わがまま 【12】

はーとふる・ぷち わがまま
【12】



日向さんが、イタリアから予定よりも早く帰ってきた。

彩花さんも一緒に出かけていたとはいえ、

どうしてわざわざ一緒にここへ戻ってきたのだろう。


「疲れたから……」

「彩ちゃん」


彩花さん、何かあったのだろうか。日向さんが心配そうに階段を見ているけれど。


「淳平君、予定より早かったのね」

「はい。天候が悪くなりそうだったので、急遽、早い便に。それに……」


日向さんの目が、私の方に向いた。

それに……って。


「せっかくだもの、上がっていったら?」

「……いや、僕はこれで。慎司さんに頼んでおいたものを取りに来たから」

「あら、慎司に?」

「史香ちゃん、ほら、そこに立っていると邪魔なんだよな」

「あ……すみません」


あまりにもボーッとしていて、慎司さんが後ろにいたことにも気付かなかった。


「さて淳平、車に乗ってくれ」

「あぁ……」


車?


「ほら、史香ちゃんも。大事な材料が入っているんだからね、慎重に運んでよ」



材料って、この箱のことですか? これは……



慎司さんが用意してくれたのは、配達用のトラックではなく、慎司さんの車だった。

後部座席にスチロールの箱を抱えたまま座ると、隣に日向さんが座ってくれる。


「わざわざここへ来てもらって悪かったな、淳平。
でも、どんな状態になっているのか、早く知りたいだろうと思ってさ」


普段から車に乗りなれている慎司さんの運転だと、

日向さんのマンションまでそれほど時間はかからなかった。

裏へ回り、地下の駐車場へ入っていくと、車はエレベーター前にピタリと止まる。


「それじゃ史香ちゃん、品物を運んだら今日の仕事は終わりということで」

「あの……専務」

「あとはまぁ……どうにかしてください」


配達だと言われ、どさくさに紛れて、日向さんのマンションにたどり着いた。

慎司さんの車を見送っている間も、日向さんったら、別に何も言わないけど……。


「史香、行こう」

「はい」



今日は、仲直りできるだろうか……



鍵を開け、部屋の中に入ると、日向さんは荷物を横に置き、ソファーに深く腰を下ろした。

そうだった、尚美に言われたっけ。

あまり思いつめたようにしないで、いつものようにしなきゃって。


「おなか、すきましたよね、私すぐに作りますから……」





「ごめんな……」





聞こえてきたのは、日向さんの声だよね。

どうして急に謝ってくれるのか、よくわからないけれど。

でも、謝ってくれるのなら、きちんと聞かなくちゃ。


「イタリアに出発する前に、慎司さんがオレンジスタジオへ来てくれたんだ」

「専務が?」

「あぁ……5分でいいから時間をくれって言われて、楽屋に通した。
慎司さんがそんなことを言うのは初めてだったからさ、少し驚いて」


そういえば、注文の増量をお願いしようと電話したとき、

奥さんが専務は『オレンジスタジオ』へ行ったと、言っていた。


「史香と彩ちゃんが話しているのを、慎司さん聞いたらしくて」

「話?」

「彩ちゃんが、舞台の出演を反対するのはおかしいって、史香に言った時、
史香は珍しく抵抗していたって」


日向さんの言葉を、もっと近くで聞きたくて、

私は手に持っていた箱をテーブルに置く。

横に座ってもいいよという、いつもの優しい日向さんが、私に笑顔を見せてくれた。


「史香は『丸代青果』で色々と我慢しているんじゃないかって、
米原さんが気にしていたんだよね」

「我慢? いえ、私、我慢なんて」

「史香が『丸代青果』のことを多く話さないって、そう言っていた。
事務所で働いていた時は、何かがあれば愚痴ったり、次はこうしてみるとか、
話してくれたけれど、何も語れないのは、社長の縁で入ったからかもって」



米原さん……

わかってくれていたんだ、私の気持ち。



「だから、慎司さんに聞いたんだ。史香はどうなんですかって。
そうしたら彩ちゃんが、史香に冷たく当たっていることも、話してくれた。
いつも史香は彩ちゃんに遠慮しているのに、その日は僕のことを思って、
なんでもチャレンジさせることだけが応援じゃないって、覚悟を決めて抵抗してたって。
『一生輝く人でいてほしい』、そう言ったの?」




『私は、日向さんに一生輝いていて欲しいと思っていますから』




そう、確かにそう言った。

それはウソじゃない。

私の頭は、自然と頷く。


「史香に電話をするべきだと思いつつも、あれだけ強く言い切っていたし、
完全には自分の気持ちに整理がつかなくて、そのままイタリアへ行った。
森永さんは僕との付き合いも浅いし、
田沢さんみたいにあれこれ細かいことは言わないから、
向こうでも彩ちゃんたちと、自由に飲みに行ったりしていたんだ。
ついていったスタッフも年が近くて、盛り上がってさ……」


日向さんは、全員の目が自分を見ていて、次に何を言うのか待っている状態が、

しばらくは心地よかったと話してくれた。

しかし、それは自分以外に、誰も判断をする人がいないということで……


「気がつくと、一緒に行動していても、取り残されている気分だった。
山の頂上に一人だけ昇っていて、同じ視線でものを見てくれる人が、誰もいないんだ。
何かを聞けば、帰ってくる返事は『それでいいと思う』とか『大丈夫です』ばかりで」



そういえば、前に畑山さんに、言われたことがあったな……

芸能人は売れたら売れるほど、孤独になるって。



「どうして田沢さんや史香が、僕に責められながらも反対したのか、
それを聞くべきだとそう思った。でも、どんなふうに切り出そうか悩んでいたから、
史香からメールが来たとき、正直、嬉しかったんだ」



尚美の言うとおりだった。

タレントも普通の人も、何も変わらない。

心が急に小さくなったり、ねじれてしまったり、

それでもわかってくれるだけの心があれば、元へ必ず戻る。


「日向さん、まずは『茶碗蒸し』作りましょう。
食べながら話しをすればいいじゃないですか。
私、今日も仕事を頑張ったから、とってもおなかが空いています」


美味しいものを食べながら話したら、きっともっと素直に語れるはず。

日向さんはわかったと頷き立ち上がると、一緒にキッチンに立ち、

『茶碗蒸し』作りを手伝ってくれた。




 【13】 はこちらから……


史香と淳平、恋する二人の成長記録……
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コメント

非公開コメント

いい雰囲気で……

淳平と史香の会話と

茶碗蒸し

いいなぁ (^_^)

ウンウン

専務~カッコいいです。
立ち聞きみたいだけど、気付いてくれるって事だよね。

田沢さんの言おうとしたことを淳平も分かってくれた。
時間がかかっても分かればそれでヨシ!

温かい“茶わん蒸し”で心も温まって。
自然と解れて話もうまくいく。

恋する二人

天川さん、こんばんは
お返事、遅くなってごめんなさい。

『茶碗蒸し』は、この二人のキーワードなんです(笑)
恋する二人は、ちょっとしたことでケンカして、
ちょっとしたことで仲直り……みたいです。
最終話も、よろしくお願いします。

男たち

yonyonさん、こんばんは
お返事、遅くなりました。

>専務~カッコいいです。

慎司も、二人のことは知っているので、救いの手を差し伸べました。
淳平も、ちょっと冷静になれば、わかる男なのです。

さて、『茶碗蒸し』と二人の時間、
最終話もよろしくお願いします。