8 ヘビとカエル

8 誘導尋問



突然、菅沢さんが登場してきたことに驚いた堺さんは、

逃げようとしたのか後ずさりしてしまい、扉近くにあった瓶を倒してしまった。



……あぁ、もう、菅沢さん。

そんなに驚かせたらダメですよ。

余計にガチガチになってしまって、語れなくなります。

堺さんは『ヘビに睨まれた蛙』のように動けないため、

私は腰をあげ、あちらこちらに倒れてしまった瓶を片付ける。


「プロじゃないにしても、お金が発生する仕事を自ら受けたんだ。
それを簡単になかったことにしろだなんて、
ゲームのリセットと同じように考えられたら困るんだよ」

「いや……そうなんですが……」

「何も覚えていない? だったら、二度と行かないとそう思ったのか」

「いえ、またぜひ、行きたいと思いました」

「ほぉ……どうしてだよ」


菅沢さんは、ほんの立ち話のように堺さんに色々と質問をし始めた。

最初こそ、菅沢さんの迫力に、縮こまった堺さんだけれど、

だんだん口が滑らかになっていく。

それを聞きながら、私は自然とメモを取った。



店に入った時の印象、出迎えた女性の態度、出てきた料理のメニュー。

オプションは必要ないと言った時、ちょっと寂しそうにした店員の顔から、

トイレに行ったとき扉のカギがかかりにくかったことなど、

覚えていないはずのその日の出来事は、どんどん堺さんからあふれてくる。




本当は、ちゃんと覚えているんだ。

それをレポだなんて身構えると、出来ないと思い込んでしまう。




きっと……

そうなんだ。




「よし! サンキュ!」

「は?」

「後はこっちでまとめるから。飯島、メモ取ったか」

「はい」

「そっか……うん」


菅沢さんが私の方を向き、ほっとするような笑顔を見せてくれた。

ちゃんと覚えてくれているじゃないですか、私の名前。

目の前の堺さんは意味がわからず、心配そうな顔をしている。


「堺さん、覚えていたじゃないですか、あの日のこと。今ので十分です。
掲載誌が出来たら送りますから、これからも『BOOZ』をよろしくお願いします」

「あの……今のでよかったのですか」

「いいですよ。お金を払うお客様の素直な感想、それを載せたいんですよ。
ご協力、ありがとうございました」


菅沢さんの言葉に、私も一緒に頭を下げ、『どんどん亭』を後にする。

ここへ来た時には駅裏から見えた太陽が、反対側にすっかり傾いた。





「お前、よく言わないのにメモ取ったな」

「はい、菅沢さんが何をしようとしているのか、わかったので」

「ほぉ……」

「すごいですね、あんなふうに導き出すなんて」


いや、本当にすごいとそう思った。

私だったらあんなふうに、堺さんの会話を引き出すことが出来ただろうか。

言い訳をしているだけにしか聞こえず、聞き逃していたかもしれない。


「俺たちは編集のプロだけれど、相手はあくまでも素人だ。
今はブログだのホームページだの、
素人が世の中に意見を発する場所を持つことも増えたけれど、
そうはいっても、顔も名前も伏せた囲いの中だからな。
いくら三流雑誌でも、世の中に出ていくとあらためて思ったら、
書けなくなるのが普通だよ」

「そうですね」


傾く夕日を見ながら、なんだか充実感でいっぱいになった。

『月刊きのこ』とは違う、楽しさが『BOOZ』にはある。

そこに生きている人の、生きている言葉が、私にぶつかってくる気がして、

次の仕事が待ち遠しくなった。





「ただいま!」


3日ぶりの我が家。

『秋月出版社』を受験しようと意気込んで出かけた東京。

ほんの3日しか経っていないのに、私の運命はガラリと変化した。

まずは、就職なんて無理だと言い続けた弟の敬に、少しおおげさなくらい自慢する。


「最初決まっていたのよ、実は。でもね、私の面接を聞いた編集長が、
あなたのその意気込みをぜひぜひ、わが編集部で生かしてもらえないだろうかって、
逆スカウト? っていうのかな、そうなっちゃってさぁ……」


勢いに任せて話をしたら、こんないきさつになってしまった。

色々な、いいところだけをピックアップしたような話だけれど、

結果的には採用となったのだから、ウソにはならないだろう。


「なんだか信用できないな、姉ちゃんの話」

「そんなに疑うのなら、津川のおじさんたちに聞きなさいよ。
私がちゃんと下宿させてもらう話もしてきたし、
『秋月出版社』に決まったことだって、知っているんだから」

「あぁ、はいはい」


どんなものよ、敬。

田舎で編集の仕事諦めて、公務員になりますなんて選択、

私にはないんだから。


「まあまあ和、まずはお茶でも飲みなさいよ」

「うん……」


お母さんが、私の大好きな『笹倉の羊羹』を切ってくれた。

そうだ、東京へ戻るときに、これをお土産に持って行こう。

お茶なんて入れてあげたら、みんなやはり女性がいると違うって、思うかもしれないし。


「それで、和が作るのは、なんていう雑誌?」

「ん?」

「名刺は? ないの?」

「名刺……は……まだ。とりあえず2ヶ月は見習いだし……」


お母さん、結構鋭いところを突いてくるんだから。

決まった経緯は大げさに話せでも、雑誌の中身まではウソつけない。

ごまかそうとしたけれど、お母さんも敬も、しっかり聞く体勢になっているじゃない。

いいわよ、二人とも、ニュースの方へ気持ちを向ければ……


「なんていう雑誌? お母さん、本屋さんに並んだら買わないと」


お母さん、そんなにキラキラした目で、私を見ないで欲しい。

仕方がない、こうなったら覚悟を決めて、二人に話そう。


「……『BOOZ』っていうの」

「『BOOZ』?」


何も知らない母は首をかしげ、

何かを知っている敬は、口に入れたお茶を、思い切り噴き出した。



9 夢の花


お母さんも敬君も、和の気持ちを聞いてやってくださいな
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コメント

非公開コメント

ついに

ついに喋ってしまった和~!

敬……よく知ってるのかな? 笑

堺さんを導く菅沢さん、すごいわ。

pp---!!

今更なんだけど『BOOZ』はボーズ?ブーズ?
ボーズなら宗教の本ということで誤魔化す・・・とか?

敬はもしかしたら名前だけでピンときちゃうかも(^^;)
色々必要になることもあるからppーーー!!

菅沢さんが流石なら和だって!

男ですからね

天川さん、こんばんは

>敬……よく知ってるのかな? 笑

ねぇ……男の子ですから。
色々と、ナイショの読書もあることでしょう。

菅沢の凄さを見た和。
これでまた一つ、成長する……かな?

男ですからね

yokanさん、こんばんは

>各自の説明のところは、その人を想像しながら笑って読んじゃいました^m^

ありがとうございます。
文字だけなので、想像してもらわないと、楽しくないですよね。
ドラマのシーンのように浮かんできたら、嬉しいです。

>最後の敬君のお茶噴出しに爆笑で終わらせていただきました(爆)

あはは……
敬も、男の子ですからね(笑)

男ですからね

yonyonさん、こんばんは

>今更なんだけど『BOOZ』はボーズ?ブーズ?

『BOOZ』は一応ブーズと読んでください。
残念、お坊さんとは無関係です。

敬も男の子ですからね、秘密の読書もあることでしょう。
菅沢の仕事を見た和、さて、何を思う。