わがまま 【9】

はーとふる・ぷち わがまま
【9】



事務所で田沢さんと別れ、外に出る。

携帯電話を取り出して、日向さんにメールをしてみた。

すぐに戻ってこないことはわかっていたけれど、メールは夕方になっても届くことなく、

そのまま夜になる。



『いいんだよたまには……』



田沢さんの優しい気持ちがわからないなんて、このわからずや!

そう思いながら、布団を被り、その日を終えた。





日向さんがイタリアに向かう前日、朝も携帯には何も返信はなく、

私はそのまま『丸代青果』へ向かう。

配達する店の品物を確認していると、事務所に彩花さんが姿を見せた。


私に何か言いたそうに立っているんだけど、本音は話したくない。

でも、このまま避けて出発することなど出来ないし……


「おはようございます」

「前島さん」

「はい」

「あなた、なんのために淳平君の側にいるの?」


唐突にそう切り出した彩花さんは、

日向さんが事務所を飛び出してからすごく落ち込んで、

あまり周りの人とも話をしなかったと言い出した。

私も田沢さんも、日向さんの本当の気持ちを理解していないと言い続ける、

彩花さんの言葉に、だんだんと力が入ってきた。


「何もかもわかっているような振りして、こっちを支配することしか考えていないのよ。
やってみないとわからないことは、避けておけば安心だなんて言って、
心の傷って深いんだから」


モデルを続けたかったのに、続けられなかった過去。

そう、話は日向さんのことだと言いながら、彩花さん自身のことに変わってる。


「私は淳平君がその時にやりたいことを応援するのが、
そばにいるものの義務だと思うわ。私があなたなら……やみくもに反対なんてしない」



社長の姪っ子さんだから……

日向さんにとっても、どこか妹のような存在でいる人だから……

お世話になっているお店のお嬢さんだから……



私はずっと、我慢してきた。



それでも、日向さんへの思いが、間違っていると言われたら、

黙っているわけにはいかない。



「私はそう思いません」



私の反論に、彩花さんの表情が変わった。


「私は、やりたいことをやらせてあげることだけが、応援だとは思いません」

「何言っているの? 前島さん。今の時間は今しかないの。
黒島先生の舞台は、もう今後ないかもしれないのよ、
今、輝かせなくてどうするの。これから先のことなんて、誰も保証しないでしょ」



……違う。

彩花さんは間違っている。



ううん……

あなたと私は違う。



「私は、今だけ輝けばいいなんて思っていません。日向さんには……」


社長が見つけたときから、日向さんは少し他の人と違っていたと、

そう教えてくれた。田沢さんだって、売れないときもずっと、

日向さんは絶対に出てくると信じていた。


日向さんだって、『丸代青果』を手伝っていても、自分は俳優になれると、

そう信じて……



だから……




「私は、日向さんに一生輝いていて欲しいと思っていますから」




そう、私にとって日向淳平は、一生輝く人であってほしい。

今だけ、出来ることをやっていればいいのではなくて、

これからもずっと、ずっと、みんなに夢を与えて欲しい。


「私は、これからも日向さんが間違っているのなら、それは違うと言い続けます。
もちろん、何が間違っていて、どうすればいいのか、話し合いは必要だけれど、
機嫌が悪くなっても、返事を寄こさなくなっても、
それが許せないって会えなくなっても……それでも私は、日向さんに違うといい続けます」


怒ってメールをくれなくたって、それでも構わない。

話し合いもしないで、YESだけを言い続ける人に囲まれて、

自分がいい気になっているのなら、そんな日向さんは……



嫌い!



「前島さん、そろそろ出発して」

「あ、はい」


事務室の外から、慎司さんの声がした。

彩花さんにちょっと言い過ぎたかもしれないけれど、

それも仕方がないな。





いつものようにエンジンをかけて、春の色を見せ始めた道路を走る。

渋滞もないし、天気もいい。

それに、彩花さんに自分の思いを伝えられたのも、気分がいい。

もしかしたらまた、無職になるかもしれないけれど……





4件目に回ったお店で、

来週から1週間だけ、玉ねぎの量を倍に増やせないかと相談された。

私に決定権はないので、会社へ連絡をする。


「専務はいらっしゃいますか?」

「あら、慎司は『オレンジスタジオ』へ配達に向かっているけれど、どうしたの?」


電話に出たのは奥さんだった。

私はとりあえず提案されたことを正確に伝え、許可を得る。




……『オレンジスタジオ』かぁ……日向さん、来ているんだろうか。




「OK出ました。それでは来週からでよろしいですね」

「はい、よろしくね」


扉を出ると、少し強めの風が吹く。

私は携帯に、日向さんから何も連絡がないことを確認し、ポケットにしまう。





次の日、日向さんはイタリアへ出発した。

でも、私の携帯に連絡が入ることも、メールが入ることも、

一度もないままだった。




 【10】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

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史香と彩花

史香、彩花にキッパリといいましたね。

史香はしっかりしてるなぁ。
淳平、早く気付いて 
と思ってしまう私。 笑

何か言ってこい、淳平!

そうそう、イエスマンなら山ほどいる。
でもしっかり反対の意見を言える人間は少ない。
特にスターが相手なら・・・

淳平もそのことは分かっていると思うが、
だんまりを決め込むってどうなの?

成長、成長

天川さん、こんばんは

>史香はしっかりしてるなぁ。

今回はしっかりしてますね、史香(笑)
この二人、出来事、出来事でいい方と悪い方が変わるんです。

それが成長!
さて、淳平はどうしたのかな?

本音が大事

yonyonさん、こんばんは

>そうそう、イエスマンなら山ほどいる。
 でもしっかり反対の意見を言える人間は少ない。
 特にスターが相手なら・・・

そうなんです。今回のテーマはここかな。
『わがまま』なのは誰なのか。
自分の意見を通すことなのか、止めることなのか、

淳平、どんな気持ちでイタリアへ行ったのか。
それは続きで……