11 天国と地獄

11 天国と地獄



あの面接の日、屋上で出会った『テラスの君』は、

『秋月出版社の王子様』だった。


「あぁ、少し前に先生から電話をいただきました。ありがとうございます」

「いえ……」


私のこと、覚えていませんか?

10日ほど前に、屋上であなたと少しだけ、会話をした者です。


王子様は封筒を開き、中にある挿絵を確認すると、あらためて頭を下げてくれた。

いいんです、そんなに何度も、頭なんて下げてくれなくて。



……それより、私の顔に見覚えありません?



「チーフ、チェックお願いできますか?」

「あ、うん、今行く」


そうか、覚えていないんだ。ちょっとショック。

結構、インパクトのある出会いだった気がしていたけどな。


「それでは、失礼します」

「はい、ありがとうございました」



でも……



まぁ、仕方がないか。私、あの日リクルートスーツだったもの。

このジーンズの格好とは違うし。

よかったかもね、本当の私じゃない私が、印象に残っているよりも、

これから本当の私を知ってもらった方が……


「あの!」

「はい?」

「『BOOZ』を希望されたのですね」

「は?」


王子様は笑顔のまま、人差し指を天井の方へ向けている。

それは、『屋上』を差しているんですか?


「それでは、また」



それでは、また……

屋上で会いましょう……

そういう意味ですよね!



覚えていてくれた。

私のこと、覚えていてくれたんだ。

あの日、ほんの少しすれ違っただけなのに、しかも、よそ者のくせに、

『秋月出版社の王子様』に向かって、失礼なことを言った私のこと、



覚えていてくれた!



ただ、素直に嬉しい……




あぁ、『秋月出版社』に入って、一番嬉しい出来事かもしれない。




……まだ、たいして働いていませんが。





「ただいま、戻りました」

「お、無事に生還したか」

「しましたよ、はじめは驚きましたけど」


夢尾花先生の原稿を、菅沢さんのデスクに置くと、すぐにチェックが入り始めた。


「そうでした。次は細木さんが来ないと、原稿は渡さないそうです」


勘弁してよと頭を抱える細木さんの横で、

私は、配送が済んだ最新号のリストチェックを始める。

数字が並んでいて、名前が並んでいて、とても面倒くさいけれど、

でも、そんなこと、全く気にならない。



だって……



「あ、飯島、それ終わったら本社ビルに行って、資料室から昔の歌舞伎町の地図、
借りてきて」

「はい」



覚えていてくれたんだもの……



『それでは、また……』



はい、ぜひ……

心地よい日差しの降り注ぐ日に、あの白いテーブルに向かい合って……




「なぁ、細木、これどう思う」

「どれ?」

「この展開、少し前にも同じパターンがあったような気がするんだよな」




『どうしてBOOZのような、雑誌を選ばれたのですか』って聞かれて、

私は、『選んだ訳ではありませんが、何事も勉強だと思いました』と答えるんだよね。




「あぁ、この、プリンが突然男のところに訪ねていってというエピソード?」

「そう……」




そうしたら王子様は、

『僕はいつか、あなたと一緒に仕事がしたい』なんて言ってくれて……

私は……




「『あ~ん、もう我慢出来ない!』って抱きつくところだけど」




私は……

『あ~ん、もう我慢出来ない!』って……




へ?




違う! そんなこと言うわけないじゃないの。




「菅沢さんも細木さんも、声が大きいんです! 勝手に入ってこないで下さい」

「何寝ぼけているんだ、お前。誰がどこに入るんだよ」

「寝ぼけているわけではありません。考え事をしていたのに、
まとまらなくなったんです」



せっかく『テラスの君』と再会して、覚えていてくれた余韻に浸っていたのに。

よりにもよって、『ピンクマシュマロ』の話が入り込むなんて。

王子様に覚えていてもらっていて、ちょっと天国気分だったのに。



「もういいです。資料、取りに行ってきます」

「あれ? 和ちゃん、もうチェック終わったの?」

「チェックは後にします」

「怒らせた? 俺たち……」


いえ、いいんです、勝手に空想していた私が、間違っていたんです。


「よせよ細木、女には色々とあるだろ、イライラする日が」

「は?」

「それより、先生のヒップばかり強調する趣味は、どうにかならないかな。
バストに焦点を当てて書いてくれって頼んだのに」




菅沢さんって、なんてデリカシーのない人なの?

イライラする日?

余計なお世話です!

一気に地獄落ちだわ。


「菅沢さん、あのですね……」

「郁!」



あれ?



私の後ろに、いつの間にか王子様が立っていて、

呼ばれた菅沢さんは、いかにも迷惑そうな顔で、

『王子様』を睨みつけているように見えた。



12 つながり


今回の王子様も先日の菅沢も一緒。この出版社の人間は、突然現れるのが好きらしい……
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コメント

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テラスの

テラスの君……

なんて素敵な――

和、嬉しそうだわ。

BOOZで頑張って良かったわね!

イヤン❤

えーーーー!
菅沢さんの親指ってもしかしてテラスの??
毎月15日の大事な約束・・・
しかも名前呼び捨てだし・・・

ハァ~~~妄想が!!!!!

恋する和

天川さん、こんばんは

>和、嬉しそうだわ。
 BOOZで頑張って良かったわね!

はい、和も言っている通り、
入れて良かったと思っているはず。
『テラスの君』がどんな人物なのか、
続きもおつきあいくださいね。

恋する和

yonyonさん、こんばんは

>えーーーー!
 菅沢さんの親指ってもしかしてテラスの??

えへへ……
それは今、言えないの。
続きで確かめてね。