わがまま 【13】

はーとふる・ぷち わがまま
【13】



『茶碗蒸し』の出来栄えは上々だった。

スプーンですくいながらゆっくり口に運ぶと、心も体も温かくなる。


「はぁ……やっぱりこの味だ。ほっとする」

「おかわり、ありますよ」

「うん」


慎司さんが、本当に何もかも用意してくれてあったので、

いつもより、ちょっと豪華な具材まで入っているんです。

美味しく出来てよかった……


「史香、きちんと話してくれないか、反対した理由。
田沢さんと史香が反対する理由、それって一緒なんだろ」


どうしよう……

田沢さんは、日向さんに理由を語りたくないって、そう言っていたのに、

私が余計なことをして、いいのだろうか。


「田沢さんから……」

「いや、僕は史香から聞きたいんだ。
史香は、僕に一生輝いてほしいって、そう思っているんだろ。
だったら、隠さずに話してくれないと、その言葉も信用できなくなるな。
僕自身のことなんだから、隠されているのは気になるよ」


でも……


「仕事で舞台をするには、僕の実力が足りないってこと?」


私はそれは違うと首を振った。日向さんは、日々本当に努力しているし、

力が足りないなんて、私は思っていない。


「だったら、どういうこと? 黒島先生の舞台をすることが、まずいってこと?」


黒島先生の舞台がまずいわけではない。

舞台の演出家として、名をなした人だ。

でも……


「日向さんの力を、黒島先生がきちんと評価してくれていなかったからです」

「力の評価?」

「はい……」


こうなったら、覚悟を決めなきゃ。

私がどう伝えるかで、日向さんは心に傷を残すかも知れない。

それでも……

伝えてあげないといけないことだ。


「『メビウス』に早く契約の話を持っていったのは、
日向さんが舞台に出ることで動く金額が大きいことを、
黒島先生はわかっていたみたいです。田沢さんが、
今回は『メビウス』にバックアップを頼まないと宣言したら、急に態度を変えたって……」

「……メビウスに」

「はい……」



日向淳平の評価よりも、日向淳平に関わりたいと願う人の動きに、

黒島先生は注目していた。



「そうか……そういうことか」



日向さんの表情が、哀しく見えた。自分で覚悟を決めたくせに、

言うべきではなかったような気がして、私も辛くなる。



「お金……か……」



なんて言えばいいのだろう。あなたの価値はそれほど低くはない。

私はまだまだ力不足だ。こんな時、いい言葉も、何も見つからない。



日向さん……

そんなに哀しい顔を、しないで……



「史香……」



力不足で未熟者の私は、ただ目の前にいる日向さんを必死に抱き締めた。

こんな伝え方しか出来なくて、ごめんなさいと何度も心で謝ってみるけれど……



「頭をガツンと叩かれた気分だ」



どうしよう……やっぱり日向さんに言うことではなかったのかもしれない。

また、田沢さんに怒られる。


「僕自身、『BLUE MOON』の成功で、どこか浮かれていたのかも知れないな。
スタッフたちは成功すれば、急に態度を変えてくる。
樫倉英吾の事務所でもめ事があって以来、あいつに対してみんな距離を置いていることも、
自分なりに見てわかっていたはずなのに。
言われて見たら、その通りだ。それは違うと言い返すことも出来ないし……」


日向さんの声が、震動になって耳と肌に届く。

変わることなく刻む鼓動が、私の気持ちを包むように……



「よかったな、田沢さんが冷静な人で」

「……日向さん」

「よかった……浮かれていた僕を、史香が嫌いにならないで……」



嫌いになんて、なるはずないじゃないですか。



「田沢さんも、日向さんに似合う舞台の話が来たら、
挑戦して欲しいとそう思っています。だからこそ、焦らないほうがいいって……」

「うん……出てくるかな、僕をきちんと評価してくれる人が」

「出てきます」


小さな写真しか載らないモデルの仕事から、ドラマの主役にまでなれた人です。

『あなたは一生輝くのだから……』、次のステップも必ずやってくる。


「絶対に出てきます!」

「史香……」

「大丈夫……」


本物なのだから、いつだってきちんと光るんですから……


「あのさ、史香」

「何ですか?」

「イタリアの夜景も料理も、本当に見事だった。
でも……こうしてくれる史香のぬくもりが、一番安心する」



……はい。

私も、日向さんの腕の中が、一番安心します。



ケンカをしたら、正直に話すこと。

そばにいること、触れあうこと……

尚美の言う通り、それは誰でも一緒。



一緒だ……





「彩ちゃんには、帰りのタクシーで少し話をしたんだよね。
フードコーディネーターの仕事だって、誰でも出来るわけではないし、
過去にこだわっているだけで、大事なものを落としても、気付けなくなるよって」


日向さんが彩花さんと戻って来たのは、慎司さんから頼まれて、

そんな話をしたからだった。彩花さんは黙ったまま、聞いていたという。


「わかっているんです……って、そう言っていた」


私には、強く出る彩花さんだけれど、日向さんには正直に語れるのかもしれない。


「全く違う世界にいけば、目にすることもないのだろうけれど、
叔父さんが事務所の社長だし、仕事でスタジオに出入りすることもあるし、
別の人に自分を重ねてしまう気持ちは、少しわかるかな」


日向さんはそう言うと、納得するように頷いている。


「史香が、本気でぶつかってきたこと、
彩ちゃん驚きながらも、少し嬉しかったみたいだった」

「嬉しい?」

「あぁ……。みんなどこかで、彼女に気を遣って、
傷に触れないようにしていることも、気づいていたようで」


彩花さんが野菜を勝手に抜いたことを、

慎司さんが変わって謝ってくれたことがあった。

そう言われて見たら、パートの人達も、彩花さんにはあまり話しかけない。


「これからも、史香は思ったことを言った方がいいよ。
もしかしたら、わかり合える間柄になるかもしれない」

「……私が……ですか?」

「うん……」


それは日向さん、少し楽観的過ぎないでしょうか。

そう言いたくなるのをグッとこらえ、なんとか笑顔を作ってみる。

それでも、もしかしたらそんな日が来るかも知れないと、思うのも悪くない。



私自身、もっとわかってもらう努力を、するべきだったのかもしれないし……



「史香……おかわり食べよう」

「はい」



私と日向さん。

また一つ壁を乗り越えた気がして、なんだか嬉しくなる。



「あ、熱いですから、気をつけて」

「わかってる」



日向さん、いつか素敵な舞台に、立てるといいですね……

私、精一杯応援しますから。








史香と淳平、恋する二人の成長記録……
次回のお話まで、少しお待ちくださいね。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪

コメント

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良かった

ももんたさん お久しぶりです!

仲直り出来て良かったです。幸せだわ~

良かったね史香!!

太郎さんたちの物語が終わって、はーとふるだけになっちゃって
寂しかったけど毎日読めて私も幸せです。

因みに私は副社長が大好きでした。
だって、太郎って北海道行くのも決定してから伝えるんだもん。まあ、お互いに忙しくてすれ違ってたものね

そんな中、近くで優しい副社長さんに私は惹かれて行ったけど(笑)
鈍い結衣ちゃんはぶれずに太郎を一途に想っていて凄いなあ…と結衣ちゃんの想いに敬服しました。

そして、東京に来た太郎の言葉で、やっぱり太郎はいい男だなあ…
副社長のほうがいいと思ってごめんなさいって思いました。

今頃な感想ですが、ほんわかした素敵な物語でした

PS 心臓に持病があるために恋に臆病だった副社長さんの幸せな姿をみたいなあ…ちょっとだけおねだりです!


乗り越えた山

仲直りできて、良かった(^_^)

彩花さんも、大切なものを失わないで

これからの生活を送って欲しいなぁ。

茶碗蒸しがやっぱりいいです。

ウフフ・・

“茶わん蒸し”効果バツグンですね^^

話せばわかってくれる、淳平はそういう人。
彩花さんもきっと・・・と思いたい。

仲直りできて、久しぶりの二人きり♪

殺し文句♪

『私は、日向さんに一生輝いていて欲しいと思っていますから』
淳平にとって、こんなに説得力のある殺し文句はないですよね。
史香のこの言葉には、史香の真摯な気持ちが込められているもの。

これを伝えてくれる人がいてよかった。
そして、二人が幸せでよかった~♪
ありがとうございます~


ありがとう

milky-tinkさん、こんばんは

史香と淳平、結局落ち着くところに落ち着いています(笑)


>因みに私は副社長が大好きでした。

誠一郎のファンになってくれた方、多かったです。
Ⅱのポイントが彼だったので、よかったのですが、
本編ではその先……は追い切れず、
『どうなるの?』のままで、申し訳ありません。

>鈍い結衣ちゃんはぶれずに太郎を一途に想っていて凄いなあ…

あはは……確かに。
あれだけの人に、思いを寄せられて、寄らないってすごいでしょ?
結衣は、とにかく『太郎、太郎……』でしたので、
一途なのです。

誠一郎のその後、瑠衣と創のその後……も、
私の中には、ぼんやり浮かんではいるんですけどね。
また、しばらくして、『FC2小説』に顔を出す余裕が出来たら、
書き始めるかもしれません。

気付けるのか

天川さん、こんばんは

>彩花さんも、大切なものを失わないで
 これからの生活を送って欲しいなぁ。

彩花との話は、まだまだ続きますよ。
ちょっとだけ時間を空けますので、
忘れないで覚えていてあげてください。

茶碗蒸し……ほんわかしますよね。

話したらわかった

yonyonさん、こんばんは

>話せばわかってくれる、淳平はそういう人。
 彩花さんもきっと・・・と思いたい。

はい、淳平もイタリアへ行ったことで、
逆に冷静になれたようです。
当たり前に思っていたことが、なくなったとしたら……
それは不安になりますからね。

二人きり……そう、二人きりです(笑)

いい味、専務

れいもんさん、こんばんは

>これを伝えてくれる人がいてよかった。
 そして、二人が幸せでよかった~♪

慎司(専務)は、彩花の史香への態度にも気づいていましたし、
以前、淳平が働いていた時のこともありますし、
唯一、間に入れる人物だと、思っておりました。
期待通り動いてくれて、満足です(笑)

ケンカして、話して、わかり合って……
この二人の成長記録は、まだまだ続きます。
少しだけ時間をくださいね。

本当のいい人

yokanさん、こんばんは

>田沢さんのような人の存在はゼッタイに必要ですよ。

こういう人がいるタレントは、幸せなはず。
淳平にもそれがわかったことでしょう。
茶碗蒸しも美味しかったし(笑)

また、お付き合いください。
いつもありがとうございます。