14 彼と彼の事情

14 彼と彼の事情



「あぁ、もう。イライラする!」

「切るなよ、資料を」

「わかっています」


人の情報網っていうのはすごいものだ。

何も募集なんてかけていないのに、

編集部には毎日『グラビア希望』の写真が届く。

誰が送ってくるのかという小学生の女の子から、

あなたはもう無理ですという40代の女性までだ。

中身を見ないことには始まらないので、1通ずつ封を切り、

きちんと資料としてファイルする。


「あ……郁、この子どう? 結構いい顔してない?」

「どれ」


細木さんが私の開けた資料から1枚の写真を引き抜き、菅沢さんに手渡した。

それにしても『グラビア希望』だと応募してきているのに、

どうしてたっぷりとした大きめセーター姿の写真なんだろう。

これじゃ、バストサイズだってわからないじゃないの。



「これ、Eだな」

「エ! 菅沢さんわかるんですか? バストサイズ」

「商売だろうが、商品のサイズくらいわからないと」

「……商品って、女性ですよ。うわぁ……菅沢さんが大臣なら、今頃大問題です」


そのセリフを受け、いきなり菅沢さんが目の前で立ち上がった。

何? 私、今の言葉で怒らせた?


「何ビビってんだよ、飯島」

「いえ、急に立ち上がったので、殴られるのかと」


さぁ、来い!

嫌味でもなんでも受けてやる!


「じゃ針平、悪いけど俺、今日はあがるわ」

「あぁ……」





あがり?

だってまだ、仕事始めたばかりですよ。


「大丈夫なのか」

「あぁ……寝ているだろうけれど、心配だからさ」

「そうだな」


細木さんはあとは俺たちに任しておけといい、及川さんは無言のまま頷き返す。

成り行きで、私もなぜか頷いてしまった。

菅沢さんはちょこんと頭を下げると、おもむろに携帯を取りだして、

どこかにかけている。


「もしもし俺……大丈夫か? うん、今日はすぐに帰るよ」


送られて来た封筒を、まずは机にトントンとして、

封を切った時、写真が切れないように気をつける。


「何強がってんだよ、大丈夫だなんて言うな、心配なんだ」


ハサミで封筒の一番上だけを切り落とし、中の手紙と写真を取り出す。

それにしても菅沢さん、優しい表情しちゃって……


「何食べたい? 帰りに買うよ……いいんだって、仕事のことなんて言うな」


彼女?

そうだよね……だって、口調が優しいもん。

へぇ……なんだか意外。菅沢さんって彼女にはあんなに優しい話し方をするんだ。

あ、まずい、こっちを見た。

また、いちゃもんつけられそう。


「悪いなみんな、借りはちゃんと返すからさ」


『BOOZ』は最新号が出たばかりで、今日は確かにこれといった急ぎの仕事はない。

そういえば、秋田編集長なんて、この3日くらいどこに行ったんだろう。

菅沢さんが扉を閉めた音がして、少しだけ外の空気が中に入ってくる。


「優しいんですね、菅沢さんって」

「ん? あぁ……」

「彼女の具合が悪いから、早く帰るなんて、ちょっと予想外でした」

「彼女?」


細木さんは驚いたように私を見ると、笑いながら頷いた。


「彼女じゃないんですか? 今の電話」

「彼女じゃないよ、郁を待っているのは……彼氏」




……彼氏?




彼氏って、『男』でしょ?




エ?




私はその日、昼食を買い込んで、本社ビルの屋上へ足を運んだ。

いつもなら、用もないのに本社ビルへ行くなと、

菅沢さんから怒られるから来ないけれど、

今日は『彼女』ではなくて『彼』の元へ戻ったので、誰からも止められることはない。


意外だったなぁ……

菅沢さんって、そちらの人だったんだ。


そう言われてみたら、『BOOZ』であれだけ女性の色っぽい姿を見ているのに、

全然興味がなさそうだったし、今日だって、女性のことを『商品』だなんて言ったっけ。

以前、細木さんが小指を立てた後、親指を出したのは、

そういう意味だったんだ……


「はぁ……」


時々、扉が開くので、『テラスの君』が来るかとさりげなく見てみるけれど、

出てくるのは、ラジオ体操をするために、

古そうなラジカセを持ってきたどこかの疲れた編集部員や、お掃除のおばさんだけ。


「そうだよね、そうタイミングよく来てくれるはずもないけど」


トマトたっぷりのサンドイッチも、

以前、田ノ倉さんが飲んでいた『STAR COFFEE』のカフェラテも、

彼のイメージに合わせて、ちょっと奮発したんだけど。


「さて、半地下へ戻りますか」


片手を腰にあてて、残ったカフェラテを飲み干そう。

それにしても、遠くに見えるあの大きな公園は……


「もう、休憩は終了ですか?」


私はすぐにカップを唇から外す。

何事もなかったかのように、まるで少し前に偶然ここに来たように……


「いえ、これから取るところです……」


優しい笑顔を見せてくれた田ノ倉さんに、

ちょっとバレているかもしれない、下手な演技でお返事をした。



15 王子の笑顔


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コメント

非公開コメント

親指の意味がここで…… 笑

ホントかな……ホントかな…… 彼氏さんっ!



イケメン?

オモ! 菅沢さんは!!!やはり・・・

でもな~基本イケメンじゃないと萌えなのよね。
叔父と甥だと似てる?
菅沢さんは、何だか和といい感じになりそう予感がするんだけど、違うかな?

すっかりももちゃんワールドに嵌ってしまった。

疑問符……続く

天川さん、こんばんは

>親指の意味がここで…… 笑

さて、親指の意味はなんなのか。
菅沢の彼氏……? は誰なのか、

……続きます。

疑問符……続く

yonyonさん、こんばんは

>でもな~基本イケメンじゃないと萌えなのよね。
 叔父と甥だと似てる?

あはは……真剣じゃないの、yonyonさん。
菅沢は結構いい男の設定だよ、(性格のぞいて……by和)

>菅沢さんは、何だか和といい感じになりそう予感がするんだけど、
 違うかな?

色々と考えながら読んでくれると、私も嬉しいです。
和の恋模様は、これから、これから。

ぜひぜひ、嵌って下さい(笑)