わがまま 【11】

はーとふる・ぷち わがまま
【11】



それからの時間は、まるでスローモーションにでもかかったくらい遅く感じた。

時計を見ても、意地悪なくらいゆっくりとしか進まない。

もっと高速回転して、次の朝がくればいいのに……





「こんばんは、『番組ガイド』です」


本番中に、いきなり画面から消えるという大失態をした保坂さんだったが、

プロデューサーからは怒られたものの、担当はそのまま続けられた。

森永さんは日向さんについて、イタリアへ行っているから、

スタジオには田沢さんがついているのかな。



……日向さん、今頃イタリアで何しているんだろう。



見る番組が定まらないまま、手に持ったリモコンのボタンを片っ端から押し続けた。





そして、日向さんが戻ってくる日まで、あと1日。

でも、私が会える日は、プラス1日。

田沢さんに日向さんとのお付き合いを、なんとか認めてもらってから、

海外へ日向さんが行った後は、必ず『1日』のブランクを開けること。

それが約束になっている。



『芸能人の海外仕事帰り、これは一番写真誌に狙われやすい』



それが田沢さんの意見。

米原さんは古くさいと笑っていたけれど……



「史香ちゃん、富田さんのところ、今日は予定外なんだけれど、寄ってくれる?」

「はい」


富田さんのお店なら、いつでもOK。

楽しい話をまた、聞かせてくれるかも。

配達予定の野菜を、間違えないように箱詰めし、伝票をまとめないと。


「あ、そうそう、史香ちゃん。しいたけと三つ葉とぎんなん……用意しておいたから、
帰りに持って行って」

「専務、あの……」

「まぁ、いいから、いいから」


しいたけに三つ葉にぎんなんだなんて、それって『茶碗蒸し』の材料ですよね。

私、日向さんが帰ってきてくれるのが嬉しくて、寝言みたいにつぶやいていたのかな、

材料のこと。


「いってきます」


とりあえず時間が迫ってきたので、配達に出発する。

いつもの場所の、いつもの店。天気の話や、政治の話、そして……


「もう、格好いいなんてものじゃないのよ、これが!」

「撮影始まっているんですか『SLOW』の」

「そう、昨日ファンサイトで動画がUPされていたの。宗也の素敵なこと、素敵なこと。
あぁ……史香ちゃん、宗也を応援しないなんて、あなた人生を損しているわよ」


畑山さんは、今、来年の映画の撮影が始まっているようで、

富田さんは、ロケ先に応援に行こうかしらと、

冷蔵庫のポスターに向かって話しかけている。

『SLOW』は秋月出版社の人気漫画雑誌『SOFT』で、連載されていた作品。

畑山さんの事務所でただいま一押しの新人、

磯部莉子が主人公『藤代美希』を演じることになった。

それだけでは押しが足りないとした配給会社側は、美希の血の繋がらない兄の役、

『藤代諒』を畑山さんにと願い出る。

そういえば田沢さんが、『大手事務所はなんでもありだ』と、

発表されたスポーツ新聞を見ながら、愚痴っていたっけ。


「富田さん、私、人生損していますか?」

「してる、してる!」


畑山さんも素敵でしょうが、日向さんはもっと、もっと素敵ですよと、

無言のまま訴えておこう。

もちろん、話の盛り上がりに野菜の配達を忘れることなく、

富田さんのお店を後にする。

道も思ったより空いていたし、天気もいいし、

今日はどこかウインドーショッピングにでも出かけようかな。

予定よりも30分ほど早く、事務所に戻ると、『史香ちゃん』と書かれた箱が、

テーブルの上に置いてあった。


「あれ?」


今朝、専務に言われたのはしいたけ、三つ葉、ぎんなんだったはずなのに、

鶏肉やかまぼこまで、『茶碗蒸し』の材料が全て揃っている。

確かに『丸代青果』の少し先には、地元の市場があるけれど……


「お疲れ様、史香ちゃん」

「専務、すみません、これ……」

「うん、受け取って」

「でも……」


専務は私が言葉を出そうとすると、いいから、いいからと手で止めに入ってしまう。

日向さんが『茶碗蒸し』を食べたがっていること、知っているのかな。


「そろそろ……なはずだけれど」

「そろそろ?」


時計が5時を示し、10分くらいした時、『丸代青果』の前に1台のタクシーが止まった。

運転手さんは車から降りると、後ろの荷台を開き、

そこからスーツケースを2つ降ろしていく。

後部座席が開き、低めのパンプスを履いた女性が、タクシーから降りた。

サングラスを外した女性の顔は、彩花さん。



そして……



同じ後部座席から降り、スーツケースを受け取りこちらに向かってくるのは、



日向さん……



どうして、今日、ここへ来るのだろう。

『イタリア』から戻るのは、明日だったはず。

彩花さんと一緒に戻ってくるのは、どういう意味?


「ただいま、イタリアは楽しかった」

「お帰り彩花。淳平君も久し振りね」

「お久しぶりです……」


『丸代青果』の奥さんは、当たり前のように娘である彩花さんを受け入れ、

また、当たり前のように日向さんが来たことを喜んでいる。

日向さんのマンションに行って、二人でゆっくり話が出来ると思っていたのに。

ちょっとケンカはしたけれど、話せばわかってもらえると思っていたのに。



なんだか、私一人だけ、どうしたらいいのかわからない。



「……史香さん」



彩花さんの表情が、誰が見てもわかるくらい曇ってしまう。

『茶碗蒸し』の材料を抱えたまま、私はたった一人で、その場に立ち続けた。




 【12】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

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何故

淳平と彩花、何故に早く帰国なのでしょう?

何かあったのかなぁ……

茶碗蒸しの具材とは、準備いいですね  笑

むむ・・

何なんだこの展開?
専務は何もかもわかっていての、茶わん蒸し?

>「ただいま、イタリアは楽しかった」
当てつけのように言う彩花、何だかな~~

なんだろう

天川さん、こんばんは

>何かあったのかなぁ……

ねぇ、どうしたんだろうと思いますよね。
史香も同じはず。
それは続きで……

専務の行動

yonyonさん、こんばんは

>専務は何もかもわかっていての、茶わん蒸し?

さて、どうなのでしょう。
史香も『?』のはずです。
続きで、ご確認ください。