28 待ちあわせ

28 待ちあわせ



水曜日の次の日は、間違いなく木曜日がやってくる。

そう思うと、お風呂から出た後も、にやけてしまう私。

これはあくまでも、田ノ倉さんが私に謝罪する一環として招待してくれたもので、

デートではないことくらいわかっているけれど、

でも、『嫌われているわけではない』ことだけは、間違いない。


「よし!」


明日が土砂降りの雨にならないよう祈りつつ、寝不足は肌に悪いので、

少し早めにベッドへ入った。





日ごろの行いがいい私は、快晴の中編集部へ向かう。

一人の女性が送った、一枚の写真から企画が決まった『水蘭を探せ』。

今日はそのきっかけとなった『高部まひる』さんに電話をするのが朝一番の仕事。

彼女は、『BOOZ』の表紙を飾りたいと応募してきたが、

今編集部内でこういう企画が立ち上がったことを告げ、

その候補として写真を利用しても構わないかと許可をもらう。


『あ、あの、それはまだ決定ではないということですか』

「はい、あくまでも候補者の一人としてエントリーの予定です。
これから応募をかけて、全ての中から受賞者が決まります」

『お願いします! どうしても、どうしても『BOOZ』に載りたいんです』

「はぁ……」


先日の『MOONグランプリ』で優秀賞を受賞した若手漫画家さんたちも、

嬉し涙を流したりしていたが、『BOOZ』も、それなりの世界観を楽しむ人たちには、

これほど力を入れてもらえる存在なのかと、あらためて思ってしまう。


「とにかく、結果をお待ちください」


あまりの迫力に、『あなたに決定です!』と言いたくなってしまった。





「いやぁ、驚いちゃいましたよ」

「あ、おはようございます、細木さん」

「あぁ、おはよう和ちゃん」


細木さんは、いつものように食料を買い込んできて、それをデスクの上に乗せた。

右手の方向にはお菓子が、左手の方向には飲み物が、

それぞれベストな場所にセットされる。


「少し遅かったですね、出社」

「うん、今日はさぁ、本社へ寄って来たんだ。同期入社のやつが参考書部門にいてね。
で、3階に立ち寄ったんだけれど、人だかりがあったからなんだろうかとのぞいたら」



……のぞいたら?



「のぞいたらさぁ、あの王子様が、スーツじゃなくて」



……なくて?



「よっと……」



……ん?



「ぷはぁ……」



細木さん、どうしてここでジュースを飲み始めるのよ、

ノドからゴクンって音だけが聞こえてくるじゃないですか、結論を先に言ってってば。

田ノ倉さんがスーツじゃなくて、なんだって言うんですか。



「はぁ……落ち着いた」



よかったですね、で?



「王子様がさ、いつもビシッとスーツ姿なのに、今日はチノパンだよ。
足元もカジュアルな感じでさぁ、一瞬モデルでも来ているのかと思ったんだ」


スーツじゃない田ノ倉さん……



見たい!



「増渕編集長が、どうしたんだって心配していた。
まぁ、王子様は余裕の笑みだったけどね」

「へぇ……」

「それにしてもさ、俺と同じような格好をしているわけよ、向こうも。
それなのにあっちには人だかりが出来て、俺は無視だよ、無視! どう思う?」





……普通だと思いますが。





「うわぁ、ひどいなぁ和ちゃん。あったりまえじゃないですかって顔、
しないでよ」

「エ……してませんよ、私」



まずい、顔に出ましたか? 昔から正直なもので。



「そうじゃなくて、田ノ倉さんがスーツ姿じゃないことが衝撃で……」



細木さんが、田ノ倉さんと自分を比べちゃうのが衝撃で……




「細木さん、素敵ですよ今日のシャツ。それ『GARIGARI』ですね」




まだ立ち上げていない、PC画面に反射する細木さんの姿を見た及川さんが、

そう声をかけてくる。

細木さんの体型と、シャツのメーカー『GARIGARI』が妙に不自然で、

『BOOZ』編集部に、冷たい風が吹き抜けた。





待ち合わせ場所は、『秋月出版社』がある駅から、3つ動いた『城内公園駅』。

昔、戦国時代には、ここにもお城があったのだというけれど、

今は高いビルに囲まれ、残された緑が、サラリーマンたちの心を癒す。

予定の時間よりも10分早く到着。

携帯を確認するけれど、遅れるとか行けなくなったなどの寂しいメールは一つもない。


大丈夫、大丈夫。

ここで待っていたらきっと、『王子様』が私を拾ってくれるはず。



馬じゃ来ないでしょうけどね。



深緑のかわいらしい車が、駅のロータリーに姿を見せた。

その中にいるのは田ノ倉さんで、私の目の前に止まると、運転席から降りてくれる。


「すみません、待ちましたか?」

「いえ……今来たところです」


本当に、スーツじゃなかった。細木さんの言うとおり。

カジュアルな格好も、これだけ素敵なんだな……



細木さんには悪いけれど、それは……



「今日はスーツではないんですね。細木さんが驚いてました」

「あぁ……編集部でもあれこれ言われました。
こんな格好で仕事をするのは何年振りですかね。
別にスーツで来なければならないと、決めているわけではないんですよ。
ただ、楽なんです、失礼にはならないので。漫画家さんも、僕より年配者が多いから」

「今日は……よかったのですか?」

「はい」


田ノ倉さんが助手席の扉を、私の目の前で開けてくれた。


「ありがとうございます」

「今日のメインは、ここからなので……」





……メイン?





そんな一言が、単純な私の心へストレートに届く。

『私に合わせてくれた』と、思っていいのですか?


ねぇ、田ノ倉さん。



29 同じ願い


細木さん、『夢尾花』先生なら、きっと違う返事を出したはず……
和(のどか)の 『ケ・セラ・セラ』 な毎日を、応援してください。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪

コメント

非公開コメント

きゃ。

カジュアルな王子……
『メイン』の一言、

もう、デートじゃないですか! 照

自分が照れてしまいます。


爽やか~~~

カジュアルと聞いて、白シャツに黒の短めパンツを、
足元はくるぶしソックスで白のコンビ。
ヘヘヘ・・最近の王子はこんな感じ❤

パンダの赤ちゃん、残念でした。
来年に期待しましょう!

それから

天川さん、こんばんは

>もう、デートじゃないですか! 照

えへへ……私も照れてしまいます。
さて、二人はどうなったのか、
それは続きを。

それから

yonyonさん、こんばんは

>カジュアルと聞いて、白シャツに黒の短めパンツを、
 足元はくるぶしソックスで白のコンビ。

ずいぶん細かくくるなぁ……(笑)
いいよ、いいよ、ご想像にお任せしますので。