4 秋田犬と私

4 秋田犬と私



『秋月出版社』

明日も来るつもりだったのに、ここに私の明日はない。



……今のところ。



見晴らしのいい屋上から降りた後、『秋月出版社』のすぐ横にあったコンビニに入り、

就職情報誌と一目で気に入った、ボディーが『水色』のボールペンを買った。

さらに隣の『STAR COFFEE』で情報誌を開いてみるが、

出版社や新聞社の募集は一つもない。

持っていた手帳に、思いつく出版社の名前を、一つずつ書いては消していく。

公務員試験を受けるために勉強をしろといった敬の顔が浮かび、

ボールペンであいつに似た似顔絵を描くと、それをにひげを描き、ネコのように変える。


「クスッ……」


冗談じゃない。

絶対にそんなことにはならないぞと、ネコになった敬の顔を、

今度はブタに変化させ、さらに子ブタも書き加える。

私が楽しそうに描いているからか、隣のおじさんが小さな本を見ながら、

時々こちらをちらりとのぞいてきた。

あまりにも何度ものぞくので、威嚇ついでに横を向くと、

相手はそれにひるむことなく、私の顔をさらにじっと見る。


「あの……」

「はい」

「君、出版社で働きたいの?」



来た!

これはまずい!

こういうのが一番危ないことくらい、私だって知っている。

リクルートスーツで、手帳に出版社の名前ばかり書いたから、

そんなふうに思われたのかもしれない。

あのですね、下手くそな芝居で、私をどうにかしようだなんて、冗談じゃない。


「いえ、違います」

「でも、さっきから出版社の名前ばかり書いているし、それ、就職情報誌でしょ。
しかもその格好は……」

「違います!」


東京は、最低な場所だ。

こんな昼間に、普通のコーヒーショップで、

親父が堂々と若い女性をたぶらかそうとするなんて。

もう一度違うと言い返し、荷物を持って出ようとした瞬間、

入り口からあの色黒編集者、増渕さんが姿を見せ、私に気づかないまま、

隣の『変態親父』の前に腰かけた。


「いやぁ……ケンちゃん遅くなって悪かった。諒がなかなかOK出さなくてさ。
あいつはしぶといんだよ、仕事となると」

「いやいや、どうせ暇だし」

「ごめん、『BOOZ』に向くような人の履歴書はなかったわ」

「そうか……」





撤回!

この変態……ではない、隣の『ニコニコおじさん』、

もしかしたら『秋月出版社』関係の人なのかもしれない。

立ち上がった体をさりげなく元に戻し、色黒編集者の増渕さんに軽く頭を下げる。

これだけ堂々と挨拶すれば、まさか覚えてないはずないですよね。


「……ん? あ、君、さっきの」

「はい!」





『ケ・セラ・セラ』





人生は、なるようになるものだ。

私はやはり『秋月出版社』で仕事をする運命だった。

隣の男性は、『秋月出版社』が出している『BOOZ』という雑誌の編集長さんで、

アシスタントをする若い人を探していたという。

いただいた名刺をとりあえず見てみると……



『『BOOZ』編集長 秋田兼造』



秋田兼造……けんぞう……あきたけんぞう……



あきた……けん……



秋田犬?

いやいや、今、変な空想はやめておかなくては。

『BOOZ』がどんな雑誌かなんて知らないけれど、あの素晴らしい景色が見えるビルで、

編集者として働けるのなら、そんなことは私にとってどうでもいいことだった。

私と秋田さんが楽しそうに話をするのを聞きながら、

なんだか増渕さんは首をかしげている。

申し訳ないですね、あなたには私の魅力が伝わらなかったのだから仕方がない。

ご縁がなかったのです、諦めてください。


「それじゃ、さっそく行きましょう」

「はい!」


小さな本を抱えた秋田編集長は、楽しそうに鼻歌を歌いながら店を出た。

私はしっかり増渕さんの方へ振り返り、頭を下げる。

『あなたが私を取らなかったことを、後悔するような編集者になってやる!』と、

誓いを込めた。





上機嫌で歩く、秋田編集長の後を着いていくと、目の前の横断歩道を渡ってしまう。

『秋月出版社』のビルはすぐ横にあるのに、どうも場所は違うらしい。

横目でビルを見ながら、このままどこに連れて行かれるのかと、少しだけ不安になった。


「あの……」

「はい」

「『秋月出版社』のビルは、あちらではないのですか?」


私は右手で必死に、ビルをアピールした。

上機嫌な編集長は、ビルを確かに確認したあと、笑顔になる。


「ん? あぁ……あれは本社ビルだからね」

「本社?」

「『BOOZ』はねぇ」


そうか、それもそうだった。

やだ私ったら、せっかくチャンスをくれそうな『秋田犬』さんを信用しないなんて。

そうよ、東京の出版社だものね、田舎の『月刊きのこ』と同じわけがない。

本社ビルの他にあちらこちら、ビルを持っていて当たり前だ。


「その前のビルの地下になるんだよ」

「地下?」




出版社が地下にあるなんて、聞いたことがない。




地下にあっていいものは、居酒屋さんとかカラオケとか、

そういった娯楽施設だけだと思っていた。


「でも、看板は」

「あぁ、ここは元々倉庫なんだよ、それを一部編集部として利用しているんだ」


そうだったのか! 私はさらにピンときた。

一見、信じがたい場所に編集部がある理由。


「工事なんですね、編集部の」

「いや……」





あれ?





反対側から見ると地下で、窓のある方を見ると1階という、

へんてこな建物の中に、何かありそうな人たちが3人座っている。

私の後ろで、重たい扉がガシャーンと閉まり、

本当にこれでよかったのかと、一気に嫌な汗が出始めた。



5 運命の女性


秋田犬に連れて行かれた場所には、個性的な3匹の犬?
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コメント

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No title

タイトルを読んで???でしたが、
読み終えて納得しました。
和、ここからなんとかなっていくのかしら。
続きもお待ちしています。

秋田犬

秋田犬 笑

これからどうなるのか

わくわく

イケメン❤

プププ・・秋田兼造。

果たして、この編集部に屋上のイケメンがいるのね。
と勝手にきめてけてる。

和より先に私が唾付けましたから!!!!!

犬は和を救えるか

あんころもちさん、こんばんは

>和、ここからなんとかなっていくのかしら。

ダメだと思っていたところに現れた、
『秋田犬』ではなく、秋田編集長。
彼は救いの神なのか、そうじゃないのか、
続きもおつきあいください。

犬は和を救えるか

天川さん、こんばんは

>秋田犬 笑

笑っていただけたようで、嬉しいです。
和が出会った『秋田犬』は、はたして何を生み出すのか。
続きもお付き合いくださいね。

犬は和を救えるか

yokanさん、こんばんは

>オイオイ、大丈夫なんかいな~(ーー;)
 「BOOZ」っていったい何屋さん?

『BOOZ』がどんな雑誌なのかは、
次回にわかります。

>テラスの君から、ヨンちゃんを想像してしまった〃▽〃

うふふ……そう言ってくれる方が、多かったのです、今回。
和は、『テラスの君』と再会出来るのか
を含めて、続きもよろしくお願いします。

犬は和を救えるか

yonyonさん、こんばんは

>この編集部に屋上のイケメンがいるのね。
 と勝手にきめてけてる。

yonyonさんは、『BOOZ』に『テラスの君』がいると、
思っているんですね……
……さて、それはどうでしょうか

答えは、次回に!