13 悩める王子

13 悩める王子



『手を叩きましょう』は結構しっかりとした『4拍子』。

田ノ倉さんと菅沢さんの、深いつながりを聞きたいのに、

足だけは妙に、行進するように動いてしまう。

それにしても、もう横断歩道が真ん中ですが……



ためるなぁ……田ノ倉さん。



「簡単に言ってしまえば、僕が郁の叔父で、あいつが僕の甥です」



叔父と甥?

ために、ためた『深いつながり』のわりには、

結局『簡単に言ってしまう』のですね。



「年齢は同じなのですが、郁と僕は」





田ノ倉さんはそう言いながら笑うと、二人の関係を細かく話してくれた。

『秋月出版社』の歴史をさかのぼると、創始者は、田ノ倉幸三さんという人で、

そして、二代目社長が幸三さんの息子、田ノ倉善之さんで、奥さんは弥生さんという。

さらにその息子として現在の社長、田ノ倉浩さんが誕生した。

しかし、弥生さんは病気で他界し、善之さんは恵子さんと再婚する。

その恵子さんがここにいる『秋月出版社の王子』諒さんのお母さん。

先妻の息子長男浩さんと、後妻の息子次男諒さんの年齢差は、24才。

善之さんが恵子さんと再婚する少し前、

成長していた長男の浩さんは菅沢佳美さんと結婚し、

その間に産まれたのが、『BOOZ』編集部員、すぐに怒り出し、

人の名前を忘れる郁さんとなる。

同じ時期に諒さんが生まれたため、二人は叔父と甥という関係だ。


「社長は郁がかわいいのです、本当は。
『秋月出版社』も郁が引っ張っていけばいいはずなのに、
田ノ倉という苗字だけで、なぜかすぐに僕が担ぎ出される。
影で『王子様』などと言われるのも、からかわれているからですね、きっと」


横断歩道を渡りきり、田ノ倉さんには起立してニッコリ挨拶する受付の前を通り、

私達はエレベーターの前に立ち止まる。


「資料室は4階の右端です。社員証がキー代わりだからかざせば入れます」

「ありがとうございました」


私達の前にエレベーターが止まった。扉が開き乗り込むと、そのまま閉じられる。

次に扉が開けば、頭を下げて別れればいい。



もうこれ以上……



余計なことは……



言わない!



「田ノ倉さん」

「はい」

「みなさんが『王子様』と呼ぶのは、からかっているわけではないと思います」


また結局、口を開いてしまった。でも、私はそう思う。

だって、初めて屋上であなたを見たとき、ドキドキが止まらなかった。


「女性はみんな自分がお姫様だと思っているんです、心の奥で。
だから、『王子様』なんていう名前を、からかってつけたりはしません。
素敵な人だと思うから、だからつけるんです」


エレベーターが3階に到着し、扉が開いた。

田ノ倉さんがいる『SOFT』編集部は、この階だ。


「変えられない運命を嘆くのは辞めましょう。人生はケ・セラ・セラですよ」

「ケ・セラ・セラ?」

「前を向いて歩いていけば、なるようになっていくんです」


戸惑っていた田ノ倉さんの表情が、

扉が閉じる少し前に、優しい笑顔になったのを、私は見逃さなかった。



人生はケ・セラ・セラ

先のことなど、誰にだってわからない。





『テラスの君』と、思いがけない時間が持てた。

菅沢さんにこき使われるのも、悪いことばかりじゃないらしい。

常に前向き、前向き!


「戻りました」

「おぉ、サンキュ!」


頼まれた地図を置いて、リストチェックに入らないとまた、残業になっちゃう。

今日は津川のおじさんと、将棋の勝負をしたいんだよね。



「おい……」

「はい」

「飯島、お前俺にケンカ売ってるのか」

「ケンカ? いえ……」


菅沢さんが左手で地図を振っている。

私はその地図をしばらく見つめ、そして気がついた。


「すみません、すぐに変えてきます!」



頼まれたのは『昭和30年代の歌舞伎町の地図』だったのに、

持って帰ってきたのは『原宿』の地図。

横断歩道で流れる『手を叩きましょう』のリズムが、早く、早くと私を焦らせた。





仕事を終えて駅からの道を歩くと、結構大きな階段が突然目の前に現れる。

まだこちらへ来て間もないし、休日は家でのんびりしていることが多いので、

この階段の先に何があるのか、そういえば私、知らないんだよね。

まさか、登りきったらそこは崖で、落ちてしまうなんていう、

ゲームのようなことはないでしょうけれど。



階段のてっぺんに一人の子供。



私は思わず時計を見た。ただいま20時15分。

あの子、どうみたって小学校入学前。遊んでいる時間にしては、遅くない?

子供はてっぺんから、リズムよく降りてきた。


「ちょっと、ねぇ、僕」

「何?」

「あなた今何時だか知っているの? 家に帰らないと、お母さんに怒られるよ」


そう、私は立派な社会人。

これからの日本の宝、子供は大人がみんなで育てないとね。


「……ス」

「何? なにか言った?」

「うるさい、ブス!」





ブス?





醜い女、ブスってこと?

は?





「あはは……そりゃ笑えるな」

「笑うところじゃないですよ、おじさん。
私、面と向かって子供にブスなんて言われたの初めてなんですから」


家に戻って食事をした後、おじさんに勝負を申し出る。


「こんな時間に遊ばせているなんて、親は何をしているんですかね」


ごく普通に、近所のおばちゃんが言うようなセリフを、思わず言ってしまった。


「今、共働きのご夫婦が多いから、子供が遅くまで遊んでいるってこと、
少なくはないのよ、和ちゃん」

「そうだよな、駅の向こうは新興住宅地だから。
だんなの給料だけでローンを払うのは、なかなか大変だよ」

「そうね……」


ローンか……

そうだよね、それをいいとは思っていなくても、大人にも事情がある。


そんな『現代事情』に気持ちを引っ張られていたら、

勝負に負けそうなおじさんが、私の『歩』の向きを勝手に変えたことにも、

全く気付けなかった。



14 彼と彼の事情


そう、女はいつも空想の世界ではヒロインなの! ブスなんてとんでもない!!
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コメント

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王子

王子様とはそんな関係だったんですか。

叔父と甥。

似てるのかしら?

一方は王子様だし。

アーァ

そんな予感はあったのさ・・・

叔父と甥。 同級生かな?とも思ったんだけどね^^

妄想がくずれていく~~~(ー_ー)!!

諒と郁の関係

天川さん、こんばんは

>王子様とはそんな関係だったんですか。

はい、そんな『深いつながり』でした。
似ているのかどうかは、ご想像におまかせします。

引き続き、お付き合いくださいね。

諒と郁の関係

yonyonさん、こんばんは

>妄想がくずれていく~~~(ー_ー)!!

あはは……そうか、崩れちゃったか。
二人は叔父と甥だったのよ。
年齢は一緒なのにね。

さて、yonyonさんのあらたな妄想が膨らむのかどうか、
14話へお進み下さいませ。