7 張り込み編集者

7 張り込み編集者



菅沢さんが飛び出した後、とりあえず自分のデスクに荷物を置く。

それにしても、時計をチラチラ見ながら出て行くなんて、

よっぽど大切な用事でもあるのだろうか。


「おはよう、今、そこで郁にあったぞ。何かトラブったか」

「あ、おはようございます。トラブルじゃないですよ、今日は15日ですから」

「お、そうか、今日は15日か」

「はい」


ちょうど到着した編集長は、

おそらくそこら辺の居酒屋からもらったカレンダーを、

指で押さえながら、納得するように頷いている。

細木さんも事情を知っているみたいだけど……


「編集長……」

「どうした信長」

「……書けました……」


あれ? いたの? 及川さん。

信じられない。私、ここに入って5分くらい経つけれど、全く存在に気づかなかった。

しかも、出来たと言いながら、編集長の方は見てないし。

人と話すのが苦手でも、それはちょっとどうなの?


「おぉ……さすがに信長だな、文字数もバッチリだ」

「はい……」



……あ、笑った顔、初めてみた。



「細木さん」

「ん? 何?」

「菅沢さん、どこかに取材ですか? あんなに急いで」

「いやいや、今日は約束があるんだよ、大事な人……と」

「大事な人」


細木さんが笑いながら、私に向かって小指を上げたが、すぐに違ったと言いながら、

それを『親指』に変える。小指を立てるのは『恋人』って意味ですよ。

それを……『親指』?




……ん?




「さて、飯島さん。郁から頼まれた仕事、お願いします。
レポ隊のレポが入らないとなると、問題ですからね」

「あ、はい。すぐに出ます」


どういうことなんだろう。

菅沢さんのプライベートなんて、私には一切関係がないけれど、

なんだか意味深な合図で、気にしないようにしようと思っても、気になるじゃない。


考えることがあると、道のりはあっという間に過ぎていき、

気づくと私の体は『青島駅』にあった。

初めての場所だから見つからないと困ると思ったが、

改札を出ると『どんどん亭』は目の前にある。これで間違えろと言う方が大変だ。


自動ドアが開くと、

中にいた店員さんが勢いよく『いらっしゃいませ』の声をかけてくれる。

名札を見たら、メガネをかけた少し小柄の男性が『堺』さんだとすぐにわかった。


「あの……すみません『秋月出版社』の飯島です」


いきなり『BOOZ』の名前を出すことは禁止だと言われたこと、

ちゃんと守りましたからね、菅沢さん。



堺さんは苦笑いをしながら、明日にならないかと小声で頼み込んできたが、

ここは私も引くわけにはいかず、いただけるまで外で待ちますと宣言し、

お店の従業員出入り口の前に陣取った。

そばにあったビールケースをひっくり返して、それを簡易椅子にする。

そう、以前『月刊きのこ』でも、新種の発売を取材させてもらおうと、

企業の研究室前で、張り込んだことを思い出した。

雑誌の中身は違うけれど、やることは同じ。

時間をつぶせるように、携帯電話を取りだし、オンラインゲームを呼びださないと。



『どんどん亭』に到着してから2時間、

アルバイトの学生が、不思議そうな顔をして、私の横を何名か通り過ぎた。

中には、一度店内に入った後、窓を少しだけあけて、こちらを見る人まで出る。

あのですね、文句があるのなら、堺さんに早くレポを仕上げろって言ってください。

私だって、好きでここに座っているわけではありません。


「あの……」

「はい」


休憩時間に入ったのか、堺さんが私の目の前に現れた。

深々と頭を下げてくるのは、きっと何かよくないことを言うつもりだろう。


「実は僕、舞い上がっちゃって」

「舞い上がった? お店でですか?」

「はい、かわいい女の子が色々と話してくれるし、普段、こういう町で会ったら、
声をかけることも難しいような子が、一緒にカラオケしたりして……
仕事の愚痴なんて言うと、わかる、わかるって……、本当にみんな優しくて」



……堺さん、気持ちはわかりますが、

それはみなさん『お商売』だからではないでしょうか。



「それで、採点するなんて気持ちがなくなってしまって……」

「はぁ……」

「覚えてないんですよ、細かく」

「覚えていない?」


堺さんは、チェックしないとならなかった項目も、ほとんど探った記憶がなく、

レポを書く自信がないのだと言い始めた。

『ガールズバー』に出入りしたのは、人生で2回目なのだそうだ。

初めての時には、先輩が一緒だったため、気を遣った覚えしかなく、

今回は、心の底から楽しめたのだと、顔を赤くする。

都会に育ったもやしのような姿に、なんだかこっちも、強く言えなくなってきた。


「何も覚えていないってことはないですよね。
たとえば、こんなサービスを受けたとか、お料理の質とか……あと……」

「いや……それが……」

「何も食べなかったんですか?」

「いや……その……」


どうしましょう。

これでは、いくら待っても、レポなんて書けない。


「お願いします。かかったお金は払います。
だからレポを書く仕事は……なかったことにしてください」

「困ります、頭を下げられても……私……」

「そんなこと、通用するはずがないだろうが。自分で受けたんだ、ちゃんと仕事しろ」

「菅沢さん」





この人、いつの間に登場してきたのだろう。

私の後ろには、怖い顔をして腕組みをした、菅沢さんが立っていた。



8 ヘビとカエル


菅沢の15日は、何を示すのか……それに『親指』って?
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コメント

非公開コメント

菅沢さん

突然の菅沢さんの登場にどうなるのでしょうか?

(^_^)

まさか・・(--;)

菅沢さん、親指・・・まさか私が書いてる方の?
なこたーないね(^^;)ハハハ

しかしレポが書けないほど舞いあがったって、
堺さん、仕事をなんだと思ってる?
和や菅沢さんでなくても思うぞ!

謎の菅沢

天川さん、こんばんは

>突然の菅沢さんの登場にどうなるのでしょうか?

15日のため、飛び出すように出かけた菅沢。
いきなり後ろにいたので、和も驚いたはず。

……あ、もちろん堺も(笑)

さて、どうなるのかは、明日!

謎の菅沢

yonyonさん、こんばんは

>菅沢さん、親指・・・まさか私が書いてる方の?
 なこたーないね(^^;)ハハハ

ん? どうして可能性がないと決めちゃうの?
個性的な面々ですからね、何があるかわからないよぉ……
まぁ、お付き合いください。

さて、菅沢登場に驚く和と堺。
引きずり回されてしまうのか……は、次回へ!