27 仕事を探せ

27 仕事を探せ



『BOOZ』最新号。

表紙は相変わらず、悩殺ポーズの女性。

先月号に比べたら、スタイルはちょっと細すぎかな……とも思うけれど。


「失礼します」


あ、田ノ倉さん。

慌てて『BOOZ』を閉じて、横にあった茶色の大きな封筒の中に入れる。

どうしよう、見ていたの気づかれたかな。




……あ、そうだ、私がここにいること、知っているもんね。

そうそう、風俗店の取材帰り、車に乗せてもらったなぁ……



隠す意味、ないじゃない。



「秋田編集長、増渕編集長から話は行きましたか」

「おぉ……うん、うん」

「そうですか、よろしくお願いします」

「あぁ……」


田ノ倉さん、編集長に何を頼んだのかな。



『飯島さんがあまりにも素晴らしい編集者なので、ぜひ、『SOFT』へ』



なんてことはないでしょうけれど。

あれ? こっちに近付いてきた。


「飯島さん」

「はい!」



……まさか!



「先日は、本当に失礼しました。
あれから屋上で会えたら謝ろうと思っていましたが、なかなかお会いできなくて」

「いえいえ、もう本当に」



そうだよね、そっちの話だよね、普通。

田ノ倉さんが立っているので、私も思わず立ち上がる。



「本当に怒っていませんか?」

「怒るだなんて、私がTPOを知らなすぎなんです」


東原さんの言い分だと……ですけれど。


「いえ、僕の説明不足です。
何年も同じ場所にいると、それが常識だと思い込んでいるところが確かにあって。
それは『SOFT』編集部全体に言えることなのですが。
編集部員にも失礼な態度があったことも、許してもらえますか?」

「もう本当に、田ノ倉さんにそんなに謝られると、心苦しいです」

「……なら」



……なら、奈良?



「また、食事にお誘いしても、いいですか?」

「はい」


そんな楽しい時間は、具体的にいつでしょうかと聞きたいところだけれど、

そんなにガッついたら、物欲しそうに思われちゃうよね、ここは不確定な約束だけれど、

そのまま、そのまま……

田ノ倉さんは地下から地上へ出る階段を、タンタンとリズムよく上がっていく。

そう、タンタン……なのよ。

これが細木さんだと、ドスドスに聞こえるから不思議。



うん、音って不思議……



「あ!」


大事なことを忘れていたことに気付き、すぐに地上へ上がると、

長い足の田ノ倉さんは、すでに何メートルも向こうを歩いている。


「田ノ倉さん!」


よかった、振り返ってくれた。


「すみません、私、大事なことを言い忘れてしまって。
先日、お土産をありがとうございました。
お世話になっている家のものと、美味しくいただきました」

「あぁ……いえ、そんな」


よかった。ちゃんと言えた。


「美味しいですよね、『クエンチホテル東京』のロールケーキ」

「はい」


田ノ倉さんからいただいたものは、さらに美味しさ倍増です。

とは口に出して言えないけれど。


「飯島さん、『BOOZ』は今週、忙しいですか?」

「いえ、最新号が出たばかりなので、今週は少しゆっくり出来ると思います」

「そうですか。それならあさっての木曜日はいかがですか?」

「木曜日?」

「はい、食事の約束です」


不確定な約束が、決定事項になった。


「はい!」


そこら辺の小学生に負けないくらい元気な声で、私は返事をする。

田ノ倉さんはポケットから手帳を取り出すと、紙を1枚破った。


「僕のアドレスと番号です。後で空メールでも送ってください」

「……はい」


約束が決まってよかったねと言ってくれるように、

そのタイミングで、横断歩道からは『手をたたきましょう』が流れ出した。





木曜日、木曜日。

水曜日の次の日は、絶対に木曜日!





「はい、送付先のリストチェック、終了です」

「早いなぁ和ちゃん、やる気満々なの?」



いえいえ、食事に行く気満々なんです。



「何か他にありますか? 仕事。バンバンやっちゃいますよ、私」

「そんなふうにせかされても仕事はないし、無駄にウロウロするな、目障りだ」

「目障りって」


まぁ、相変わらずな言い方だこと、菅沢さん。


「あ、それなら、送られて来た写真の選別をしておきます」

「ん? あぁ、そうだな」


そうそう、毎日のように全国から届く写真を、振り分ける仕事があった。

何かのついでに出てくる仕事も、今のうちにこなしておかないと。

なんていっても運命の木曜日は、目の前に迫っているんだから。


それにしても、本当にみんな『BOOZ』に載りたいのかな。

これだけ送られてきても、実際には事務所の売り込みの方が強いんだけど。

本当の意味で素人さんを使うのって、難しいんだよね。


「あ……今日も10枚」

「10枚?」

「はい、この『高部まひる』さんって……」


私の後ろに積みあがるファイルを取り出し、パラパラと確認する。

そう、この1ヶ月だけで、40枚以上も応募してきている。

茶色の封筒から、ピンクの封筒。イラストつき、デコペンで飾りつけ、

ありとあらゆる方法で、色々なポーズで写る自分をアピールしてきていた。


「どうしてここまで必死なんですかね、何か理由があるのかな。
右目の下にほくろがあって、ちょっと色っぽいですよね」


私の手に取った写真を、菅沢さんが取り上げた。


「Dくらいはありそうだな、顔もまぁまぁだし」

「まぁまぁって……」

「右目の下にほくろか……」


そういうと出してきたのは、園田先生が連載を始める予定の漫画、

『水蘭』の主人公、『水沼蘭』の下書きイラスト。


「針平、すぐにブログページの更新とツイッター、これでいこう。『水蘭を探せ』だ」


私が見つけた『高部まひる』さんの写真は、その応募一人目として、

いきなりホワイトボードに貼り付けられた。



28 待ちあわせ


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コメント

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こんばんは

田ノ倉さんとまたお食事が出来るかもしれないなんて……

やさしい人だわ~

菅沢さんは仕事熱心……

二人のいい男がいて、どうなるのかしら~

と、妄想します……笑

部類の違うイイ男

天川さん、こんばんは

>二人のいい男がいて、どうなるのかしら~

ねぇ、和はどうなるのでしょう。
今は、諒の優しい面、郁の厳しい面、
それだけしか見えていない気もしますが。

妄想しながら、続きにもおつきあいください。