30 テリトリー

30 テリトリー



楽しい食事会を終えて、田ノ倉さんが津川家まで車で送ってくれた。

それで終了のはずだったのに、

飛び出てきた陽くんは、私と田ノ倉さんとその車の周りを、グルグルと回り出す。

うるさいハエのように。


「陽くん、来てたんだ」

「うん……アイス食べてる」



だったら出てこなくていいから、楽しくアイスを食べていなさい!



「陽、ほら帰るぞ」

「郁……」


そうだよね、陽くんが一人でいるわけがないんだもの。

当然、菅沢さんがついてきているよね。


「どうして郁が、飯島さんの家に」

「あの、実は……」


田ノ倉さんに変な勘違いをされては困るので、こうなったいきさつを懸命に語った。

津川家のみなさんは善意でしていることであって、

菅沢さんとの結びつきは、私よりむしろご夫妻にあるんです。


「あら、和ちゃん、どなた?」

「あぁ、おばさん」


登場人物が一人ずつ増えていく。

もう、どうせなら全員ここに立ってください。説明しますから。


「『秋月出版社』の田ノ倉諒と申します。
今日は和さんと食事に出かけたので、今、戻りました」

「あら、そうだったんですか」

「和、ねぇ、和。これデート? デートしたの?」



保育園児は、なんて恐ろしい生き物なのだろう。

そんなことをいきなり聞かないでよ。

せっかく少し動き出したかもしれないのに、暴走しちゃうじゃない。


「陽、帰るんだ」

「やだ、アイス食べる!」


おばさんが陽くんを連れて玄関の中に消えたので、

残されたのは私と田ノ倉さんと菅沢さんだけになって。


「お袋が帰ってきたんだ。お土産にカニを買ってきたから。
津川家にお裾分けした」

「すみません、ありがとうございます」


菅沢さんはそれだけ告げると、陽くんのあとを追うように、

玄関へ入っていった。残るのは私と田ノ倉さんだけになる。


「今日は、本当にありがとうございました」

「あ、あぁ……。ごめんなさい、郁がいたことに驚いてしまって」

「そうですよね」


やっと静けさが戻ってくる。


「また、お誘いしてもいいかな」


私はコクンと頷き、その提案を受け入れた。

田ノ倉さんと食事が出来るのなら、一日一食になっても耐えられます。




……あ、二食……かな。




「よかった、断られたらと思って、少し緊張しました」

「断るだなんて、そんな……」


田ノ倉さんは運転席に座り、私の方に向かって軽く頭を下げると、

そのままゆっくり走りだした。楽しい時間は終わってしまったけれど、

またいつか……そう思えるだけで、体全体がぽかぽかする。

あらためて玄関を上がり、リビングに向かうと、

私の登場を待っていたような津川家の御夫婦が、なんだか照れくさそうに並んでいる。


「和ちゃん、素敵な人ね、彼」

「あ……あのね、敦美おばさん。田ノ倉さんはね、
この間のホテルでのパーティーがあったでしょ。
その時に、私にきちんと説明しないで恥をかかせてしまったことを気にして、
その代わりに食事をご馳走してくれたの」


あまりオーバーな感覚で、捕らえられてしまうと後が困る気がして、

私は必死に弁明する。

それにしても、この空気を読めない保育園児。

ちまちまカップアイスを食べていないで、一気に食べちゃいなさい。





「和……チューした?」





は? 何言ったの? 今。


「イタッ!」

「お前は、そんなことをどこで覚えた」

「だってさぁ、好きな子とはチューするんだよ、僕、りっちゃんとチューしたもん」

「りっちゃんって誰だよ」

「保育園の子」

「あら、今時の保育園児はすごいのねぇ……」




……ねぇ




「和……」


今度は何?





「ねぇ、和はふりん?」





ふ、ふりん?


「もう限界だ、陽、帰るぞ」

「だってアイス」

「そのカップごともらって帰ろう。おばあちゃんが待っているだろ」

「うん」


保育園児の発言に、固まってしまった津川家の御夫婦。

おばさん、おじさん、私、不倫じゃありませんから!



田ノ倉さんは……

田ノ倉さんは『王子様』です。不倫じゃありません。


「じゃあな飯島。また明日」

「あ、はい。明日よろしくお願いします」



何をよろしくするのかわからないけれど。


「あぁ……うん……」


このキレのない返事は、菅沢さんも、きっとどこか慌てている。

田ノ倉さんとの素敵な一日は、暴走保育園児、陽くんのきわどいセリフと、

菅沢さんとの妙な時間で終了した。



31 ゆずりあい


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コメント

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陽くん

ふ り ん

そんな言葉、どこで覚えたんだ~!

子供って意味もわからず? すごい言葉使う時があるから……笑

自分も子供だったんだけど、どんな子だったかな。汗

子供って

天川さん、こんばんは

>そんな言葉、どこで覚えたんだ~!
 子供って意味もわからず? すごい言葉使う時があるから……笑

そうそう、子供っておっかないです。
意味はわからないけれど、意外に『おっ!』という使い方をしたりね(笑)

まぁ、そんなあれこれも楽しんでもらえたら嬉しいです。
私もどんな子供だったかな、ビデオもなかったし、わからないけど。

怖いわ~

まさか本当に“ふりん”じゃ無いでしょうね。
園児の突っ込みに大人がアタフタ・・

楽しそうな雰囲気に軽~く嫉妬したか?王子。。

子供って

yonyonさん、こんばんは

>まさか本当に“ふりん”じゃ無いでしょうね。
 園児の突っ込みに大人がアタフタ・・

子供って、意味もわからずに、
それでも『ドキッ』とした言葉を使うときがあります。
大人の方が慌てるような……ね。

まぁ、ふりんじゃないことだけは、
ここで明らかにしておきましょう(笑)