18 商売繁盛

18 商売繁盛



飯島和。人生初めての風俗店取材。

何も知識がない私の方が、おもしろい記事が書けるかもしれないと、

菅沢さんに指導もなにもなく、放り出された。

人気絶頂のアイドル『木場カレン』に似ているという女性は、

なぜか仕事の名前が『のどか』で、もしかしたらこれは罠なのかと首を傾げたくなる。

取材に来たのが女性ということに動じることなく、

『のどか』さんは限りなくマイペースに見えた。



「私のお得意さんね、日向淳平……」



エ! ウソ! あの日向淳平が、この店に?

こんなヒラヒラした衣装の女の子と、えっと、その……なんていうの?

いちゃついていたってこと? やだ、イメージ……イメージが!



「……に結構似ていてね」



『のどか』さんがそう言いながら、ニヤリと笑う。

このぉ……こんな脅かしかけて、いつも記者で遊んでいるんだな。

似ているなんていうのもウソだろう。はぁ……まんまと嵌った私。


「はい、その日向淳平に似た方が?」

「この真っ赤なペディキュアが大好きなの。あ、それに胸にある蝶のタトゥー……」

「タトゥー?」

「シールだけどね、それをつけてあげると、すぐに喜んで鼻をつけてくるの」


『のどか』さんは衣装をチラリとめくり、そのタトゥーシールを見せてくれた。

結構、きわどいところについてますね。

そこに鼻をつけるってことは、まぁ、それなりのサービスをしているってことで……


「あ、そうそう、この間ペディキュアをかわいく塗ってあげたら、
楽しませてくれるお礼だって、左足に『ジバンティ』の時計つけてくれたんだ」

「『ジバンティ』?」

「そう、150万円のピンクサファイヤつき。
前から欲しい、欲しいって言っていたら、買ってきてくれたの。優しいでしょ?
大学の先生とか言っていたけど、どうなのかな……」


ニッコリと微笑んだ『のどか』さんは、それを質に流したと笑う。

『のどか』のくせに、やることは全然『長閑』じゃない!


「あ、編集さんダメよ、それは書いちゃ。ちゃんと使うからねって約束したし」

「わかりました、書きませんけど。
でも、もしつけていないことがバレたらって思わないんですか?」

「バレないよ、だって同じもの2つあるし、別の人からもらったのが……」

「はぁ……」


同じ時計を別の男性2人にねだり、片方はお金に変えたのだと、

『のどか』さんはあっけらかんと答えてくれる。

ただいま世の中は『不況』という波に漂っていませんでしたっけ?

将来の目標なんてたずねてみるが、うーんと首をかしげるだけで、

何も返ってこない。


「そんな難しいことどうだっていいじゃない。
ねぇ、そんなことを聞く編集さんって、間違いなく彼もいないでしょ」


『のどか』さんは、手際よくペディキュアを終えると、今度は私に興味を持ち出した。

彼氏はいないのか、どうして別れたのかと、質問をぶつけてくる。

それは関係ないでしょうとごまかしても、自分への質問に当てはめてまた切り返され、

気付くと私の方が、あれこれ話しているほうが多くなる。


「うふふ……男はね、みんな一緒なんだよ。
結局女にかわいい顔して『お願い……』されるのが好きなのよ。
編集さん、もっとかわいく迫らないから。コツ、教えてあげようか?」


男の人にモテるコツ?


「男はみんな一緒……ですか?」

「そうそう一緒。肉体労働のお兄さんも、頭脳明晰な学者さんも、
カチッとした素敵なスーツの男性も……中身は一人の男でしょ」



……素敵なスーツの男性も? ということは、『王子様』も一緒?

その方法を聞いたら、王子様にモテますか? 私。


「いや、ううん、いいです。そんなことを聞いている場合ではないので」

「エーッ、もったいないなぁ」


そうなんですけど、聞いているわけにはいかないのよ。

聞きたいことを聞けたのか、聞けなのかわからないうちに、

外から取材はそれくらいでの声がかかった。

『のどか』さんは掲載誌が届くのを待っていますと笑顔を見せ、

ふわふわと浮き上がるような、超がつくくらい短いレース衣装のまま、更衣室へ消えた。





「まぶしい……」


外へ出ると、すでに太陽は結構上まで昇っていた。

もぐらが地上へ出てくるときって、こんな感じなんだろうか。

店側にいただいた宣伝資料をリュックに押し込み、駅に向かって歩く。

何やらスポーツ新聞を読みながら、つぶやいているおじさんや、

酔いが冷め切らなくて、座り込んでいるような人もいる。

気持ちが反対側の通行人に向いていて、どこかボケっと歩いていたからなのか、

いきなりクラクションが鳴らされた。


やだ、こんなところで出会う車に乗っている人たちって、

真っ黒いサングラスをした怖い人たちじゃないの?


「飯島さん!」




知りません、知りません。

あなたなんて私は……




……あれ? その声は




「田ノ倉さん」




いけません、『テラスの君』が、こんな場所にいるなんて。

しかも、そんな爽やかな顔で、まさか……




……まさか、どこかのお店から、『スッキリ』と出てきたわけではないですよね。

お店の女性の足に、プレゼントだなんて言って、高級時計つけたりして。

胸の『ちょうちょ』に、鼻なんて……




「どうしたんですか?」

「あ、あの……取材に」


いけない、私。

つい、疑いの眼差しで田ノ倉さんを見てしまった。


「取材? そうですか。これから編集部に戻りますか?」

「はい」

「じゃぁ、乗ってください」


どうしよう……なんて悩むはずもないじゃない。

こんなチャンス、滅多にあるものじゃないしね。


「ありがとうございます」


しかもラッキーなことに、後部座席にダンボールが2つ置いてあって、

私は当たり前のように、助手席に座る。


「田ノ倉さんもお仕事ですか?」

「うーん……」





エ! 仕事じゃないの?

まさか本当に、『スッキリ』と……





「仕事……ですね」





だから、答えをためないでください。

絶対に違うとは思っていましたが、一瞬、心臓が5倍くらい跳ねました。


「京塚先生のところへ行ってきました。
連載打ち切りの件と、『MELODY』へ移動して貰えるかどうかの相談をしに。
大通りは混むので、ここを抜けるのが一番速いものですから」


田ノ倉さんは、長い間『SOFT』で連載を持っていた京塚先生に、

辛いことを話したのだと、どこか寂しげに答えてくれた。


「2作品、ダメでした。アンケートでも一番悪くて。
10年前まではトップの先生でしたが。時代も移り、子供たちの恋愛感も変化した。
今現在の高校生が、どんな恋愛をしているのかは、もう先生にはわかってないなと」


確かに、私が学生の頃見ていた漫画と、今の漫画では絵も違うだろうし、

ストーリーも変わっているだろう。

その時代に敏感になり書き続けることは、思うより難しい。


「嫌ですね、嫌なことを伝えるっていうのは。それでも僕が……あっ」

「どうしました?」

「いや、また、飯島さんに愚痴を言っているなと」


田ノ倉さんはそういうと、もういいですと笑い出した。

はにかむような眩しい笑顔に、太陽の光りが重なっていく。


「関係ない人間には、楽に語れるんですよ、田ノ倉さん」


同じ場所にいないから、だから気楽に話が出来る。

いつも人に気を遣う人だから、きっと、ふと力が抜けるのだろう。


「そうかな……」


信号が赤に変わり、車がゆっくりとスピードを落とす。


「飯島さんが話しやすい人だから、つい言ってしまうのかもしれません。
何かを話すと、どこかから元気をもらえそうな気がして……」


田ノ倉さんが横を向いた。

白いテーブルを挟むより、エレベーターで並ぶことより、なんだか近くに感じて、

私の心臓がまた速く鼓動を打った。



19 二人の時間


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コメント

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日向淳平

日向淳平……出てきたと思ったら、似てる人だったんですね。笑。

テラスの君とドライブ!

これが仕事でなければ……

更にラッキーだったのに?

エエッ!

な、なに!淳平がこんなところ(すみません)で抜いてる?ワワワワ・・・・(@@)

テラスの君。妙なところでお会いしますね。

時代の流れが速すぎて、付いて行ききれない。
私もだな・・(--;)

初取材

yokanさん、こんばんは

>菅沢さんに「彼氏」と出てきたときには(@@;)でしたが、

あはは……ももんた、あらたな世界に! と思いました?(笑)
いえいえ、ちょっと自信がないので、書いていません。
陽くんの存在に、どう和たちのバランスが動くのか、
これからもお付き合いください。

初取材

天川さん、こんばんは

>日向淳平……出てきたと思ったら、似てる人だったんですね。笑。

はい、思わせぶりに展開しております(笑)
まぁね、淳平にはみなさんご存じの史香がいますので。
こんなところにいたら、怒られちゃうでしょう。

さて、ラッキーなドライブに出発した和は……

初取材

yonyonさん、こんばんは

>な、なに!淳平がこんなところ(すみません)で……

こらこら、yonyonさん、よく読まないと。
淳平ではなくて、『似ている人(byのどか)』ですよ。
ここに出入りしていたら、史香が怒ります(笑)

>時代の流れが速すぎて、付いて行ききれない。

難しいですよね。
通ってきた道と言われても、今の学生とは自分も全然違うとしか思えないし……
うん