35 保護者一同

35 保護者一同



お風呂上りの冷えたビールは、誰がなんと言っても美味しい。


「ぷはぁ……幸せ」

「全くなぁ、和は女のくせに、編集部に泊り込むとはたいしたものだ」

「泊り込みなんてしたくないですよ。でも、菅沢さんが徹夜になった原因を作ったのは、
私ですからね。それを放りっぱなしで帰るのは、さすがに出来ないし」

「まぁそうだな」


和室の隅に、陽くんとおじさんが遊ぶ、新聞ちゃんばらの剣が置いてある。

菅沢さんのお姉さんが来たということは、

陽君がここへ来ることもない……かもしれない。


「寂しい気もするけれど、よかったわね、お母さんが迎えに来てくれて」

「……うん」


そう、よかったのだ。

親が子供をそばにおいて、育てるのは当たり前なのだから。


「でも、菅沢さんはちょっと複雑みたい。
陽くんを手放したくない気持ちも、どこかにあるみたいで」

「かわいがっていたからな、彼も」


おじさんの目が、私と同じように部屋の隅を見る。

子供って不思議。関わると、どんどん愛しくなる。


「でも、現実はそんなに甘いものじゃないもの。
菅沢さんだって陽くんを抱えていたら、自分が幸せになれないでしょう」



菅沢さんの幸せ……



「たまに遊びに来るから、かわいいかわいいって相手になるけれど、育てるのは別だもの。
もし……もしもよ、和ちゃんが結婚相手として、
陽くんを抱えた菅沢さんを連れてきたとしたら、おばさんきっと反対するわ」

「何を言ってるんだ、お前は」

「あら、そんなにおかしな話でもないでしょ。
和ちゃんだってこれから結婚相手を見つけていくでしょうし。
あずさだって、そういうことは心配していると思うわよ。
仕事の先輩として世話になるのと、結婚相手としてみるのでは、それは違うもの」

「全く、女はすぐに結婚だの、見合いだのって話しだ。和にしたら迷惑だな、
親でもない敦美にあれこれ言われて」

「いえ……」


菅沢さんがどうのこうのではなくて、

敦美おばさんの言いたいことは、なんとなくわかった。

確かに、菅沢さんと付き合う女性は、難しいだろう。

陽くんの存在があるのかないのか、子供がいる人と付き合うのは、

そう簡単なことではない。


「菅沢さんも、もう楽になればいいのよ。自分の相手を探さなくちゃ」

「お前のその言いっぷりじゃ、結婚相手でも紹介しそうだな」

「そんなことはしませんよ」


敦美おばさんが作ってくれるから揚げは、ちょっと隠し味が効いている。


「そうそう、和。そういえばこの間の彼とはどうなったの? それから」

「彼?」

「そう彼。ほら、田ノ倉さんとか言っていたでしょ、ここまで送ってくれた」

「あぁ……」


海の見えるレストランで、食事をしてくれたあの日のことだ。


「おぉ、そうだった。田ノ倉って、和お前、あの彼は『秋月出版社』の一族か?」

「うん、田ノ倉さんは社長の弟さん」


敦美おばさんは驚いて、それはすごいことだといい始め、

おじさんはおじさんで、経営者一族に入ると苦労するかもしれないと、

勝手な空想に走り出す。


「二人とも、話が飛びすぎ!」

「だってねぇ、社長の弟だなんて……」

「そんなこと言ったら、菅沢さんは社長の息子だよ」

「エ……そうなの?」



どうして私、そんな情報を二人の耳に入れたんだろう。

別に、どうだっていいことなのに。



田ノ倉さんが社長の弟だから素敵なわけでもないし、

菅沢さんが社長の息子だから、すごいと思っているわけでもないのに。

田ノ倉さんと菅沢さんを横に並べてみたようで、自分の発言を元に戻したくなる。



なんだか変な夜だった。





お姉さんが来ているからといって、菅沢さんもずっと編集部にいるわけでもなく、

もちろん、母親がそばにいるのだから、津川家に陽くんがくることもなく、

1週間が過ぎていった。

『BOOZ』編集部のつぶやきブログを見た読者から、

園田先生の『水蘭』モデルを希望する写真が、ちらほらと増えていく。


「早いなぁ、反応が」

「新しいものにはすぐに飛びつくんだよ」

「そうですけど……」


ホワイトボードには、この企画を思いついたきっかけ、

『高部まひる』さんの写真が貼ったままになっている。

電話をした時も、すごく熱心に希望していたっけ。

なんとかこのまま残りますようにと、心の中で祈ってしまった。


「飯島」

「はい」

「お前、明日、うちに来てくれないか」

「うちって、菅沢さんの家ですか?」

「あぁ……」


どうして菅沢さんの家に、私が行くのだろう。

話ならここでしてくれたらいいのに。





「お前に会いたくなる……」





私に会いたくなる? こうして毎日会っているじゃないですか。

いや、あの……それはもしかして、

いえいえ、こんなふうに簡単に、告白なんてありえます?

私、心の準備が!





「……って、陽が昨日、泣き出してさ」





……あぁ、そうか、陽くんか、あたふたして損したわ。

そうだよね、この人が私に告白するなんて、宝くじが当たるよりも驚きの展開だもの。


「なにか、おかしいか?」

「いえいえ、おかしくはないです」


どこか力の入ってしまった肩をグルグル回し、

頭の思考回路も、元に戻るようさらに首を動かした。



36 真っ白な空気


何かを降ろすと、菅沢は変わるのか?
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コメント

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結婚

おじさんはおじさんで、経営者一族に入ると苦労するかもしれないと、勝手な空想に走り出す。

現実的で笑えます。
自分も、田ノ倉さんと菅沢さんどっちの嫁でも大変そうだな、とか勝手に考えてみたりします。

嫁は大変

王子と狂犬共に御曹司って奴ですよね。

何気に心配してるけど、そのうち本当になったら
叔父さん叔母さんビックリだろうね。

果たしてどちらが和の心をゲットするのか?

心配事

天川さん、こんばんは

>現実的で笑えます。

ありがとうございます。
周りにいる人間は、自分だけは冷静に考えようと思うあまり、
逆に勝手な空想に走っているところも会ったりするかな……なんて。

特に津川家では、和は知り合いの娘ですが、
本当の娘のような気持ちが入っていて。

この心配事が、どうなるのかも、これからです。

心配事

yonyonさん、こんばんは

>王子と狂犬共に御曹司って奴ですよね。

そうですね。二人とも抱えているものは大きい。

>果たしてどちらが和の心をゲットするのか?

はい、どっちにも可能性ありです。