33 微妙な距離

33 微妙な距離



大きなトラックが、大通りを通過する震動で、私は目覚めた。

時計を見ると、もうじき朝の7時になる。

いつのまにか、私の肩には、編集部の仮眠に使う毛布が乗っていた。



寝ちゃったんだ、やっぱり私。

『夢尾花』先生の原稿に、全て付箋がつけ終わっている。

結局、何も役に立たなかったんだな。


菅沢さんを起こさないように、毛布を肩に乗せて、私はコンビニへ向かった。

目覚めのコーヒーも必要だろうし、朝はサラダでもあった方が気分もスッキリする。

ちょっと甘い物もあった方がいいかも……



昨日のたこ焼き、美味しかったから。





「あれ?」


買い物を終えて編集部へ戻ってみると、菅沢さんはいなくなっていた。

肩にかけた毛布も、ちゃんとたたんである。

バッグもないってことは、もう出発してしまったのかも。


「おはよう、飯島さん早いね」

「あ、おはようございます編集長」



ありがとうございますって、挨拶も出来なかった。

せめて、コーヒーくらい飲んで欲しかったのに。


「『夢尾花』先生の原稿手直し、どうなった?」

「あ、はい、仕上がっています。昼前には戻します」

「そうか、それならOKだ」


携帯が鳴り出しメールが届く。相手は菅沢さんだった。



『昼前までに必ず持って行けよ、忘れるな』



わかってますって。

『今日も元気に、張り切って仕事します』。そんな返事を、すぐに送信した。





細木さんや及川さんにも謝罪して、『夢尾花』先生のところへ行こうとした時、

編集部に入ってきたのは田ノ倉さんと東原さんだった。

秋田編集長の前に立ち、深々と頭を下げている。


「本当に申し訳ありませんでした。うちの東原が非常識なことをしまして」

「まぁ、まぁ、田ノ倉君。東原さんも頭が混乱したんだろう。
『SOFT』はそれだけプレッシャーのある雑誌だ」

「いえ、それでも、こちらにご迷惑をかけたことには変わりありません。
東原さん、君もきちんと謝罪して」

「申し訳ありませんでした」


東原さんのプライドなのか、

田ノ倉さんは編集長と私達側にそれぞれ向きを変えて頭を下げてくれたけれど、

彼女は編集長にしか頭を下げない。


「郁は」

「郁は今日、一日取材同伴なんです。もう出ました」

「そうですか……」


田ノ倉さんは東原さんに編集部へ戻るように言うと、私と目を合わせてくれた。

私は席を立ち、田ノ倉さんの後を追う。


「また、迷惑をかけました」

「いえ……」

「僕が昨日、あの声で話をしたからですか?」


違います……と言えば良かったけれど、そうは言えなかった。


「体調はよくなったのですか?」

「はい。昔からすぐ喉にきてしまって。
たいしたことはないのに、まず喉がおかしくなるので……」

「そうだったんですか」

「飯島さん」

「はい」

「これからはこのようなことをしないでください。
すみません、怒っているわけではないのです。
個人的な感情で言えば、あなたが僕を気遣ってくれたのはとても嬉しいから。
でも……」



でも……



田ノ倉さんの視線。



「昨日は、編集部に残られたのですか?」

「あ……はい」


そうか、そうだよね。服装が昨日と同じだもの。

そりゃ、そう思うよね。


「だとすると……郁と……」


私は無言で頷いた。

だって、菅沢さんと二人だったことは間違いない。

でも……言葉で『はい』というのも、どこか違う気がして……


「それでは、色々と怒られたのでしょう」

「いえ……」

「あなたが郁に責められたことを思うと、体調が悪いことの数倍辛いです。
だから、これからは……」


田ノ倉さんの左手が、私に向かって動き、どこか迷ったような指は、

髪の毛へ向かう。


「消しゴムのカスが、ついてました」

「あ……ありがとうございます」



ドキドキしてしまった。

あの長い指が、もし頬に触れたらと思ったら、

そのまま崩れてしまうのではないかと思うくらい、緊張した。



そんなこと、あるはずないのに……



黙っている田ノ倉さんの横を、何台も車が通りすぎる。

ここは私が、頭を下げて、編集部に戻るべきなのかな。

手を伸ばせば、つかめるような位置。


何か、言ってくれそうな気がする。

何か……聞けるかもしれない気がする……けれど。





「これから『夢尾花』先生のところへ行きます。
遅れるとまた、菅沢さんに怒られますから」

「あ……はい」


ほんの少しだけ、期待したけれど、田ノ倉さんから言葉はなかった。

私と田ノ倉さんの想いには、大きな差があるということなのかもしれない。


それでも……

向かい合えたことだけで、今は『幸せ』。





その日の仕事を無事終了し、家に戻ることも出来たけれど、

どうしても菅沢さんに、もう一度謝っておきたかった。

データを流す処理があるから、現場から必ず編集部に戻ってくるはずだ。

それまで仮眠でも……





……しちゃおうかな





どうしようかな……





「おい飯島、お前、今日も徹夜か」

「……ふぁ……あ! あ、菅沢さん!」


思い切り飛び跳ねるように起きると、

後ろに積んであった『BOOZ』のバックナンバーに腕がぶつかり、

私の目の前で雪崩になった。


「片付けてから帰れよ」

「はい……」


私、終電には、乗りたいです。



34 なぜの告白


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コメント

非公開コメント

男二人

どちらも男ですね~
いい男が二人……きゃあ。

少し話はそれますが、 『ケ・セラ・セラ』もう33回ですね。
あっという間です!

嫉妬?

今日はipadからのコメントyon
上手く出来るかしら?

やはりねー、そりゃ気になるよ。
一晩2人だけで過ごしたなんて....

でも嫉妬は恋のスパイスよ。

まだまだ、これから

天川さん、おはようございます。

>少し話はそれますが、 『ケ・セラ・セラ』もう33回ですね。
 あっという間です!

回数だけみると、あっという間です。
とにかく1話が短く、今までの長さからすると半分くらいなので。
まだまだ、話はこれからですので、
どうか、お気楽におつきあいくださいね。

男が二人と和一人。
さて、どうなることやら。

まだまだ、これから

yonyonさん、おはようございます。

>今日はipadからのコメントyon
 上手く出来るかしら?

おぉ! ipadからなの?
ちゃんと出来てますよ。
みんな、色々とすごいなぁ……

>でも嫉妬は恋のスパイスよ。

そうだよね、色々とスパイスないと、
味も変わらないしね(笑)

まだまだ、これから

yokanさん、こんばんは

>菅沢さん、鋭いね~^m^
 テラスの君はものすごく純情?でしょうか~^^

口は悪い菅沢ですが、結構鋭い男です。
諒の方は、優しさを全面に出し、正直に動きます。

保育園児の陽君
覚えた言葉は、使いたかったのでしょう(笑)