25 親子十色

25 親子十色



「菅沢さん、どうしてここに」

「菅沢郁です。通ります」


受付担当者が静止するのも聞かずに、

菅沢さんはそのまま私の腕を引き会場内へ入った。

もちろん驚く人が多かったが、そんなことには目もくれず、堂々と立っている。


「何をしているんだ、お前は」

「それはこっちのセリフです。どうしてここにいるのがわかったんですか」

「今朝、陽と散歩をしていたら、津川さんに会ったんだ。
お前がここへ手伝いに行くって言った話を聞いて、もしかしたらと思った」


そういえば、昨日、ここに来ることが嬉しいと、敦美おばさんに話したっけ。


「しっかり話を聞かないお前もお前だけれど、諒も諒だ」

「菅沢さん」

「ったく、こうなったら腹いっぱい食べて帰るぞ」

「いいんでしょうか」

「いいも何もない。
元々、『MOONグランプリ』は、こんなチャラチャラした賞じゃなかったんだ」


はじめこそこちらを指差す人が何人かいたものの、授賞式が始まり出すと、

視線はそちらへ向けられた。挨拶をするために立つ社長の顔を、私は初めて見る。



菅沢さんのお父さんで、田ノ倉さんのお兄さんか……



「郁、飯島さん」

「園田先生」

「うわぉ! いいじゃないの、二人のその格好、爽快だわ。
私も精一杯逆らったつもりだけれど、パンツスーツが限界だもの」


園田先生はそう言いながら笑うと、会場内を歩いているホテルマンに声をかけ、

シャンパンを二つ取ってくれた。私もとりあえずそれを受け取る。

そうだよね、こんな一流のホテルだもの、私なんかが手伝うわけがないんだわ。

今さらながら……


「へぇ、『SOFT』の女子達にからかわれたんだ」

「いえ、私が常識を知らなかったのが悪いんです。
せっかく田ノ倉さんが声をかけてくれたのに、申し訳ないことを……」

「昔みたいに、仕事着で乾杯する賞に戻せばいいだけだ。
何がクリスタルのトロフィーだ。そんなもの漫画家にいるか」


菅沢さんは舞台上で、賞状を手渡す社長と、

その横で受賞者に声をかける田ノ倉さんを見ながら、グラスを一気にあける。


「あら失礼ね、そういう権威が好きな漫画家もいますわよ、郁君」

「ん?」

「そんな言い方をすると、一族である自分が、
あの上に登れないのが悔しい……と聞こえますけど」


そ……園田先生。

それは結構、一気に言いすぎでは。

あれ? 菅沢さん怒ることなく、笑っている。


「園田先生には、勝てないな。何か言うと全てそっちへ持っていかれそうだ」

「いえいえ、そんなことはございません。
見たまま感じたまま、それが私の考えですので」


二人の弾けそうな会話に、しぼんでいた気持ちは、少しずつ膨らんだ。

よし、こうなったら私も、美味しいものをたくさん食べて帰ろう。





受賞式が終了し、長い間『秋月出版社』を支えてくれた漫画家さんたちに、

感謝状が贈られる。先日、田ノ倉さんが訪問した京塚先生も、大きな拍手を浴びて、

満足そうに舞台から降りていく。


「久し振りだな、郁」


社長……

そうか、社長にとっては、菅沢さんは息子だもんね。

声くらいかけるよ。


「すみません、飯だけ食べたら、さっさと出ますから」

「そう言うな。田ノ倉の家に寄ったらどうだ。康子もお前に会いたがっているし」

「よしてください、気をつかわせるだけですよ」


康子って誰だろう。

社長の新しい奥さん?


「佳美はどうしている」

「母さんは相変わらず自由に飛び回ってます。ご心配なく」

「美那は?」

「姉さんは、新生活のために熊本です」

「そうか……えっと……」

「陽はご近所の方に助けてもらいながら、成長してますので。
親父に心配してもらうことじゃないですし」



はい、ご近所の方の知り合いです。

今頃また、津川のおじさんは『新聞チャンバラ』でくたくたかと……



「あの子の心配をしているわけじゃない。それを抱えているお前のことを……」

「だから必要ありません」


離れて暮らす父親と息子って、こんなにそっけないものなんだろうか。

もし、父が生きていて、敬が家を出ていても、

ここまで冷たい雰囲気は漂わないと思うけれど。


「まぁ、せっかく来たんだ、諒とも話していくといい」

「あいつとは会えばケンカですから」


会話が続かないからなのか、

社長はそのまま取り巻きを引き連れ、別の方に挨拶を始めた。


「菅沢さん」

「余計なことは言うなよ。ここでお前と言い合いをする気にはなれないからな」

「もう少し……寄り添ってあげたらどうですか?」


余計なことだとはわかっているけれど、

あまりにも冷たくて、あまりにも寂しい。


「あ!」


私が美味しくて残しておいた『ローストビーフ』が、

菅沢さんのフォークに捕らえられ、一瞬で口の中に消えた。


「な、なんで!」

「残しているのかと思ったから」

「違います」

「取って来いよ」

「もうありません!」


何よ、ちょっと図星をさされたからって、食料を奪い取ることで仕返しするなんて。

本当に最低な男!

一気に膨れた私の頬は、正面に立った田ノ倉さんの顔に気付き、

すぐに空気を外へ逃がす。



スマイル、スマイル……



「飯島さん、ごめんなさい。こんなことになって……」

「いえ、違うんです。私がしっかりと聞かなくて。
本当に常識がないんですよ、すみません」


東原さん達のやったことは悔しいけれど、

でも、田ノ倉さんには何も罪はない。ここは平気なふりして、誤魔化さないと。


「諒、お前の常識だけで世の中を見るなと、何度も言ったよな」

「菅沢さん」

「『SOFT』が『秋月出版社』の顔であることは間違いないが、
だからといって、それが全てであるような顔を、編集部員にさせるなよ」

「郁……」



あ、あった。

大皿に1枚だけ、『ローストビーフ』が!



……あ、取られた。



「それだけ気に入らないのなら、お前が中に入ってくればいい」

「なんだそれ……」


田ノ倉さんの口調が、いつもよりキツイ。

まさか、こんなところで大げんかにならないですよね。


「外にいて、あれこれ言うことなら誰でも出来るだろう。
僕はいつでも場所など空けてやるから、準備しておけ」


会場の隅で、にらみ合う二人の男。

視線は一気に、こっちへ向かってくる。


「あ……」


誰も、この瞬間に、『夢尾花』先生が入ってきたことすら、気づかずに。



26 なんとなく家族


立食パーティーのうまみは、『ローストビーフ』だと思う!
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コメント

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二人

にらみ合う二人、どうなるんだ~!

ローストビーフ、食べたいです。笑

夢先生はどっち派?

色々事情を抱えてる。
男同士だから難しい。

イケメン?に挟まれているのに、「ローストビーフ」が気になる和。
いいですね~そのキャラ♪

二人の男

天川さん、こんばんは

>にらみ合う二人、どうなるんだ~!

どうなったのかは、今回で。
ローストビーフは確かに『華』ですね……

二人の男

yonyonさん、こんばんは

>男同士だから難しい。

そう、わかっているんだけれど、素直になれず。
互いに違った性格なので、もめてしまいます。

ちなみに『夢』先生はどちら派でもなく、
針平派ですよ(笑)