16 ブルーな男

16 ブルーな男



今日の菅沢さんは、朝からおかしい。

毎日、あれやこれやに怒りをぶつけながらも、指だけは冷静に原稿を打ち続ける。

そんな特技を持っているはずなのに、今日は全く進んでいない。

私のノロノロキーボード叩きの音が、やけに目立つ編集部。


「はぁ……」


またため息だ。

そういえば、大事な『彼』が病気で早退してから、

そう、あの日から少しおかしいかもしれない。

もしかしたら、具合が思ったよりも悪くて、仕事が手につかないのだろうか。


「現場、行ってきます」


現場? 今日どこか行く用事があったっけ?

なんだろう、撮影だろうか、取材だろうか。それなら私もぜひ、一緒に行って勉強を……


「菅沢さん、私も行っていいですか」

「は?」

「飯島さん!」


『BOOZ』に入って、1ヶ月以上が経過した今日、

初めて、及川さんが私をしっかりと見てくれた。



……うわぁ、驚き。



「飯島はいいよ、ここで仕事」

「どうしてですか。次号の予告も印刷所に回しましたし、資料の整理も終わりました。
今日は時間があります。取材に同行させてください」

「……いいよ、お前は」

「菅沢さん、私にとっては何事も勉強なんです。現場の経験を積んでいかないと、
仕事は覚えられません」

「和ちゃん、あのさぁ……」


細木さんまで私を止めようとする。

『SOFT』の東原さんに、さらに言い返す自信をつけるためにも、

のんきな仕事ぶりばかりでは、ダメなんですって。




「いいから残れ、AVの撮影だぞ!」




静かな編集部に、外を走る車の音が途切れることなく聞こえてくる。

私は無言のまま椅子に座り、菅沢さんはそのまま出て行った。

そうか……AVの撮影現場だったんだ。

それはちょっと、難しそうだな。

どんな顔して立っていればいいのか、わからなくなりそうだし……



『19時 帰宅20時 陽限界』



菅沢さんが手書きしたメモが、デスクに残っていた。

なんだろう、陽って。しかも限界?

帰宅が20時って夜の8時だよね。





『郁、僕……夜の8時までに帰ってきてくれなかったら、出て行くから!』

『そんなこと言うなよ』

『嫌だよ、もう限界』





……ってこと?





「それにしても、相変わらず『野口みお』のご指名なんだな」

「はい。珍しい女優さんですよね、
郁がいてくれた方が、いい演技が出来るって言うんですから」


細木さんは自分に送られて来た郵便物の中に、

『夢尾花』先生からの手紙が入っていることに気付き、驚いて封筒を放り投げた。


「色々な趣味の人間がいるからな。見られている方がいいって人もいるんだろ」

「まぁ、そうでしょうね。また、憎いくらいに郁が冷静だろうし……」



それはそうですよ、だって菅沢さんにとっては、

男女の色々なんて興味のない世界でしょうから。

冷静に見ていられるんじゃないですか?

あ、いやいや、男優さんには興味あるのかな……



「それより編集長、新企画どうですか?」

「うーん……もう少し待ってくれ。まだ結論が出ない」

「また占いで決めたら、郁が怒りますよ」

「わかっているって」

「それでなくてもあいつ、陽のことで近頃頭抱えてますからね」

「おぉ……そうだったな」




『郁、僕……夜の8時までに帰ってきてくれなかったら、出て行くから!』




へぇ……あれって、公認事項なんだ、編集部の。

まぁ、確かに、世の中には色々な趣味の人がいますからね。



「和ちゃん、出来上がりの原稿チェックしてから、キャプション入れておいてくれる」

「はい、わかりました」


その日は結局、菅沢さんが現場から戻ることはなく、

『BOOZ』編集部の全員が、定時で席を立った。





仕事が早く終わって、睡眠を取れた次の日は、とっても気分がいい。

今日はいいことがたくさん、起きるといいけれど……


「おはようございます」

「おはよう……」


及川さん、昨日の発言以来、また私の目を見ようとはしない。

次に驚いて見てくれるのは、いつになるんだろう。


「おい、郁、いくらなんでもお前、それはまずいだろう」


細木さんの携帯にかかってきたのは、菅沢さんからの電話のようだった。

なんだかわからないけれど、細木さんが私の顔をやたらに見るんですけど。


「あの……何か」

「いや、うん、和ちゃんは確かにいるけれど、でも、おい、郁!
うわぁ……あいつ切りやがった」


昨日といい、今日といい、やはり菅沢さんちょっと普通じゃないみたい。


「和ちゃん、今日は悪いんだけど、陽の相手をしてやってくれないか」

「陽? あ、それってあの、菅沢さんの……」

「あぁ。あいつ今からここへ連れてくるって言うんだ」

「今から?」


どうしよう。私どんな顔をして会えばいいの?

『夢尾花』先生みたいに、正体不明のようなタイプなのか、

それとも……

BL漫画に出てくるようなカップルって、ほとんど美男同士なんだよね、

菅沢さん、性格のぞけば結構いい男だし……

どうしよう、手なんてつないで現れたら、私、冷静に対応できるかな。

これから、どんな顔して菅沢さんと接していけばいいのよ。


「菅沢さんの『彼』ですよね、陽さんって」

「彼氏? あ、まぁそんなところだね」


『彼氏』って言わないのかな、こういうとき。

えっと『パートナー』とか言うべきなの?


「あいつが違反ばっかり起こすから、もう勘弁してくれって断られたらしくて……」

「断られた?」

「うん……保育園」




保育園?

何、何……どういうこと? 菅沢さんの『パートナー』って保育園児なの?

それって……いくら恋愛は自由だとしても、法律に違反してませんか?



17 膨れた宝物


ちょっと小耳に挟んだ情報では、本当に『見ていて』と思う女優さんもいるそうです。
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コメント

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法律違反!

おおお、園児。 

随分若い彼氏……笑。

菅沢さん、性格のぞけば結構いい男だし……

和、それを言っては~ 笑

基本です。

やっぱいい男なんだ(ってそこか?食いつくとこ^^;)

園児ということは郁の子供?母親は出て行った?

勝手に決めてる(爆)

私の、私の彼はぁ~

天川さん、こんばんは

>随分若い彼氏……笑。

はい、ちょっと度を越えた若さです(笑)

>菅沢さん、性格のぞけば結構いい男だし……
 和、それを言っては~ 笑

和は正直なのです。
心の声まで、みなさんにバッチリ聞かれちゃいますね。

私の、私の彼はぁ~

yonyonさん、こんばんは

>やっぱいい男なんだ(ってそこか?食いつくとこ^^;)

だろうね。そうじゃないと、空想したくない……でしょ?(笑)

>園児ということは郁の子供?母親は出て行った?

yonyonさん推理が当たるのかどうなのか、
それは次回へ続きます。