わがまま 【8】

はーとふる・ぷち わがまま
【8】



タクシーを待たせて飛び乗った日向さんを追う事は出来ず、

私は田沢さんに何があったのかを、聞くことにした。

佐藤さんはお土産のパウンドケーキを、素早く切り分けてくれる。

もちろん、お薦めの紅茶もしっかりつけてくれた。


「全く、あいつは……」

「田沢さん」

「お前にも俺にも反対されて、怒りが頂点だ。
あさってからのイタリアに、ついてくるなってそう言って、飛び出した」

「ついてくるな? そんな……」


デビューからずっと、尽くしてくれた田沢さんに、

日向さんがそんなことを言うなんて、信じられない気持ちを通り越して哀しくなった。

それでも行きますよねと問いかけたが、田沢さんは首を振る。


「今回は、森永さんに頼もうと思っている。
少し冷静にさせないと、本当にコンビ解消だからな」

「森永さんに……」

「あぁ……」


森永さんといえば、保坂さんを見ているはずだけれど、

そういえばどうなったんだろう。

隔週月曜日だから、この間の事故を乗り越えていたら出番なはず。





……あの引っ込みで、下ろされたかなぁ。





「今日、黒島先生に断ったんだ」

「断った?」

「あぁ……事務所から正式にお断りした。もちろん『メビウス』にも話したしね」


日向さんは、自分の気持ちに反したことを田沢さんがしたと怒り、

わざわざ衣装合わせの場所から、戻ってきたのだという。


「淳平がイタリアに行っているときに、済ませようと思っていたのにな、
ちょっと早くなってしまって」

「どうして反対なのか、その理由を教えてください」

「史香……それは」





「もしかしたら、黒島先生の資金調達が……」





明らかに田沢さんの顔色が変わった。

思ったとおりだった。日向さんに直接仕事の誘いをし、

その反応の良さを見て『メビウス』へ手を打つ作戦。


「お前、それにどうして気付いた」

「日向さんが、『メビウス』に話しがいったことを教えてくれたんです。
確かにスポンサーは必要ですけれど、まだ正式な挨拶もしていないのに、
あまりにも展開が速いし……それに……」

「それに?」

「黒島先生の事務所の下にある『レストラン林』へ、
私、野菜を運んでいて。お店の奥さんが、ツケが溜まっているって、
愚痴っていたので」


舞台監督なんて言っても、案外生活は大変なんだろうね……と、

笑っていた奥さん。


「淳平に直接話すこと自体、おかしいことなんだ。その時はでもまだ、
俺も半信半疑だった。黒島先生は確かに舞台演出も一流だし、評価も高い。
まともに淳平がこなせたら、俳優としての評価も変わるかもしれない」


田沢さんが日向さんのことを語る言葉は、いつも厳しく優しい。


「でもな、今までの淳平の演技に、
黒島先生が大きな期待を持つとはどうしても思えなかった。
感情を抑えた役柄で、どちらかというと動きの少ない役だ。
それを舞台で飛び回るような役に抜擢する理由も、しっくりこなくて」


田沢さんは、それを感じたまま、黒島先生のところへ出向き、

今回の趣旨だと、『メビウス』にスポンサーとなってもらうことは避けたいと話した。


「『メビウス』が宣伝したい衣装にはならないだろうと、思ったしね。
そうしたら、途端に黒島先生の顔色が変わった」


黒島先生は、日向さんのような若手を募り、

それについてくる企業のバックアップを狙っていた。

資金さえ集まれば、舞台効果にもお金がかけられる。

自分の名前と、大きな宣伝が出来たら、絶対に成功すると鼻息を荒くしたという。


「ようは、淳平に対する評価ではなくて、
あいつに群がるお金の評価をしていたってことなんだ」

「……そうなんですか」

「それを、あいつにまともに言うのは切ないだろう。それに俺も悔しいしさ。
誰がなんと言おうと、俺は淳平が一番だと思っているから。
そんな曰くつきの初舞台なんか踏まなくたって、あいつの実力を評価して、
ぜひと頭を下げてくれる人が、必ず出てくるって信じているんだ」


そうだったんだ……

田沢さんは日向さんをちゃんと見てくれていた。

ちょっとしたことでグラグラしてしまう私なんかよりも、

もっと、もっと、大きな心で……


「汚れた話や、言いにくいことは、俺が言えばいいんだよ。
あいつは日向淳平として、世の中にいる人たちに、夢を与えないとな。
スタッフや取引先と、グダグダ言い合いをする中に、巻き込みたくないし」


日向さんを応援してくれるファンの人たち。

そう、畑山さんを応援する富田さんのような人が、

たくさん、たくさん、全国にいるのだから……


「怒らせておけばいいんだ、たまには離れるのもいい。
いや、あいつは必ずわかってくれるよ」

「田沢さん」

「それに少し、俺の大切さもわからせないとな」


私は田沢さんの言葉に頷きながら、パウンドケーキを少し口に入れた。

日向さんと田沢さんの絆は、そう簡単に崩れるわけはないんだ。





「あの……もう一つうかがってもいいですか?」

「どうした」


私は、保坂さんのその後について、田沢さんに聞いて見た。

生放送本番中に、いくらくしゃみが出るからと言って、

画面から突然消えたのは、まずかったはず。


「それが、ディレクターには怒られたのに、その後視聴者から驚きと反響が大きくて。
とりあえず継続になったそうだ」

「あ……そうだったんですか、とりあえず、でもよかったです」


本当によかった。

もしこれで、降板だったら、また電話攻撃で大騒ぎだったかも。

事務所の壁にかかるタレントの写真。

その一番端にある保坂さんにだけ、手作りリボンがついていた。


きっと、彼女がやったのだろう。

こういうところが、なんだかおもしろい……

また、次はどんな事件を巻き起こすのかと、ちょっぴり楽しみにもなった。




 【9】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

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さすが!

田沢さんもさすが!と思いましたが、
史香もさすが!
今回は、淳平より史香の方が冷静で正しい判断ができていますね。
きっと田沢さんもこの史香の成長に驚いたはず。
史香への信頼が増しますね~♪
淳平もきっとわかってくれるよお~

そうだったのですね

田沢さんが反対のには、そんな理由が……

史香もよくみているなぁ

この二人の思いに淳平は気付くのはいつかなっぁ(^_^)

史香の成長

れいもんさん、こんばんは

>田沢さんもさすが!と思いましたが、
 史香もさすが!

はい、史香今回は冷静に見抜けました。
れいもんさんの言うとおり、
田沢さんにも、認めてもらえるかな?(笑)

本人には見えないことを見る周りの人間。
こういった優秀なスタッフがいるかいないかで、
タレントもずいぶん、変わる気がします。

ちょっとだけ活用

天川さん、こんばんは

>田沢さんが反対のには、そんな理由が……

はい、以前、読んだ新聞の中に、
『タレントとお金』について、書いた記事があって、
その内容を、ちょっと文章内に生かしてみました。
私の創作は、いつも頭の片隅にあったことなんですよね。

さて、淳平、どうするかな?

大人だね~

長い時間をかけて築きあげてきた信頼関係、
そんなたやすく壊れない自信。
田沢さんの思いちゃんと淳平に届くよ。

彩花が余計な事言わなきゃね。

お金に群がるシロアリか・・・やだね。

届くように

yonyonさん、こんばんは

>田沢さんの思いちゃんと淳平に届くよ。

ねぇ、届かないと困るよね。
タレントにとって、マネージャーは要。
淳平は、スタッフにも恵まれております。

シロアリは、あちらこちらから、やってくる……