26 なんとなく家族

26 なんとなく家族



『王子様』と『狂犬』のケンカが始まるのかと思ったが、

田ノ倉さんはすぐに他の漫画家さんから声がかかり、

私たちの前からあっという間に消えてしまった。

ハードボイルドがお好きな園田先生が、

菅沢さんに田ノ倉さんを追いかけてやりあってこいと、脇をつついている。


「園田先生!」


菅沢さんは携帯電話を握り締め、会場を出てしまった。

その後姿を見ながら、園田先生はクスクスと笑い出す。


「いい? 飯島さんも覚えておくといいわよ。郁も諒も、ああみえて案外冷静なの。
周りが盛り上がったら、本人同士は一気にテンションが下がるってもの」

「そうでしょうか」

「そうよ……本当は、互いに一番認めあっているんだから」



『認め合う仲』



そうか、それは確かにそうかもしれない。

顔をあわせればケンカだけれど、一人ずつの時に話す言葉は、とっても優しい。


「飯島さんはどっちが好み? 
正統派の二枚目諒と、少しクセはあるけれど、頼れる郁」

「は?」

「ねぇ、どっちがいい?」

「いや、どっちも……」


どちらがいいかなんて、比べたことはない。

でも、一緒にいるとドキドキするのは、田ノ倉さん。

菅沢さんと二人っきりでも、別に、鼓動が速くなることはないなぁ。


「あはは……真剣に考えちゃって、このぉ!」





園田先生って、本当にすごい人かもしれない。

私はすっかり手玉に取られながら、それから1時間会場に居続けた。





「ケーキだ、やったぁ」

「美味しそうなロールケーキね、これ全員に配ったの?」

「全員に配られたのはこの4分の1の大きさなの。
これは受付で名札を返した時に、田ノ倉さんが特別に用意してくれてあったみたい」

「へぇ、よっぽど和が恥をかいてしまったことを、気にしてくれているのね」

「うん……優しい人だから」



『ゆっくり話ができなくてごめんなさい』



手帳を切り離したようなメモだったけれど、

ケーキの中には、そんな一言が残されていた。


「陽くん、ほっぺにクリームついてるよ」

「うん! ほっぺが美味しいって」

「あはは……かわいい」


生意気保育園児の陽くんも、こうして喜んでいる。

確かに受付前ではどうしようかと顔が青くなったけれど、結果オーライ。


「さて、陽、帰るぞ」

「あら、菅沢さん、このままよかったら夕飯食べていきなさいよ。
お昼に3人で買い物に出かけて、二人が戻ってきたらバーベキューしようねって、
ちゃんと材料買ってきたのよ」

「いえ、それは……」

「ウインナー大きいの買ったんだよね、おばちゃん」

「ねぇ……」


私はすぐに冷蔵庫を開けてみた。本当にいつもより多めに材料が入っている。


「菅沢さん、食べていけばいいじゃないですか。
これだけの材料残されたら、明日からずっとバーベキューしないとならなくなるし」

「そうそう」


陽くんはすでに嬉しそうな顔で、

小さな炭まで買ってきたと、ビニール袋から箱を取り出した。





バーベキューを楽しんだ陽くんは、すっかりご機嫌のまま寝てしまい、

先に家へ帰った菅沢さんが、車に乗って津川家へ戻ってくる。


「明日は日曜だから、このままでもよかったのに」

「いえ、そんなことをしたら癖になりますから。ほら、陽、帰るぞ」


半分眠ったままの陽くんは、ぐずりながら菅沢さんにしがみつき、

車に押し込まれ、そのまま津川家を去っていく。


「ごめんね、敦美おばさん、おじさんのお休みだったのに」

「何言ってるのよ、いいのよ、和ちゃん。
主人も私も、本当に陽くんがかわいいんだもの。
子供がいるって、家が明るくなるものでしょ」

「うん……」


確かにそうだった。

私が東京へ来た頃よりも、陽くんが津川家に出入りするようになって、

この家の中に、カラフルなものが増えた気がする。


「ただ、あれだけ面倒みていると、菅沢さんは大変ね。
彼女も出来ないんじゃないの?」




菅沢さんの彼女……

そうか、細木さんが変な説明をしてくれたから、

私、すっかり菅沢さんが『男性』を好きなのかと勘違いしていたけれど、

そうではないことはわかったわけだし。


「都合がいい時だけ相手をするのと、育てるのは違うからね」

「……うん」


陽くんのお母さん。

こんなにかわいい子供と離れて、平気なのかな……

すっかり暗くなった空を見上げると、飛行機が左から右へ進んでいくのが見えた。





『MOONグランプリ』の詳細は、次の日あらためて社内の掲示板に貼り出された。

大賞を獲ったのは現役女子大生で、受賞作も次回の『SOFT』に掲載されることになる。

それにしても応募作品が、昨年よりさらに増えたという記事を読み、

同じ社内の雑誌に関わる者として、羨ましくもあった。


「さて、資料を持って帰らないと、及川さんが困る……と」


資料室から借りた図鑑を持ち、エレベーターを待っていると、

廊下の奥から、数名のヒールの音と、笑い声が聞こえてきた。

先頭に立って歩くのは東原さんで、私は一度あった視線をすぐに外す。



まぁ、こんなことをしたって、絶対に何か言うでしょうけどね。



「おはよう、飯島さん。今日もジーンズなのね」

「はい、動きやすいので」

「まぁ、そうでしょうけれど、TPOってことを少しは勉強した方がいいと思うわよ」



後ろで合わせるように笑っている女達。

あなたたち、女子高生にでも戻ったつもりなの?

そういうのを金魚の……って言うんだから。


「そうですね、それは私もそう思います。でも……」

「でも?」

「ウエストの思い切りしまったドレスではなかったので、
ホテルご自慢のお料理は、大満足に味わえました」


からかわれたままで、終わったりしないんだから……


「それでは、失礼いたします」


開いたエレベーターに乗り込み、睨みをきかせる底意地の悪い女達に、

精一杯強がった顔で、挨拶をしてやった。



『SOFT』は立派な雑誌だけれど、あなたたちは別に立派なんかじゃない。

いつでも、なんでも言ってこい!



……ふん!




……金魚のふん!



27 仕事を探せ


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コメント

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嬉しい!

miwaさん、こんばんは

>魅力的なキャラが沢山でお話に引き込まれます。
 続きをとても楽しみにしてます!

うわぁ、ありがとうございます。
1話を短く、テンポよく……と思いながら書いているので、
こう言っていただけると、とっても嬉しいです。

ストックを保ちながらUPしていますので、
遠慮せずに、どんどん勝手なリクエストをしてくださいね。
こちらこそ、コメントありがとうございます。

慰め役は引き受けますよ。

「優しい人がいいですね」結婚を考える女子の台詞。
だけど優しいだけでは・・
和は今のところ王子にドキドキだけど、この先は?

ももちゃんのことだから、きっと菅・・ね~~

まあそうなったら又慰めてあげますよ、王子は私が^^
陽君、「ほっぺが美味しいって」めっちゃ可愛い♪

さて、いかに

yonyonさん、こんばんは

>和は今のところ王子にドキドキだけど、この先は?
 ももちゃんのことだから、きっと菅・・ね~~

ももんた創作を読み続けているyonyonさん。
さて、和の相手をそちらとよんだのね。
ふむふむ……

そのよみが当たるか、外れるか……それはまだまだこれからだって!

最強保育園児、かわいい一面もありなのです。