24 嫉妬の目

24 嫉妬の目



落ち着け、私。

『テラスの君』、田ノ倉さんにしてみたら、

珍しい種類の女の子が見つかったくらいの気持ちなのだから。

いずれかはオーソドックスな美人の方がいいことに気付くだろうけれど、

それならそれでも悪くない。

ここで断ってしまったら、全てが消えてしまう。


「私でよかったら、いつでもお相手します。どんどん仕事の愚痴でもなんでも、
言ってください。ドン! と受け止めちゃいますよ」


『食事に行きましょう』と言えばいいのに、

どうして私の頭は余計な言葉をつけるんだろうか。

もう! これじゃ、ただのお調子ものじゃないの!

それでも優しい田ノ倉さんは、軽く笑顔を見せながら、必ず誘いますと約束してくれた。



また、こんなふうにドキドキする時間が待っているのだと思うと、

仕事にだってハリが出るというものだ。



「チーフ、会場から戻りました」

「あ……うん。ご苦労様」


『SOFT』編集部員、東原さん。

『MOONグランプリ』の会場へ行き、最終の打ち合わせをしてきたと報告し始めた。

私は頭を下げて、『SOFT』編集部を出る。

少しの『幸せ』タイムは終了。


「あ、飯島さん、少し待ってください」

「はい」


なんだろう、田ノ倉さんがデスクから何か取り出した。


「おい、諒、ちょっとこっちに……」


今まで姿も見えなかったのに、どうして今出てくるのかしら、増渕編集長。

こっちに来ようとした田ノ倉さんが、捕まってしまった。


「東原さん」


田ノ倉さんは東原さんに何かを手渡して、

それを受け取った東原さんは、一瞬曇った顔をする。


「エレベーター前まで行きますね」

「はい……」


あれ? 機嫌はいいみたい。

こんなにこやかな東原さん、珍しい。何かいいことでもあったのかな。


「チーフから、これを飯島さんに」

「これ?」


それは田ノ倉さんの印鑑が押してある『MOONグランプリ』の招待状だった。

東原さんは、これがあれば会場に入れますと説明してくれる。


「これって、先生方や受賞した人が行くものですよね」

「そうですよ、だから飯島さんにはちょっとお手伝いをしてほしいなと」

「手伝い?」


明日は土曜日。

基本的に『BOOZ』の仕事は入っていない。

それならば、そんな華やかな場所を見せてもらうのもいいかもしれないと、

気持ちが膨らんでいく。


「あ……でも私」

「とりあえず普段着で着てください。うん、その格好で」

「これで? でもジーンズじゃ」

「手伝いですから、最初は動けないと」


あ、そうか。

そうだった。これでも私、『秋月出版社』の社員だった。

招待される側になったつもりでいたら、大間違い。


「わかりました。じゃぁ、田ノ倉さんに……」

「チーフには私から言っておきます。これから編集会議が入りますので」


そうだね、ここは素直に引き下がろう、また余計な時間をとっていたら、

田ノ倉さんが菅沢さんに怒られてしまう。

明日の『MOONグランプリ』の出席を禁止でもされたら一大事。


「はい、それでは明日」

「お願いします」



明日……

どんなパーティーになるのかな。

楽しみ……





「へぇ、授賞式にね」

「うん、でも下働きだから、会場の隅に立つだけだろうけどね」

「それだって貴重な経験じゃないの。さすがに歴史ある出版社ね」


敦美おばさんは、そう言いながら手際よく揚げ物をあげていく。

私は食器を出しながら、子供のお茶碗を見つけた。


「これ陽くんの?」

「そうなの。ついかわいくて買っちゃったわ」


ぞうやトラが楽しそうに行進しているイラストは、

見ている私の気持ちまで、和ませてくれた。





次の日は、快晴だった。

会場は一流ホテル『クエンチホテル東京』の『天空の間』。

小さなリュックの中には、田ノ倉さんが認印を押してくれた券が入っている。

田ノ倉さんに笑顔になってもらえるように、一生懸命働かなくちゃ。



ドリンク運びでも、ゴミ整理でも、何でも頑張れる。

田ノ倉さんの役に立つのなら、足が棒になるくらい、動きますからね。



しかし、そんな気持ちは会場近くなればなるほど、不安へ変化した。

見る人、来る人、全てがドレスアップしていて、

とてもジーンズの人など、見つけられない。

スタッフの入り口はどこだろうかと探してみたが、

それらしき場所は、見当もつかなくなる。


「あの……」

「何か……」


勇気を出して、受付の前に立つと、明らかに場違いだという顔をされ、

私はリュックの紐を強く握り締めた。


「あら、飯島さん」




東原さん。よかった……

でも、そのドレス。




「ごめんなさいね、準備が早く終わってしまって。もういいのよ、着替えてきて」

「着替え?」

「そうよ、授賞式に出るのでしょう。そのスタイルじゃ……」


東原さんの周りには、同じように編集に携わっている女子社員が囲んでいる。

もちろん、全員が綺麗なドレスに、キラキラと光る宝石を身につけて。


「あら、まさかその格好で授賞式に出るつもり? 授賞式よ、授賞式。
とりあえずは普段着って言ったでしょ、とりあえず……って」


東原さんの周りにいた女子社員達から、クスクスと笑い声が漏れてくる。




……そうか、私、からかわれたんだ。

最初から、こんなふうにするために、あえて普段着でってそう言われたんだ。

冷静に考えたら、当たり前のことなのに、ちょっと浮かれていたのかもしれない。

田ノ倉さんと、話せたことに……




「飯島さん」


田ノ倉さん……

その驚きの顔は、私の格好がおかしいからですよね。

そうですよね。


「すみませんチーフ。招待状はお渡ししたんですけれど、
服装のことまではお伝えしてませんでした。だって、授賞式ですからね……
これくらいの格好をするのは当然ですし……飯島さんがご存じないとは思わなくて」


田ノ倉さんが、困った顔をしてしまった。

私、迷惑をかけている。

ここに立っていること自体、みっともないことなんだ。


「すみません。そうですよね、私、こんな素敵なドレスは持っていないので、
だから会場に入ることは無理だと思ったんですけど、つい見てみたくて……
失礼します」

「飯島さん、こちらへ……」

「あ、いえ」

「今から僕がホテルに頼みます。貸衣装くらいならあるでしょう」

「いえ、そんな……、私帰りますから」

「気にしないで、行き……」


田ノ倉さんが握った私の手を、誰かが強く握り、そのまま引っ張った。

驚いて見た腕の先にいたのは……





菅沢さんだった。



25 親子十色


突然出てきて驚かせるのは、覆面パトカーと菅沢しかいない!
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コメント

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やだね~

東原さん、してやったり!と思ったでしょうが、
逆効果だと思うよ。
誰が見たって意地悪したと分かりますから!

まあ、こんなところに菅沢さん、でも当たり前ね。
怒りのオーラを感じるけど(^^;)

菅沢さん、いつもタイミングのよい登場で!

テラスの君と菅沢さん、どうするのかしら~
ワクワク。

さて、ここから?

yonyonさん、こんばんは

>東原さん、してやったり!と思ったでしょうが、
 逆効果だと思うよ。

そうそう、以前のラスト文章で書きましたが、
東原と和……は、どうも子供じみた戦いを繰り広げそうです(笑)

さて、突然出てきた菅沢。
パーティーで、どうするのか……は続く。

さて、ここから?

天川さん、こんばんは

>テラスの君と菅沢さん、どうするのかしら~

ねぇ、どうして菅沢がここに?
と思っているのは、みなさんと和ですが。
それは次回へ。

田ノ倉とここで言い争いになるか、とっくみあいになるか……(笑)