12 つながり

12 つながり



『王子様』こと、田ノ倉さんと本日2度目のご対面です。



「なんだよ」

「昨日、秋田編集長を通して頼んだはずだ。
『倉橋あんず』の掲載号は、バックナンバーとして売らないようにして欲しいって」

「そんなこと、諒に言われる筋合いはない」

「郁、事務所からストップがかかった。
本人も『BOOZ』に載ったことを後悔していて、この先、
ドラマ中心で売っていくのに、変なイメージを持たれたくないとそう思っている。
それでなくても、芸名が変わる前の『大村美香』本名の掲載だ」

「あのなぁ、諒」



郁……

諒……



この二人、親しいのだろうか。その割には、なんだか殺気だったものを感じるけれど。

私の足は、本社に向かおうとしたはずなのに、そのまま床に貼り付いてしまう。



だって、何が起こるのか、見たいもの。



「別に、ヌードになったわけでも、違反の店で勤めていたわけでもないだろうが。
素人時代に自分から応募して、グラビアを飾っただけだ。
今や清純派で売ろうとしているからだろうが、売れてきたら知られたくない過去は、
勝手に封印してくださいなんて、納得できるか」

「お前がする、しないじゃない。それをやらなければ、
『倉橋あんず』の事務所に、これから一切の取材をさせてもらえないことになる。
うちも他の雑誌も。あの事務所は、樫倉英吾の事務所とも縁続きだ。
『SC(sweet cute)』からもぜひにと強く言われてきた」


『倉橋あんず』というのは、1年前のスペシャルドラマで、泣きの演技を評価され、

ここのところ一気に出てきた女優だった。

年齢は23で、女性としては遅咲きといえる。

しかし、高校時代、自ら『BOOZ』のグラビアに応募し、

本名の『大村美香』として水着姿を披露した。

ファンたちの間では、この雑誌が話題になっているという。

実際、うちにも何件かバックナンバーが欲しいと、問い合わせがあった。

しかし、清純派で売りたい事務所としては、

水着で悩ましいポーズを撮っている過去の写真は邪魔でしかなく、

今回、力を使って、その掲載誌を出回らないようにして欲しいという要望だった。


「とにかく、これは決定だ。『BOOZ』の6号は、すでに品切れ。
これで統一してくれ」

「いや……」

「社長の決定だ! わかるな郁!」



屋上で見せていた顔よりも、もっと鋭くきつい表情で、

王子様は『BOOZ』を出て行った。

菅沢さんが怒りに任せてゴミ箱を蹴り飛ばし、空の箱がコロコロ転がっていく。


「おい、飯島!」

「はい……」

「さっさと資料、取ってこいって!」



うわぁ……とばっちり、はいはい、わかっております。



これ以上ここにいて、菅沢さんの怒りに巻き込まれるのはたまらない。

階段を上がって地上に出ると、勢いよく出て行ったはずの、王子様……

いや、田ノ倉さんが立っていた。


「はぁ……」


横をすり抜けるべきなのか、それともごあいさつをするべきなのか。

こちらもお怒りモードなのかな。


「郁、怒っているよね」

「はい……」

「だよな」

「あの……」

「何?」

「私も、正直、菅沢さんの意見が正しいと思います。
きちんと契約して撮影した写真ですし、権利は『BOOZ』側にあります。
たとえば、どうしてもバックナンバーを処分して欲しいのなら、
せめて事務所側が買い取るとか……」


時々、私の頭は、思いと別のことを発言するクセがあるらしい。

余計なことだとわかっているのに、言ってしまった。


「すみません、私、生意気なことを」

「いや、あなたの言うとおりです。僕も、郁が正しいと思う。
売れるのだから売るべきですし、その権利もこちらにある」



……あれ? どうしたんだろう、さきほどと意見が正反対ではないですか。

なんだか元気もないですし。



「それでも……僕は辞めてくれとしか、言えません」



王子様が、寂しそう。



女は、男性の少し寂しげな表情に弱いんですよ。

えっと、もちろん『二枚目限定』ですけれど。

ご存じですか? 田ノ倉さん。


「郁のように生きられたら……と、いつもそう思います」


田ノ倉さんが?

あの、机の上に平気で足を置いて原稿を読むような菅沢さんに?

いや、人をこき使うことが趣味の、菅沢さんに?



その、爽やかな風貌には、どちらも無理っぽいですが……



「これからどちらかへ取材ですか?」

「いえ、本社ビルの資料室へ行きます」

「そうですか、じゃぁ、一緒に戻りましょう」


偶然生まれた、小さなチャンス。

一緒に歩くだけで、自然とドキドキしてきてしまう。

あぁ、どうしよう……私、顔が赤くなってないかなぁ……


「郁は厳しいですか?」

「厳しいですけれど、それが正論だと思うので従っています。
学ばせてもらうところも、多いですし」

「正論か……」

「あの……」

「はい」

「また、余計なことを聞いてもいいですか?」


私の頭の中が、暴走し始めた。

余計なことなら、聞かないよね、普通。


「田ノ倉さんと菅沢さんは、同期ですか? ずいぶん親しげに話していたので」



いえいえ、ずいぶん殺気だって話していましたので。



「郁は、何も話しませんか?」

「はい。あ、いえ、菅沢さんはあまり仕事以外のことを話さないので」

「そうですか」


交差点が目の前になり、信号が赤のため立ち止まる。

ここを渡ればすぐに本社ビルだ。田ノ倉さんとの語り合いは、終わってしまう。


「僕と郁は……」



……はい!



「同期ではなくて……」



横断歩道が青に変わり、童謡『手を叩きましょう』が流れ出した。

何よもう、いいところだったのに。

今、手なんて叩く場合じゃ……



「もっと……深いつながりがあります」



深いつながり?

どこか寂しそうにそうつぶやいた田ノ倉さん。

『深いつながり』って、なんだかとっても意味深に聞こえますが……





……まずい、『BOOZ』色に染まってきているな、私。



13 悩める王子


性格の良い『いい男』と性格の悪い『いい男』の深いつながり……とは?
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コメント

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なにかしら~

二人のつながり

深いつながりって何かなあ

テラスの君との関係が気になります~

BLなら任せて!

いや~~ん♪

深いつながり・・・深いつながり・・・

妄想が暴走する!!!!

気にして、気にして!

天川さん、こんばんは

>深いつながりって何かなあ
 テラスの君との関係が気になります~

『テラスの君』がゆったりと話していて、
12話が終わってしまいました(笑)
次回で明らかになりますので、
また、おつきあいください。

天川さんの地方は、雨と風、どうですか?

二人のつながり

yonyonさん、こんばんは

>いや~~ん♪
 深いつながり・・・深いつながり・・・

あはは……そうそう、『深いつながり』なのよ。
真相は次回で明らかになります。
予想が当たっているのかどうか、確かめてみて。

台風の被害はどうですか?
結構スピードがあるから、あと数時間かも……

二人のつながり

yokanさん、こんばんは

>和ちゃんのお母さん、さすがです。

はい、和の母ですから、これくらいじゃないとね。
夢尾花先生を含め、色々と個性的な面々ですが、
これから話を盛り上げてくれますので、
笑いながらお付き合いください。

さて、郁と諒のつながりは?
今回の13話でわかります。