19 二人の時間

19 二人の時間



風俗店の取材帰り、偶然近くを通った田ノ倉さんが、私を車に乗せてくれた。

ここから『秋月出版社』まで、どれくらいかかるのだろう。

普段車で道を走らないから、よくわからない。

出来たらものすごく遠い方が、ありがたいんですけど。


「車だと、どれくらいかかるんですか?」

「そうですね……この道路の状態なら20分もあれば」




20分かぁ……

そうなんだ、思ったよりも少ないな。




「急いでいるのですか?」

「あ、いえいえ、全くそんなことはありません」


いけない、いけない。

贅沢を言ったら、神様がバチを当てに来る。


「あれからも屋上ランチは、していますか?」

「あ……いえ」


あの日、東原さんに怒られて以来、屋上には行っていない。


「そうですか。僕は今までも、よく屋上へ行っていました。
でも、近頃はあなたがいないかな……と、思いながら行く自分がおかしくて」


……本当ですか?

私、単純なんですよ、少しだけ、ちょっとだけ期待してしまうのですが。


「飯島さん」

「はい」

「よかったら、このまま一緒に、ランチでもしませんか? 屋上ではないですが」


なんということでしょう。

もちろん私の頭はコクンと頷き……


「携帯が鳴っていますよ」

「あ、はい」


嬉しさのあまり、相手も確認せずに、慌てて受話器を開ける。


「はい、飯島です」

「おい、お前いつまでかかっているんだよ」





……菅沢さん。

どうしてこのタイミングでかけてくるんですか。





「あ、すみません、今戻ります……」


この声を聞いた後で、田ノ倉さんと楽しくランチなんて、出来やしない。

とても残念ですが、私はあの半地下編集部へ戻らないと。


「誰? 郁?」

「はい……遅いって怒っています」

「全く、あいつは短気だな」


田ノ倉さんはバックミラーを確認し、車を路肩に寄せ、私から受話器を奪い取る。


「郁、あと2時間かかるから」

「あ……」


菅沢さんの返事を聞くことなく、私の受話器はそのまま閉じられた。

田ノ倉さんは、私をきちんと編集部へ送るからと、自信満々な笑顔を見せてくれる。


「郁が飯島さんにあれこれ言うようだったら、僕が言い返します」

「いえ、あの……」

「それとも、ランチは迷惑ですか?」


私は普通よりも3倍くらい大げさに、ブンブン首を振る。

たとえ菅沢さんに怒鳴られても、1週間連続で残業させられても、

ランチに変えられるものなどない。


「では行きましょう」


人生は『ケ・セラ・セラ』、なるようになるのだ。

そう、いくら怒られたって、明日が来ないはずはない。



……たぶん。





田ノ倉さんと入った店は、『M's HOUSE』という西洋風の建物が目を引くお店だった。

シェフのお薦め、パスタランチは、

何種類かの料理を自分でチョイス出来るようになっている。


「飯島さん、嫌いなものはありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「でしたら、僕に任せていただいてもいいですか?」

「はい……」


店内に入る前は緊張したけれど、

思っていたよりもカジュアルな格好で食事をする人が多く、

さらに田ノ倉さんが選んでくれた料理が、今まで食べたことのないくらい美味しくて、

ふわふわしていた心が、落ち着くのと同時に、なんだか嬉しくなってくる。


「弟さんは大学生ですか」

「はい、私とは全く正反対で、危ない橋には近付かない人間です。夢は公務員ですから」

「へぇ……近頃の若い人にしては、珍しいですね」

「ですよね、男としては全く魅力がないよって、言うんですけど」


チキンからローズマリーの香りが、口に広がった。

少しカリッとした香ばしい皮も、美味しくて癖になりそう。



帰りに、マッチとかもらえるの? ここ。



「飯島さんは、堅実な人間よりも、夢を追う人の方が好きだと言うことですか?」

「……は?」

「そういう男性の方が、魅力的に感じるのかな……と」





なんだろう。

そんなふうに真っ正面から見られると、また緊張してしまうじゃないですか。

私のことなんて聞いて、どうするつもりですか?

漫画の資料にでも、なります?


「夢を追う人は好きです……でも、追いすぎて突っ走っているのも、困ります」

「はい……」

「正直、よくわかりません。どんな人かとか考えるより前に、
きっと心が勝手に動いていて、好きになったら好きだと思うので……」



田ノ倉さんの顔を見ながら、私が言えた答えは、そんなまとまりのないものだった。



20 価値観の相違


今どき、『マッチ』なんて置いてくれている店はあるのだろうか……
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コメント

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ランチ

菅沢さん、タイミングが。

テラスの君とのランチいいなあ……

ドキドキ……

もしや?

なんだ、この微妙に誘ってる感。
テラス様、和で良いんですか?
ここに私がいますよ。なんちって(ぷ)

良い雰囲気じゃないですか。先に期待できるかな?

ランチして……そして

天川さん、こんばんは

>テラスの君とのランチいいなあ……
 ドキドキ……

天川さんの気持ちと、和の気持ちは一緒……のはず。
ドキドキの後はどうなるのか、
それは次回へ!

ランチして……そして

yonyonさん、こんばんは

>なんだ、この微妙に誘ってる感。
 テラス様、和で良いんですか?

あはは……誘っているように思えるよね。
和も少なからず『むむっ……』と感じたのでは……

さて、どういった雰囲気になるのかは、次回へ!