22 名か実か

22 名か実か



新しい号が出来上がれば、また次をどうするかで会議が開かれる。

今日の『BOOZ』会議は、新連載について。


「ピンクマシュマロは、あと2回で終了にしようと思っている」

「終了? 『夢尾花』先生はご存じなんですか?」

「あぁ……先生の方からちょっと休ませてくれって連絡があったんだ」


一昨日うかがったときには、そんな話出ていなかったなぁ。

そうか、ネクタイという現実が重すぎて、考えられなかったのかも。


「それで、次は園田先生に了解をもらった。ただし、1年だ」

「園田先生ですか、それって『MELODY』の了解済みですか?」


園田先生とは、京塚先生同様、一昔前の少女漫画界でブームを作った一人だ。

先生の描く男性は、笑顔が眩しくて、女性に優しくて……

そう、『テラスの君』、田ノ倉さんにもっとも近い。


「まさか園田香保里で書くわけにはいかないからさ。
何かペンネームを考えておくと昨日、連絡をもらった。
飯島、お前が挨拶がてら聞いてこい」

「私ですか?」

「そうだ飯島さん。君、何か原作になるようなアイデアはない?」


秋田編集長は、園田先生にアイデアを土産にすればいいと言い始めた。

漫画のアイデアなんて、そう簡単には浮かばない。


「日常生活の中にあるような一コマでいいんだよ」

「えっと……」


アイデア? ここで何か言わないといけないの?

こういうときに限って、いつもバラバラしている面々が、

一斉に視線をこっちへ向けてくるし……

そうだなぁ、私がもし、漫画を書くのだとしたら、そうしたら……





そうしたら……





「たとえば……」

「うん」

「元気だけがとりえの女の子が、自分とは正反対の落ち着いた雰囲気を持つ男性、
あの……ベンチで本を読んでいるような男性に惹かれるんです」

「ほぉ……」

「それで……」

「えっと、それで……」




『楽しそうですね』

『……あなた、誰ですか』




「はじめは、お互いに探りあいのような言葉しか交わさないんですけど、
思わぬところで再会して、話をするうちにだんだん距離が近くなって、
それで……」

「うん……」




『よかったら、このまま一緒に、ランチでもしませんか? 屋上ではないですが』




「いつも会うベンチではなくて、一緒に食事でもしましょうって誘われて……」

「それでホテルへ直行か」

「あぁ、いいですね、急に盛り上がるのも」




ん?




「女も急な展開に驚きながらも、強引な男を受け入れるわけだ。
それからその男の虜になっていく……あなたの言うことなら、何でも聞きますって」




……いえ、あの……



「おぉ! いいね、その男に、アブノーマルな世界に引きずり込まれていく、
その何も知らないような女が」

「思い切って仮面でもつけるか? 蝋燭もセットで」



……仮面? 蝋燭?



「あぁ、いいっすね、鎖って手も……」

「ちょっと待ってください、よくないです、違います!」


どこがどう違うのかという目で見ている、細木さんと、

突然私が大きな声を出したことに慌てている編集長と、

何もかもわかっていて、そうからかっているはずの菅沢さん。


「食事って言いました。誰がその……あの……こうなるなんて……」



何が仮面よ、蝋燭よ。全くもう……



「あのなぁ、飯島。これは『BOOZ』なんだよ、
男と女はさっさとそうならないと、連載にならない。
うちの読者の誰が、キラキラした男の目と、
レディーファーストを期待していると思っているんだ。
お前のその、超がつくような純愛路線のアイデアは諒にでも持っていけ」

「そんなことできるわけないじゃないですか」

「どうしてだ」





だって、アイデアのご本人なのに……





結局、私の頭の中から『官能漫画』のアイデアなど出るはずもなく、

何もお土産はないまま、園田先生の仕事場へ向かうことになった。

園田先生はアシスタントを3人使っていて、人物以外の絵などは、

彼らがほとんど書いている。


「あはは……そうだったの」

「はい、この雑誌が『BOOZ』だったことを忘れていた私が悪いんですけど。
菅沢さんも細木さんも、どんどん突っ走るから」

「まぁ、あの二人はそれが仕事だからね。『BOOZ』のような雑誌も結構あるけれど、
売り上げではトップなんだよ」

「……トップなんですか? 『BOOZ』って」

「そう。『秋月出版社』としてはイメージもあるから、
『SOFT』は全面に押し出しても、『BOOZ』は公にしないんだろうけれど。
看板雑誌と利益をあげる雑誌は、必ずしも一緒じゃないからね。
『BOOZ』の売り上げが、他の編集者をどれだけ食べさせているか……」


『BOOZ』が、この業界でトップの雑誌だったとは、それは知らなかった。

書店に並ばないことを考えたら、すごいことだよね。


「それにしても、今の飯島さんのアイデアを聞いたら、
昔の自分の作品を思い出したわよ。えっと……『桜ヶ丘で』とか」

「あ、私、読んでいました。あのラストシーン、すごく感動して、
高校時代泣いたんですよ」

「あらそうだったの? ありがとう」


身分違いの貧乏な女の子が、少し体の弱いお金持ちの男の子と恋に落ちる、あの話。

お父さんが二人の交際を反対して、それでもやっと許してくれたら病気が進行して、

結局、男の子が亡くなる前に、

『自分の幸せは君の心にある……』ってセリフを言うんだよね。

涙、涙……


「もうあれは無理ね。今は少女漫画でも結構きわどいところくるのよ」

「そうなんですか」

「そうよ、時代は変わるの。
そこら辺についていけないと、京塚先生みたいに空っぽ大将になっちゃうからさ」


園田先生は、口にくわえたタバコをふかしながら、そう意見を述べた。

結構辛口の先生なんだな。

私の知っている漫画は、ベッタリ甘いものが多かったけれど。

漫画のイメージと作者が、同じだとは限らないんだなぁ……


私は『BOOZ』の封筒を半分に折りながら、

また一つ、何かを覚えた……と思うことにした。



23 ドキドキの距離


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コメント

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お呼びでない?

漫画のアイデア? あっち系ですよね^^
何なら私が出しましょうか?って(爆)
♂同士はいらないか(^^;)ハハハ

弾かれた訳は「〇〇ボヨヨン♪」と入れたから、
〇にしたら大丈夫かな?

どうかなぁ

yonyonさん、こんばんは

>漫画のアイデア? あっち系ですよね^^
 何なら私が出しましょうか?って(爆)

今回は、和が頭を捻っていますけど、
こんなこともあるかなぁ……の想像です。
yonyonさん、アイデアあるのなら、
作品になりそうなの?

弾く文字っていうのがあるのかな。
このブログにしてからは、経験無いけど。