17 膨れた宝物

17 膨れた宝物



菅沢さんが男性を好きなわけではなかった。



菅沢陽(よう)くんは、菅沢さんのお姉さんの息子で、

ただいま保育園の年中、生意気盛り。

どうして菅沢さんが育てているのかまでは、細かく聞いていないけれど、

とにかく預かってもらっている『きりん保育園』では、

お迎えは夜8時までが原則なのに、違反ばかりしていたため、

堪忍袋の緒が切れた園長先生に呼び出され、退園を迫られた。

それでもなんとか頭を下げたというが、向こうは首を縦に振らず、

今日は職場につれてくることになってしまう。




しかも……




この保育園児、以前駅前の大きな階段で、

私に『ブス』という捨て台詞を吐いた、あの子だったなんて。


「なんだ飯島、陽と会ったことがあるんだ」

「はい、あの駅前の大きな階段で、思い切りブスと言われました」

「あはは……そりゃ悪かったな。ほら、陽。ちゃんと謝れ」

「やだもん」


陽くんはそう言うと、私に向かって飴を一つ放り投げた。

それでも顔は照れくさそうに、笑っている。


「何よこれ、謝っているつもり?」

「一個やる!」

「そりゃどうも、ありがとう」


包み紙を取り、口に入れると、甘いいちごの香りが広がっていく。

美味しいねと言ってあげたら、陽くんはさらなる照れ隠しなのか、

アカンベーと返してきた。


「階段っていうことは、飯島は『森山駅』を使っているんだ」

「はい……下宿させてもらっている家が、2丁目なんです」

「へぇ、そうだったのか」


『森山』と呼ばれる山を挟んで、私と菅沢さんは隣同士の町に住んでいた。

あの階段よりも向こうに住む人たちは、主に私鉄路線を使うようで、

路線が違ってしまうと、距離的には近くても会わなくて当然だ。


「郁、おなか鳴った」

「ここへ来る前に食べたばっかりだろうが。お前も飴なめとけ」


育ち盛りの保育園児、陽君は、持ってきたリュックからいちご飴を取り出し、

巻いている紙を両手で開く。まだ幼くて、ぷっくりした手。


「どうするんですか? これから」

「うん……」


今は『BOOZ』が忙しい時期ではないため、ここへ陽くんが来ていても、

それほど邪魔扱いされないが、これから毎日ここへ通ってくるわけにはいかない。

なにより、慌てて片付けた雑誌のグラビアも、保育園児には刺激が強すぎる。


「保育園から、一人で家に帰らせるわけにもいかないしな」

「それは出来ませんよ、誰かがちゃんと迎えにいかないと」

「迎えにいけないから、悩んでいるんだろうが」

「まぁ、そうでしたよね」


完全に仕事の時間が夜だと決まっていれば、それを認めてくれる保育園が確かにある。

しかし、その日によって、時間がまちまちになるというのは、

確かに預かる方からすれば、迷惑だろう。


「あ!」

「ん?」

「私、手助け出来るかも知れません。いえ、正確には私ではないんですけど」


私が思い立ったのは、津川の敦美おばさんに陽くんのお迎えを頼むということだった。

おばさんは車に乗れるので、あの階段をわざわざ登らなくても、

『きりん保育園』へ行くことができる。


「飯島、そんなことを頼むのはあまりにも失礼だ」

「頼むだけ、頼んでみましょうよ。
敦美おばさんも、私達編集者の気持ちは、わかってくれる人なんです。
津川のおじさんと私の父は、『東西新聞』の記者でしたし、母も敦美おばさんも、
そんな男を認めた結婚ですし。決まった時間に帰れなくなる人の気持ちも、
理解してくれるかもしれません」

「いや……でも……」

「お姉さんのお迎えが来るまでの話じゃないですか」


何も細かいことなど知らずに、単純にそう言葉を出してしまった。

その瞬間、菅沢さんが表情を変える。

陽くんがそばにいるから、細かいことは聞けないけれど、色々と訳ありなんだろうか。


「遠くの親戚より、近くの他人です」


もちろん私も手伝うつもりで、敦美おばさんに連絡をすると、

子供が好きだという理由で、当たり前のように承諾してくれた。


「はい、菅沢陽くんです、今……ねぇ、陽くん、いくつ?」

「俺、5才」

「5才です」




人生はケ・セラ・セラ

悩んでいるよりも、なるようになると行動した方が、

結果的に、解決することだって多い気がする。





「本当にずうずうしいお願いで、申し訳ありません」

「あら、そんなに頭を下げないでください。
和ちゃんがお世話になっている先輩のピンチですもの。
私が役に立つのなら、逆に嬉しい限りよ」


その日の帰り、早速菅沢さんと陽くんは、津川家へ挨拶にやってきた。

玄関脇にある大きな金魚の水槽がお気に入りで、陽くんはそばを離れない。

文則おじさんも、自分の趣味に興味を持った陽くんがかわいく思えたのか、

そばでなにやら解説をつけている。


「それにしても……」


今までうっすらごまかして来た『BOOZ』の中身について、

初めて敦美おばさんに語ることとなった。

陽くんがこっちに来ないことを確認し、おばさんはページをペラペラとめくる。


「まぁ、この雑誌があふれかえっているところにいるよりは、
我が家で菅沢さんの帰りをも待つほうが、教育上いいかもね」


いつもなら、そんな言葉に動じない菅沢さんも、今日ばかりは何も言えないみたい。


「でも、今の子ってすごい成長ぶりなのね……」


おばさんが目をとめたグラビアアイドルの女性。

胸の谷間の深さが、普通とはいえないくらいすごい。


「これ、本物?」


おばさんはグラビア女性の胸の膨らみを、人差し指でちょんちょんと触れた。

紙だっていうのに、おっかなびっくり触れているのが、なんだかおかしくなる。


「思い切り寄せていて、実際に圧迫を外すと、しぼむことがよくあるんだって」

「しぼむ?」

「細木さんが言ってましたよ、ね、菅沢さん」


廊下をパタパタ走る音が聞こえ、陽くんがリビングへ顔を出した。

おばさんは慌てて雑誌を閉じると、新聞の間に挟みこむ。


「ねぇ、郁。おじちゃんとお風呂に入る」

「何を言ってるんだ、陽。もう帰るぞ」

「やだ……まだ帰らない」

「陽!」


陽くんの後ろから出てきたおじさんは、遠慮しないでいいからとさらに後押しする。

なんだかおじさんもおばさんも、陽くんが来てくれて嬉しそう。


「菅沢さん、よかったら主人にお風呂へ入れさせて」

「いえ……でも」

「本当に主人は子供が好きなのよ。
うちには子供がいなくて、ここにいる和ちゃんも、弟の敬君も、
何度お風呂に入れたかわからないくらいなんだから。だから大丈夫」


困惑する菅沢さんを横に置いたまま、

3分後には陽くんの歌う、『戦隊ヒーロー』の主題歌が、津川家に響きだした。



18 商売繁盛


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コメント

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可愛い

陽君、可愛い。

飴で謝罪だなんて。(^_^)

昨日の続きで失礼しますが、

サザエさんの八畳は、ネットか図鑑みたいなので見た記憶があります。

アニメだと、広く見える……

教えて!

『ブス!』と叫んだ子か~
元気はちゅらちゅ~。だが、先が思いやられそう・・・

そんなこんなで菅沢さんと?
テラスの君はどうなるの?
仕方が無い私がなんとかしよう!って「えるすて」の誠一郎さんか?(爆)

なぜかももちゃん作品はイケメンが置いてけぼり。

天川さん
>サザエさんの八畳は、ネットか図鑑みたいなので見た記憶があります。
いや・・何故8畳なのかが知りたい!おせーて!

親指の正体

天川さん、こんばんは

>陽君、可愛い。

はい、菅沢のお相手は、5才の保育園児でございました。
どんな存在になるのかは、これから……です。

>アニメだと、広く見える……

あ、そうそう、確かに。
自分の8畳と比べたら、確かに広く見えますね。

親指の正体

yonyonさん、こんばんは

>そんなこんなで菅沢さんと?
 テラスの君はどうなるの?
 なぜかももちゃん作品はイケメンが置いてけぼり。

あはは……私の作品を読み続けてくれているyonyonさん。
すでに『テラスの君』とは諦め状態なの?
ちなみに菅沢だって、性格をのぞけばいい男なんだよ(by和)

置いて行かれるのかどうかは、これから、これから。

天川さんが言っているのは、サイズのことだけだと思うよ。
『なぜ8畳なのか!』という理由じゃ、ない気がするんだけど。
どうなんだろう。