれないわ」

「彩花さんが、何か?」


彩花さんは、次回のドラマ撮影のスタッフとして入っていて、

撮影の時も、リハーサルの時も、日向さんの近くにいるらしい。


「『やりたいことは、やった方がいいですよ』って、
淳平の背中を押しているらしいの」


そんな言葉を聞いて、慎司さんの話を思い出した。

モデルを続けたかったけれど、結局、諦めてしまった彩花さん。

日向さんが『舞台』に前向きなのを知り、諦めるのはよくないことだと、

助言しているのだろう。




だけれど、それは思いの代弁であって、

本当に、日向さんの抱えているものや、条件を考えてくれているのかといったら、

違う気もする。




「黒島先生って、たしか結構厳しい方ですよね」

「そうよ、『鬼黒』ってあだ名があるくらいなんだから。
まぁ、彼の舞台に出て、名を上げた俳優は多いけどね」


たしか、『レストラン林』に配達をした時、その上に黒島先生の事務所があって、

結構スタッフを怒る声が聞こえるのだと、言われたことがあった。

美容室に行ったとき、舞台に対する情熱を語った記事を、読んだ記憶があって、

私は『厳しい人だからそうなるんでしょうね』と、話をあわせたことを思い出す。



『舞台に慣れた玄人だけを使うことなく、色々な若手にもチャンスを与えたい』


確か、文章には、そんなことが書いてあった気がするけれど。


「田沢さんの反対は、日向さんには早いってことなんですか?」

「まぁ、そうだと思うよ。ヒロインの相手役から、『BLUE MOON』で主役になって、
視聴率もよかったでしょ。だから今度のドラマだって、
放送前からテレビ局の熱の入れようが違うし、
そうそう来週からイタリアへ行くのだって、その番宣かねているんだもの」


そう、日向さんが今度挑戦するドラマは、天性の味覚料理を持つサラリーマンで、

世話になった老人の店を建て直し、最後は有名なオーナーになる人の話だ。


「来年の舞台ともなれば、夏くらいからスケジュールだって調整しないとならないし、
本番の日数は限られていても、トレーニングだのなんだのって、
あれこれ大変なんだよね」


この話し方だと、米原さんも内心は日向さんの舞台に対して、

あまりいい感触ではない気がした。


「まぁ、史香。淳平の本音をもう一度聞いてみてよ。
彩花ちゃんには合わせるようなことを言っても、
史香にはきっと思いを吐くだろうからさ」



夢を遂げられなかった、あの彩花さんが、

日向さんの前向きな気持ちとタッグを組んだとなると、

なんだかとてもやっかいな気がするな……







「結局、史香も田沢さんの味方をするわけだ」



……ほら、こうなった。



「違います。味方とか敵ではなくて、
日向さんのことを一番知っている人は田沢さんじゃないですか。
その田沢さんがOKを出さないのですから、きっと何か、あるんですよ」

「僕は田沢さんの操り人形じゃない。マネージャーだからって、
仕事を管理するならともかく、判断までつけて欲しくない」

「日向さん」

「黒島先生の舞台に出られるのなんて、そう滅多にあるチャンスじゃないんだぞ、
今、『四季ドラマ』の主人公になった富樫さんだって、
ジャンプのきっかけは黒島先生の舞台だったんだ。それくらい僕だって調べている」

「それは、そうですけど……」

「それに、人は同じことをしていたら、飽きられるし、進歩がないように見えてくる。
ここで僕が舞台に出ることになれば、また違った評価だって、出てくるだろう」


日向さんの言うことも、もっともだと思った。

自分の人生だ、やってみたいと思ったことにチャレンジするチャンス。

それを選ぶなと言われるのは、確かに辛い。


「今日だって、メビウスの社長から、うちの社長に電話が入ったよ。
舞台の件はどうなっているのかって」

「舞台の件?」

「あぁ……さすがに情報が早い。僕に黒島先生から誘いがかかっていることを知って、
それならばスポンサーになるつもりがあることも、言ってくれたらしい」

「スポンサー」


舞台には、協賛する企業がつくことが多い。

日向さんが持っている一番大きな企業といえば、

確かに『メビウス』だ。配役がどうなるのかはわからないけれど、

宣伝に使えるのかどうかすぐに聞いてくるのは当たり前かもしれない。


「でも……」




でも……

何かひっかかる。




「日向さん、このお話は慎重に考えた方がいいですよ」

「史香……」

「それは……」

「もういいよ、史香には、結局わかってもらえないんだ、これだけ言っても。
結局は無理だって言いたいんだろ」

「日向さん」


日向さんは時計を見ると、携帯電話を取り出した。

どこかにかけたのか、数秒後に、受話器から女性の声が漏れてくる。


「あ、彩ちゃん、ごめん、急に予定変更になったからさ、
途中だけれど、参加してもいいかな」




彩ちゃん……




きっと、彩花さんのことだ。





「日向さん」

「彩ちゃんから、裏方さんの飲み会に誘われていたんだ。
以前、世話になったこともあるメイクさんも来るって言うし、言ってくる」

「あ、あの……」


米原さんに言われたのに、もっと本音で話をさせるようにって。

これじゃ、さらに混乱してしまう。


「日向さん、ちょっと」

「史香はもう少し理解があると思ったよ。僕のことに対して」





だって……




扉を閉めた日向さんの足音は、どこか苛立っているように聞こえ、

残された空気は、吸っても苦しくなるような、重たいものに感じた。




 【7】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

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三人の関係が

史香と淳平と彩花、この三人がどうなっていくのか……

またまた乗り越える山がでてきましたね。

何かありそう・・

思っていることを言葉にするって結構大変。
そして男と女、恋愛感情なんてのが入り込んで来ると
増々ややこしくなる。

史香が乗り気で応援してる、なんて知ったら
彩花は逆に反対するのかな?

越えますよ

天川さん、こんばんは

>またまた乗り越える山がでてきましたね。

はい、越えながら強くなる……はずの、史香と淳平です。
いつもありがとう。

複雑だね

yonyonさん、こんばんは

>思っていることを言葉にするって結構大変。

そうだよね。
同じ言葉でも、相手の状況によって、
捕らえられ方が違う時もあるし。
『恋心』が入ると、さらにね

淳平が……

yokanさん、こんばんは

>私は史香ちゃんの意見に賛成だわ、
 田沢さんが反対するのにはそれなりの理由があるのよ。

ねぇ……淳平、少し冷静さを欠いています。
そこには彩花の後押しもあったりで。
史香もまだまだ落ち着けません。