23 ドキドキの距離

23 ドキドキの距離



園田先生は、私が学生時代に読み漁った少女漫画のベテラン作家だ。

純愛路線だった作品とはイメージが違い、破れたジーンズを履き、くわえタバコ。

結構きつい口調で、ストレートな意見を言ってくれる。


「どうして『BOOZ』に書くのかってこと?」

「はい、『SOFT』や『MELODY』で書いている先生が、急に『BOOZ』だなんて。
抵抗ないですか? 頼みに来ていて変な質問ですが」

「いいわよ、疑問に思ったことは聞いてみる。それは基本だもの」

「はい……」


よかった。くだらないって怒られるかと思ったけれど、

この先生、度量は広そう。


「抵抗かぁ……」

「菅沢さんは、『BOOZ』の場合、少女漫画とは組み立ても違うって……」

「それはそうだろうね。うーん、どう説明しよう。
あ、そうだ、ほら、ケーキが大好きな人でもさ、
あまりケーキばっかり食べているとそれに飽きてしまって、
妙にすっぱいものが食べたくなるときってあるでしょ、それが今の私ってところかな」


時折、アシスタントさんが描いたものを見せに来て、

先生はそのたびに手直しをしたり、OKを出したり忙しい。


「なぁんてかっこいいことを言ってみたけれど、
本当のところはね、郁が頼んできたからかな」

「郁? 菅沢さんですか」

「そう、郁がね、まだ『友成書房』にいたときからの知り合いなの。
他の編集部員ならこんな依頼受けないけれど、郁だからね」


『友成書房』。

菅沢さんが以前、勤めていた出版社だ。社長が権利を買ったという……


「うちのアシスタントの子と、郁が知り合いでね。一緒に飲みに行ったことがあったのよ。
でも悪いけどさ、『友成書房』も『BOOZ』も、
その頃は、たいしたことない会社と雑誌だったから、
編集者もたいしたヤツじゃないだろうとそう思っていたの。
だけれど、郁は違っていた。アイツのものの考え方、それに妙な強気な性格が好きでね、
いつか一緒に仕事しようって、私から握手しにいったの」


何年前の話しなのかはわからない。私がその場所にいたわけでもないから、

シーンを見たことだってない。

でも、私の頭の中には、なぜだか納得の行くシーンが浮かび上がっている。



菅沢さんが、本当にすごい人だって言うのは、ずっと感じていることだ。

もちろん、仕事ですけどね……



「それにね、私が『MELODY』から退けば、
京塚先生の書くチャンスもあげられるでしょ。諒も助けてやらないと。
郁と違って諒は、自分で溜め込んじゃうから。
きっとこのままの状態じゃ『MOONグランプリ』の授賞式が荒れるからね」


郁と諒。

園田先生からだと、この親しげな呼び方も、どこか納得して受け入れられた。

姉御肌のベテラン漫画家さん。


「ねぇ、何描こうか。飯島さん、座ってないで本気のアイデア出してよ」

「いえ、無理です」

「そんなこと言って。意外に『BOOZ』って女性読者がいるんだよ、知ってた?」


書店に並ぶ雑誌だと、とても手に取りにくいけれど、

通販で取り扱う『BOOZ』のような雑誌は、宛名を男性名にすることは可能で、

こっそりと読む女性読者も多いのだと、園田先生は言い切った。


「女心は複雑よ、飯島さん」


園田先生のペンネームは『菅原リョウ』だという。

なんだか誰かさんと誰かさんの名前がくっついたようで、笑ってしまった。





園田先生は、『MELODY』の連載は終了したものの、

『SOFT』で行われる『相談室』の今月担当で、

『夢尾花』先生同様、出来上がった原稿を運んでくれないかと頼まれた。

ここのところ忙しくて本社ビルへ行くことは減ったが、

田ノ倉さんはいるだろうかと、つい見てしまう。


「あ……」


こんなこともあるんだ………。

広い『SOFT』編集部の中に、田ノ倉さんが一人だけ座っている。

いつもの『STAR COFFEE』のカップも置いてあって、

かけたメガネを外して、目頭を押さえている姿を見ていると、

また私の鼓動が、速くなってしまう。



『頼まれた原稿を、持って来ました』

ただそう言えばいいのに、もう少しだけ田ノ倉さんを見ていたくて、





……ずっと、このまま、見ていたくて





「あ……」


まずい、気付かれてしまった。

こうなると逆に、どうしたらいいのかわからない。


「飯島さん」

「すみません、あの園田先生から頼まれた原稿……」

「あぁ……ありがとう」


それで終わりのはずだった。

でも、田ノ倉さんが、今何をしているのか説明してくれて、

『BOOZ』とは全く違う、『SOFT』の編集を聞いているうちに去りがたくなっていく。


「仕事も分散されているんですね、さすがに」

「抱えている内容が多いですからね。
このページだけでも、細かく7つに分かれているんです。
だからといって、一人だけしか進行を知らないと、他にも迷惑がかかりますから、
全てここに貼りだしてあります」

「はい」


田ノ倉さんの顔が、すぐ近くにまで寄ってきた。

説明をしてくれているのだとはわかっているけれど、

どうしよう、耳が赤くなっている気がする。



相手は『王子様』なのだから。この『秋月出版社』を将来背負ってたつ、

そんな人なのだから……



落ち着いて、私の心臓。



「これ以上語っていると、また郁に怒られますね」

「あ……はい」


いけない。

田ノ倉さんに言われる前に、私が気付かないといけないことだった。


「飯島さん」

「はい……」

「また一緒に食事に行きませんかとお誘いしたら、迷惑ですか?」



人生は『ケ・セラ・セラ』、なるようになる。

だからあまり悩まず、受け入れていこう……

『迷惑だなんて、そんなことはありません』そう言えばいいのに、

田ノ倉さんを前にして、私は固まってしまい、なかなか言葉が出なかった。



24 嫉妬の目


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コメント

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タイミングがいいわぁ

田ノ倉さんと食事♪

『菅沢さんが、本当にすごい人だって言うのは、ずっと感じていることだ。
もちろん、仕事ですけどね……』
仕事でですかぁ。笑

ドッキドキ

天川さん、こんばんは

和の一言、笑っていただけたようで……
まぁ、菅沢との関わりは、今のところ仕事が多いので。
田ノ倉を見るようには、見られないのでしょう(笑)

ドッキドキ

yokanさん、こんばんは
すみません、お返事遅れちゃいました。

>テラスの君と菅沢さんは、
 お互いに相手を思いやる気持ちがありながらも関係は複雑そうだね(ーー;)

認め合っているけれど、環境が違うので、
認めきれないところもあるようです。
そんな二人の間に、入っていけるのか……和は。

姉御の園田先生、
この後も、活躍してくれます。