5 運命の女性

5 運命の女性



『秋月出版社』には、色々な雑誌があるらしい。

そして、色々な編集者も……



……いるらしい。



「おい、みんな。アシスタントを連れてきたぞ」


秋田編集長の声に反応した編集部員たちが、一斉に私の方を……

見てもいいはずなのに、一人だけ下を向いたままだ。

そんなことどうでもいいと、態度で示しているんだろうか。


「こちらが、明日からうちのアシスタントとして働いてくれることになった、
飯島和(のどか)さんだ」

「飯島和です。以前は『月刊きのこ』という業界誌で編集をしていました。
これからよろしくお願いします」


下を向いたままの人を含めて、とりあえず全員が頭を下げてくれた。

揃って男性なのだから仕方ないかもしれないが、花瓶もなければ、花もなく、

部屋は本当に殺風景だ。


「まず、あの下を向いているのが及川信長」

「信長?」

「そうそう、あの戦国武将の信長と同じ字を書くんだよ。
お父さんが熱烈なファンでね、でも、あいつはその名前を持つ素質がゼロなんだ」

「はぁ……」

「信長は、人と付き合うのが苦手なんだよね」


入り口近くにいた、少し太めの男性が、彼の性格をそう語ってくれた。

しかし、人と付き合うのが苦手で、編集者をしているって、

どういう仕事の選び方なんだろう。


「文章を書かせたり、イラストを描かせたりすると天下一品なんだがね、
人と会って話すことだけが、なかなか克服できないんだよ。
まぁ、誰にでも得意不得意はあるものだ」


及川さんはその場に立ち上がり、明らかに私がいない方向に、

しっかり頭を下げてくれた。近付いてご挨拶をしようかと思ったが、

今はこの場で軽く頭を下げる。

嫌がることを無理にする必要もないしね。


「で、今、信長の説明をしたのが、細木針平」

「細木……」

「そうそう、こんなに太いのに細木で、
しかも針平のシンは針という字を書きます! はい飯島さん、ここ笑うところ!」


細木さんはそういうと、私より先に笑い出した。

あまりにも楽しそうに笑うので、私もつい笑ってしまう。


「いいよ、いいよ、和ちゃん、楽しくやろうね」

「はい……」


よかった……この人は、楽しそうな人だ。

少し緊張していた空気が、細木さんのおかげで、一気にほぐれていく。


「で、一番奥にいるのが、菅沢郁(かおる)。
一応編集長は私だけれど、実質的には郁がまとめている」

「編集長、彼女は『BOOZ』を知って、仕事をするつもりになっているんですか?」

「……ん?」


菅沢さんは少し不機嫌そうな顔で、そう尋ねた。

私は確かに、『BOOZ』を読んだことはない……


「あの、私正直なところ『BOOZ』を読んだことはありません。
いえ、存在も知らなかったくらいです。でも、編集の仕事をするためにここへきました。
女性誌だろうが、男性誌だろうが、子供の雑誌だろうが、
仕事としてやっていくつもりです」





……完璧!





菅沢さんは目の前にあった雑誌を手に取り、私に差し出してきた。

表紙は、小さなビキニから胸がはみ出そうなグラビアアイドルだ。


「あ……男性誌なんですか」

「まぁ、部類的にはそうなるかな。女の写真ときわどい店と、エロ漫画、
それが『BOOZ』だけれど、それでいいの?」





……エロ漫画?





差し出された『BOOZ』をめくると、出てくるのは刺激的なポーズをする女性と、

生まれたままの姿を、精一杯アピールする人ばかり。

さらに連載されている漫画は、この胸の大きさだと、

重さで道を歩くことが出来ないようなヒロインだった。

しかも、当たり前のように男女のシーンが掲載されていて、

そのいきさつも、ストーリーがあるようなないような、めくった瞬間、唐突過ぎる。


「やめるなら、今のうちだよ。
責任ある仕事を振るようになってから、いきなり消えられたら迷惑だ」

「あ……あの……」

「郁、そうやいのやいの言うな、飯島さんは、『運命の女性』なんだから」

「運命の女性?」


秋田編集長は、コーヒーショップでずっと読んでいた本を開き、ページを指差した。

そこにはキーワードが並んでいて、いくつかに丸がついている。


「いいか、今年、この『おとめ座』である私に力を貸してくれるのは、
『水色』、『女性』、『守り神の絵』だ」

「また占いか……」


菅沢さんは、呆れた口調でそう言うと、そのまま椅子に腰を下ろした。

細木さんも大きなあくびをする途中で、顔を隠してしまう。


「またとか言うな、郁」


どうも私は、編集長の占い雑誌キーワードに当てはまったらしい。

『水色』はおそらく持っていたボールペンのことで、

『女性』は、まぁ……女性だし、

でも『守り神の絵』というのは……





敬を落書きした、あの絵のことだろうか。





「私、やりますから。別に男性誌であっても構いません。
編集がしたくて応募したんです。内容がこうだから嫌だとか、
そんなことは言いませんから」


菅沢さんの、どうせ続かないだろうという目が、私を刺激した。

せっかくつかんだチャンスなのだ、ここでなんとか踏ん張って、

実力であの本社ビルに、そう『テラスの君』を見たあのビルに入ってみせる。


「よし、それでこそ『運命の女性』だ!」


すっかり上機嫌の編集長は、午後の編集長会議に出席すると言い、

私を残したまま地下を出て行った。

書類が山積みになった場所を細木さんが片付けてくれて、私の場所が出来上がる。


「和ちゃんはここです。まぁ、これも縁だからね、頑張りましょう」

「はい……」


とりあえず、地下でもなんでも、『秋月出版社』に入り込むことには成功した。

『BOOZ』は私にとって刺激的ではあるけれど、逆に知らない世界だけに、

なんだかわくわくするところもある。


「あのさ……」

「はい」

「明日からは、もっと動ける格好で。スカートは禁止!」

「……はい」


及川さんは仕方ないとしても、菅沢さんの言葉には、どうもトゲがあるような気がする。

気に入らないのでしょうが、私は負けません。

まぁ、そんな偏屈な編集者も、いるんでしょうね……フン!


「ほら……」

「は?」


目の前に差し出されたのは、菅沢さんの右手。

何? この手をつかむと、ビリビリきたりしないでしょうね。


「ほら……」

「あ……はい」


大きくてあったかい手は、おそるおそる差し出した私の手を、力強く包み込む。




「一緒に、頑張りましょう」




……うわぁ、何その切り返し。しかも、遠慮がちな微笑みは……



少し、いや、結構二枚目じゃないの。

この人って、本当はズルイのかも……

揺さぶりに弱い私の心は、また、こそっとくすぐられた。



6 初仕事の日


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コメント

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運命のひと

運命の女性ですか~ 笑

すっかり気に入られましたね。 秋田犬、いや、編集長に。

和~頑張れ~テラスの君の為に?

とりあえず

天川さん、こんばんは
とりあえず、『秋月出版社』に入った和です。

これが吉と出るのか、凶と出るのか……
『テラスの君』との再会はあるのか……

は、さらに続きます。