1 ピンチがチャンス

1 ピンチがチャンス



『和(のどか)、人生なんて色々なことがある。
嫌なことがあっても、決して下を向くな』



父は、いつも私にそう教えてくれた。

下を向かずに空を見ていれば、自然に気持ちが大きくなるのだと。



『明るく生きていたら、なるようになるものだ』

『なるように?』

『そう、自然と歩むべき道に、気付かされる』



ケ・セラ・セラ。

私が生まれる遙か昔に作られた、有名な映画の挿入歌だったそうだが、

母は私によく、この歌を聴かせてくれた。




Whatever Will Be, Will Be




父が仕事のため飛行機に乗り、そのまま帰らぬ人になった時にも、

母は『病院で亡くならずに、大好きな空に消えたなんて、パパらしいよね』と、

私達の前で、涙を見せることもなかった。





誰よりも、悲しいはずなのに……





それでも母は、父が私に教えてくれたとおり下を向くことなく、

いつも明るく笑い、時には本気で怒り、私たちを育ててくれた。





そして、父が亡くなってから7年。

私は大学を卒業し、地元の産業である『きのこ』を扱う業界誌に就職した。


「おい、飯島。早く取材に行け!」

「はい、今、出ますから」


派手な世界ではないが、確実に取材を重ね、時にはその業界への就職情報なども掲載し、

部数も少ないけれど、楽しみにしている業界人も多かった。

1年目はアシスタントとして仕事のフォローに回り、

2年目に入り、やっと一人で取材にも出られるようになった。





「うわぁ……お母さんこれ見た? 『日向淳平交際宣言』だってさ」

「日向淳平? 日向ってあの『相良家の人々』に出る?」

「うん、ここに書いてあるよ。
人気絶頂の俳優、『日向淳平』には、公私ともに支えるスタッフの存在があったって、
へぇ……あの人の相手が、スタッフの女性ねぇ……。
吉野ひかりといいのかと思ってたのに」

「姉ちゃん、新聞もいいけど、早く仕事に行けよ遅れるぞ」

「わかってるわよ、敬は本当にうるさいなぁ」


スポーツ新聞を取っているのは、野球好きの弟と、ワイドショー好きの母のためだ。

まぁ、こうやってその日のネタを見ておくと、意外に取材でも役に立つ。


「日向淳平、母さんちょっと好きだったんだけど、ショックだわ」

「何言ってるんだよ、好きなままでいいじゃないか、
どうせ母さんが結婚できるわけもないんだし」

「まぁ、それはそうですけど、でもねぇ……女心は複雑よね、和」

「お母さんこれわからないよ。スタッフってところが怪しいじゃない。
『相良家の人々』が公開だし、この後主演ドラマが始まるし、
ちょっとした話題作りってこともあるかもしれない」

「そうなの?」



……なぁんて、もっともらしいことを言ってみる。



「さすが和ね、『業界人』だけあるわ」

「何が『業界』だ。地方の『きのこ』を扱っている雑誌だろうが」

「同じマスコミなんだから、扱うものが違っていても、直感能力はあるものなの」


何を言ってるんだという顔で家をでていった弟と、

常に私を評価し、その通りだと認めてくれる母との、いつもの朝だった。



……はずなんだけど。





「この5月号で廃刊? ってことは次はないんですか」

「あぁ、業界誌も辛いところらしい」


先輩の明石さん、何があってもあまり動じる人ではないけれど、

ここは、そんなにのんきでいいのでしょうか。


「ちょっと待ってください。廃刊って無くなるってことですよね、『月刊きのこ』が」

「あぁ……だから辛いところだって言っているだろ」

「辛いところって、でも、『月刊きのこ』はれっきとした協会も認める業界誌ですよ。
それが……」

「今の世の中、どんなに大手でも、潰れることだってあるんだよ。
しかもこんなに小さな地元誌だ。あぁ、そうだ、他の仕事に就くあてがあるのなら、
すぐにでも退社OKだそうだから……」

「すぐにでもって……」


同じような雑誌を作っていた会社との競争に負け、

私の会社は、見事にはじけ飛んでしまった。

新聞の報道カメラマンとして生きていた父の後を、

少しでも追えるようにと選んだ仕事だったのに、24才の誕生日を迎えたその月、

私のすごろくは振り出しへ戻ってしまう。





「あらあら……業界誌だから確実だと思ったのにね」

「うん、そうなんだよね。もっと売れる雑誌にでも入っておけばよかったよ」


東京の華やかな出版社へ、就職試験を受けに行くチャンスがなかったわけではないが、

私の希望を聞いてくれた先生から、ぜひにと勧められ、

すぐに乗り気になってしまう性格が後押し、決めた仕事先だったのに。

『地味だからこそ、堅実だ』と言った先生のセリフが軽く宙に浮き、

その先生が、パタパタと空を飛んでいる絵まで浮かんでくる。

それから編集部に通っても、社員の話題は再就職だけで、

まるで『職業安定所』にでも来ているような気分だった。





「どうするんだよ、姉ちゃん。再就職」

「1週間くらいで簡単に決まるわけないでしょ。これからじっくり探す……」

「そんなことを言っているわけじゃないよ。こんな田舎じゃ、他の業種選ぶしかないぞ。
『月刊きのこ』以外に、地元で出版している会社なんて、いくつあるんだよ。
なぁ、今から公務員試験受ける準備しろよ。まだ24なら、なんとかギリギリさぁ……」

「ギリギリ? 失礼ね」

「失礼じゃないだろうが。この就職難だぞ。新卒だって難しいんだ。
再就職はそう簡単なことじゃない。それで適当に働いて、結婚してさぁ……」

「ちょっと敬! 人の人生を決めないでくれる?」


同じ親に育てられたはずなのに、弟の敬は本当にガチガチの男だ。

面白みがないし、遊び心というものもまるでない。

大学に通いながら、将来は銀行マンを目指すなんて、

私には全く、考えも及ばない生き方だ。


「敬、そうあれこれ言わないの。和が好きなようにすればいいわよ、
自分の人生だもの」

「そうだよね、お母さん」

「母さんがそうやって甘やかすから、姉ちゃんの生き方には根っこがないんだよ」

「根っこ?」

「そう、ふわふわしていて、地に足がついていないっていうのか?」


全く、あんた本当に私の弟? だからかわいい彼女に振られるのよ。

理屈っぽくて、年寄りくさくて。


「根っこなんてありませんよぉ、私は植物じゃないですから!」

「そういうことじゃないだろうが」


私は隣で雑誌を読む敬に思い切り舌を出し、その日の新聞を開く。

トップニュースはどこかの国で政権交代があったこと、

2面を開くとその細かい情報が書いてある。

地方面を開き、最後の漫画へ向かおうと思った私の目は、ある文字に釘付けとなった。




『秋月出版社 経験者募集』




『秋月出版社』は大手出版社の1つで、

私が幼い頃から読み続けた漫画雑誌や、テレビで討論会などを開く政治家達が、

連載を持つ週刊誌など、幅広い出版物を持つ。

それは小さな記事だったが、『経験者』という響きが、私の気持ちを高ぶらせる。



『経験者募集』



その文字が、仕事をなくした『経験者』の私に、あらたなチャンスをくれた。



……と勝手に思い込んだ。



人生は『ケ・セラ・セラ』。

なるようになるのだから。



2 私に吹く風


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コメント

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はじまりましたね

和、再就活ですね。

新聞に、淳平が早速がでてきてる~

(^_^)

楽しみ

素敵なタイトルです。
和の活躍に、期待しています。
淳平、早速出てきたしヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪

付いてくyon♪

新チャレンジ、スタートですね。

なるようになりそうで、ならないのが人生。
と、ちょっと厳しく言っておく(笑)

お気楽お母さんに、現実主義の弟。
和の新しい人生はスタートできるのか?

早速スポーツ紙に(^^)
お母さんの気持ちよく分かる。
自分が相手になれる訳ないけど、がっかりしてしまうのよ。
あーーもう少し若かったらな~なんてね。

よろしくお願いします!

天川さん、こんばんは

>和、再就活ですね。

はい、『月刊きのこ』はなくなってしまいました。
和の運命は、どこにつながっていくのか、
これからもよろしくお願いします。

よろしくお願いします!

あんころもちさん、こんばんは

>素敵なタイトルです。

うわぁ、ありがとうございます。
『タイトル』はいつも前に出て行くものですからね。
意味が伝わりやすくしたいなと、思っています。

淳平、これからもどこかで出てきますよ(笑)

よろしくお願いします!

yonyonさん、こんばんは

>なるようになりそうで、ならないのが人生。
 と、ちょっと厳しく言っておく(笑)

そうそう、どこかで和はどう気づくのか、
『なるようになる』と思い、突っ走るのか。
それも、読み進めながら、確かめてくださいね。

>お母さんの気持ちよく分かる。
 自分が相手になれる訳ないけど、がっかりしてしまうのよ。

今まで、色々な母親を書いてきましたが、
和の母親は、今までで一番『お気楽母』かもしれません。
いや、見えるだけかもしれませんが(笑)
でも、思うよね、誰でも。
わかっているけれど、特定の人がいると思いたくないんだよね(笑)

あちらもこちらも

yokanさん、こちらもこんばんは

>まさか、淳平の名前が出てくるとは(笑)

はい、『はーとふる』と重なるところが出てきます。
お互いに知らないわけですが。

なるようになる……の和。
さて、どんな経験をしていくのか、1話ずつが短いので、
時間のある時にでも、おつきあいください。