9 夢の花

9 夢の花



勢いで出かけた東京で、私は『秋月出版社』に就職した。

希望は『SOFT』のような看板雑誌だったけれど、そうはうまくいかない。

私が入り込んだのは、男性誌、しかも相当特徴のある『BOOZ』だった。


「何を載せているの?」

「うん……」


載せているのは、胸の大きな女性の色っぽい写真と、

高いお金を払って女の子と飲むお店と、あと……


「エロ雑誌だよ『BOOZ』は」

「エロ雑誌?」


敬め!

真面目だと思っていたのに、読んでいたんだな、『BOOZ』。

お母さんに報告しているんだからね、

もう少しオブラートに包むような言い方をしたらどうなのよ。

『エロ雑誌』って、あまりにもストレートだってば。


「敬、知ってるの?」

「名前はね。『BOOZ』は書店にはほとんど出回らないだろ。
大学の友達が定期購読していて、ちょっとだけ見たことある」


そうだった。おとといあった堺さんの年齢を考えても、

確かに敬は、バッチリターゲットなはず。


「最低な雑誌だよ、姉ちゃん、女のくせにそんな雑誌に入ってどうするんだよ。
恥ずかしくて親戚にだって言えないじゃないか」

「恥ずかしいってなによ」

「恥ずかしいだろうが。同じ女のくせに、
やたらに露出するような内容の雑誌を、作ることが出来るのか?」


私は思わず、母の顔を見た。

敬の反対なんてどうだっていい。お母さんがどう思うのか、それが大事。

確かに、女性が好んで入り込む雑誌ではないかもしれない。

もし、お母さんが悲しむのなら……



……私



「いいじゃない、和がやってみようと思うんだもの」

「は? 母さん正気かよ」

「正気よ。法律を犯している雑誌というのなら問題はあるけれど、
そうじゃないんでしょ? 確かに、男性誌だから女性が入るのは大変かもしれないけれど、
和を見込みがあると信じて、採用してくれたんだもの、
中身がどうのこうのって決め付けてはダメよ」

「お母さん……」

「ねっ……和」


私は何度も頷いた。

そう、私も同じことを考えた。初めて内容を聞いた時には正直引いたけれど、

『BOOZ』には、きっとそれだけではない何かがあるはず。



いや、もうその片鱗が、少しずつ見えている気がするんだよね、私。



「いつかは『秋月出版社』の看板雑誌を作れるように、頑張るから」

「うん、楽しみだね」


納得がいかない敬を横に置いたまま、私は羊羹を口に入れ、

もう一度故郷に、頑張ることを誓うことにする。

そのために夕食前に訪れた父のお墓。空を見上げて大きく深呼吸。



『和……頑張れよ』



母と同じように、父にも、背中を押してもらえたような、

そんな気分になれた土曜日だった。





週が明けて、私はまた東京へ戻り仕事を始める。

そして、私が関わった初めての『BOOZ』が編集部に届いた。

表紙は、顔も知らないグラビアアイドルだけれど、

胸は大きく、下唇の横にあるほくろがなんとも色っぽい。

この艶やかな唇は、きっとリップグロスをつけているんだろうな。

アヒル口って……こんな感じ?


「おい……やめろ目の前で。気持ち悪いだろ」

「ん?」


あ……まずい。私、無意識にこの唇の真似してた。

しかも、目の前に菅沢さんが座っているときに。


「気持ち悪いって、失礼ですね」

「……えっと……」


どうして人を指差したままそこで止まるのよ。名前、出てこないの?


「飯島です、飯島和です!」

「そう飯島。お前『夢尾花』先生のところに行って、次の原稿とって来てくれ」


『夢尾花』

『BOOZ』で好評連載中の漫画、『ピンクマシュマロ』の作者。

まぁ……ピンクって漫画なんだよね、とても電車内で堂々と読めないような。


「ほら、地図」

「はい、はい、行って来ます」

「返事はビシッと1回で済ませ!」

「はぁ~い」


人生はそう、なるようになる『ケ・セラ・セラ』なのだ。

あれこれ質問する前に、自ら行動。

私は菅沢さんから地図を受け取り、地下から地上へと飛び出した。





「あれ? ここだよね、住所」


地図に書かれた家へ到着すると、

表札には『尾花堅次』というガチガチした名前があった。

そうか、あの漫画の作者は男性なんだ。『夢尾花』はペンネームってこと。

私、男性の部屋へ、一人で来ているということだろうか。



こんなにかわいい女性が入っていって、大丈夫かなぁ……



少し不安はあるけれど、ここで立っているわけにもいかないし、

まずはインターフォンを鳴らし、自分の名前を名乗らないと。

原稿さえ出来ているのなら、ここでもらえば済むことだし……

何かあったなら、大きな声を出せば……


「『秋月出版社』の飯島と申します」


玄関の鍵が開く音がして、扉が目の前で動き出して……


「ギャー!」

「何よ、ギャー! って、失礼じゃない」


目の前に出てきたのは、ピンクのヒラヒラしたスカートを履き、

厚化粧した、スネ毛だらけの不確定人種だった。



10 恋の花


『BOOZ』は、個性的な編集者だけでなく、個性的な漫画家もいるらしい
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コメント

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No title

また、個性的な方ですね、夢尾花先生は。
今日もUPされていて、得をした気分です。

夢尾花氏

夢尾花先生、また楽しい?人が。 笑

ストレートな敬も笑えます。

和、頑張れー

もしや?

一瞬『夢尾花』先生がテラスの君?と思ったけど、
現れたのは・・・・

いや~いまどき何があるか分からん。

ん?でも待てよ、その人は夢先生では無いことも。

しかしエロ似合わないロマンチックな名前♪

これもありだと思います

あんころもちさん、こんばんは

>また、個性的な方ですね、夢尾花先生は。

はい、色々な人がいるようですね、『BOOZ』関係には。
和も目がテン状態だと思います。

今日もすでにUP済みです。
ぜひぜひ、おつきあいください。

これもありだと思います

天川さん、こんばんは

>夢尾花先生、また楽しい?人が。 笑
 ストレートな敬も笑えます。

サラリーマンではない職業は、色々と想像できて
おもしろいですよ(笑)
それとは逆に、公務員を目指す弟の敬の目は、
厳しいです。

和の頑張りに、応援ヨロシクお願いします。

これもありだと思います

yonyonさん、こんばんは

>一瞬『夢尾花』先生がテラスの君?と思ったけど、

『テラスの君』がどこで出てくるのか、
みなさんあれこれ考えてくれて、楽しいです。
『夢尾花』は違いますよ……

ロマンチックなおかまちゃんっていうのも、
なかなか笑えるでしょ。

……さて、本日、『テラスの君』の正体がわかります。
ぜひぜひ、おつきあいください。