10 恋の花

10 恋の花



世の中には色々な人がいる。

ファッション感覚とか、好きなアーティストとか、

絶対にこうではならないと決め付けられないからこそ、自由な発想が生まれ、

日本はここまで経済成長したのだと思うけれど、

『夢尾花』先生は、メジャーな性別、どちらかに所属することが嫌いなのだろうか。

それとも、自ら『新しい分野』を築こうとしているのだろうか、

化粧はしているけれど、スネ毛の処理は全くしていないし、

口紅は塗っているけれど、その上にはうっすらヒゲが生えている。

男性の部屋へ入ることに、少しだけ抵抗があったけれど、

菅沢さんたちに何も言われなかった理由が、ハッキリわかった。


「ふ~ん、あなた飯島和っていうの」

「はい、まだ1週間ですが。『BOOZ』に入りました。よろしくお願いします」


『夢尾花』先生は、私の周りをグルグルと回り、

そしてなぜか髪の毛の匂いをくんくんと嗅いだ。

よく散歩した犬同士が、互いの匂いを確かめるような行動だけれど、

あなたに観察されるほど、私、変な生き物ではありませんが……


「あなた、男好き?」

「男性ですか」

「そうよ、今まで付き合ったのは男?」





答えないとならないの? これ。





「はい、お付き合いしたことがあるのは、男性ですけど」

「うわぁ、もう、いやだぁ」





先生には興味がありませんが……ちなみに。





「針ちゃん、針ちゃんに興味ある?」

「針ちゃん? あぁ、細木さんのことですか?」

「そうよ、針ちゃん」


ここはあえて細木さんに失礼だと思いつつも、私は首を思い切り横に振った。

いい人だと思うし、同僚としては面白いが……



その先は……考えたこともない。



「本当? 本当なのね、じゃぁ信じてあげる」


『夢尾花』先生は、どうも細木さんがご贔屓らしい。

菅沢さんのことは偏屈だと笑い、及川さんについては、存在すら知らないようだ。


「ハチ公に伝えてくれる?」

「ハチ公?」

「編集長の秋田よ、秋田。秋田兼造は秋田犬。
秋田犬といったら『ハチ公』しかいないじゃないの。
あら、あなたはそう呼ばないの? 
針ちゃんも郁も、ここでは常に『ハチ公』って呼んでいるから、
それが当たり前だと思っていたわ。ガハハ……」



……ガハハって、『夢尾花』先生、笑う声は思い切り『尾花堅次』なんですね。



それに、そんなふうに無防備に足を組まないでください。

スネ毛ばかりが目に入ってきます。


「私、新人ですから、ハチ公なんて呼べませんよ」

「そうか、新人だもんね」

「はい……」

「こんな雑誌の編集なんかしていて、行き遅れないようにね、嫁さんに……ガハハ……」





だから、笑い声が『男』ですって。

しかも余計なお世話です。夢尾花先生。

いえ、尾花堅次さん。





それにしても、出された紅茶のカップからして、

フランス貴族を意識しているのがよくわかります。

マンションの一室なのに、中はすっかり仮面舞踏会。

意味のわからないところにポツリと置かれた『ピンクの蝋燭』が、

余計に怪しさを演出する。


「あ……そうだ。ねぇ、使って悪いけれど、これも持って行ってくれない?」

「どれですか?」


先生から渡されたのは、『BOOZ』とは別の封筒だった。

中は見えないが、封筒の表には『SOFT』の文字。


「あれ? 『SOFT』ですか?」

「そうなのよ特集があってね、その挿し絵を頼まれたの。
だから、こちらの封筒は王子に渡して」

「王子? 誰ですか、それ」

「あらあら、あなた王子も知らないの? 一応『秋月出版社』の社員なんでしょ」

「あ……いえ、まだ見習いです」

「どっちだって一緒よ!」


先生の話によると、『SOFT』には田ノ倉諒という編集者がいて、

『秋月出版社の王子様』と呼ばれているらしかった。

それでも『夢尾花』先生は、細木さんのちょっとぷっくりした手の方がかわいいと、

聞いてもいないことまで付け加えてくる。


「あの、とりあえず、この封筒を『SOFT』の田ノ倉さんに渡せばいいんですよね」

「そうそう、そういうことなのよ新人さん」

「……飯島です」

「そう、飯島さん」


フランス貴族になったかのようなソファーに腰かけ、おいしい紅茶をいただいた私は、

『BOOZ』と『SOFT』、両方の封筒を持ち、電車に乗った。

それにしても、いくら企画ものだと言ったって、あの『ピンクマシュマロ』の作者が、

かわいい少女漫画雑誌の挿し絵を書くなんて、世の中は本当にわからない。

顔が見えないって、何でもありってことなんだな。




『田ノ倉諒 秋月出版社の王子』




なんだろう、私の頭の中に、あの日の彼が思い浮かんだ。

そう、屋上で優雅に本を読み、こちらに微笑んでくれたあの人。

もしかしたら、あの人のことだろうか。

それなら、なんとなくはわかる。

王子様と言われるような、そんな雰囲気は確かにあった。

階段を上がり、地下から地上へ抜け出し、いつも渡る横断歩道は渡らずに、

そのまままっすぐ進む。



『秋月出版社の王子様』はいるだろうか。



もらっている社員証を受付にかざすと、電子音がして、そのまま通された。

はみ出しものの『BOOZ』だけれど、

ここでブザーが鳴ってしまうほど、冷遇ではないみたい。

エレベーターで、3階に『SOFT』編集部があることを確認し、

ちょうど開いた左側に乗り込む。周りには同じような年齢の女性も多く、

あらためて華やかさを香ってくる匂いで確かめた。

エレベーターが開き、私の心はドキドキ感を増しながら、

一番奥にあるという『SOFT』編集部を目指す。


「うわぁ……」


さすがに看板雑誌……

倉庫の中にいる『BOOZ』とは、明らかに違う。

広くて明るくて、仕事をしている人たちも、自信に満ち溢れている。

整然と並ぶデスク、そしてその左側にある壁には

『少女マンガ誌 売り上げトップ継続中』の掲示。

以前、面接に来たときには、確か4階だったはず。

あぁ、どうせだったら、この中に、自分を入れてみたかったな。


「あの……」

「あ、すみません」


つい、口を開けて見ていた。怪しい人だと思われては困る。

『夢尾花』先生の原稿封筒を差し出し、田ノ倉さんを呼び出した。


「チーフ、『夢尾花』先生の原稿が届きました」


王子様はチーフだった。

そうよねさすがに『横文字』。班長とか、係長じゃないところが、王子って感じ。

私は女性が声をかけた方へ視線を向ける。



そして……



どうかあの人であってほしいと、祈ってしまう。


「はい」


接客中のソファーから立ち上がり、原稿を手に持っていた『秋月出版社の王子様』は、

かけていたメガネをさりげなくはずした。





あの人だ……

私が屋上で見た、あの『テラスの君』、間違いなくその人だった。



11 天国と地獄


『夢尾花』先生の後、見つけた王子様はキラキラ輝いていた……はず。
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コメント

非公開コメント

ご登場!

あの彼がいよいよ……笑

夢尾花のネーミング(あだ名付け)は豊富ですね。

チーフな彼はどんな人なのかしらー 

ワクワク

あ~~~❤

キャッホ~~~~❤
“テラスの君”のご登場♪

やっぱり好み。メガネかけてるのね^^
外す瞬間を見たい!!!!!!!!!

夢先生の存在すら忘れる(プ)

テラスの君は王子様

天川さん、こんばんは

>あの彼がいよいよ……笑

はい、あれこれへんてこりんな人物ばかりが出てきていましたが、
やっと『テラスの君』を再会です(笑)

さて、どんな人物なのかは、これからわかりますよ。

テラスの君は王子様

yonyonさん、こんばんは

>やっぱり好み。メガネかけてるのね^^
 外す瞬間を見たい!!!!!!!!!

私の頭の中では、いつも動いてくれているよ……
うふふ……

夢尾花先生のことを忘れているのは、
yonyonさんだけではないはず。
和も、ポカーン……としているはずですから。