38 おてがみ

38 おてがみ



陽くんの『津川家お別れ会』は、楽しく行われた。

おじさんとおばさんにと、

陽くんから自分が戦隊ヒーローに変身した、落書きチックな絵が贈られる。

敦美おばさんは、大切にするねと少し涙声になり、

おじさんは新聞紙で作ったかぶとを、陽くんにかぶせた。



『頑張るんだよ』



誰もこの言葉を、一度も出すことはなかった。

心の奥に、グッとこらえたまま。





「どうしてついて来るんだよ」

「いいじゃないですか。私も空港まで行くからって、陽くんと約束したんです。
別に菅沢さんと行きたいわけではありません」


ついに、陽くんが熊本へ旅立つ日がやってきた。

陽くんは、お母さんと、新しくお父さんになる二人に迎えに来てもらい、

今日は午前中、パンダを見に出かけた。


夕方4時半出発の『熊本行き』。

待ち合わせロビーに座っていた陽くんは、

大きなきりんのぬいぐるみを持ち、私たちに手を振ってくれる。


「郁! 和!」


沈んだ顔で座っていたらどうしようかと思っていたけれど、陽くんの表情は明るい。

よかった……


「なんだ陽、お前パンダを見たくて行ったんだろ。どうして『きりん』なんだよ」

「そうでしょ、言ったのよ、きりんじゃなくてパンダじゃないのって」

「いいんだよ、いいの」


陽くんは、黄色い長い首を持つきりんのぬいぐるみを、強く抱きしめる。


「だって……だって僕、『きりん保育園』だもん」





『きりん保育園』





陽くんが通っていた、保育園の名前だ。

毎日、菅沢さんと通い続けた、思い出の保育園。

そうか……そうだよね、パンダよりきりんだよね、陽くん。


「陽、元気でな」

「うん……」

「また、遊びにおいでって、津川のおばちゃんたちも言っていたよ、必ずおいで」

「うん!」


出発時刻が迫ってくる。もう少し早く空港に行けばと思っていたけれど、

ここはギリギリでよかったのかも。なんだか私の方が、泣いてしまいそう。


「保科さん、姉と陽をお願いします」

「はい」


菅沢さんの頭が下がるのと一緒に、私も頭を下げた。

本当に、本当にお願いします。

幸せになってくれないと、私、チャレンジすべきだといった責任がありますからね。


「はい、郁と和にお手紙」


陽くんは封筒に入った手紙を、私と菅沢さんに残してくれた。

お母さんと手をつないで、ゲートに向かっていく。

一度も振り返らずに歩くんだな……陽くん。

子供って、大人が思うよりあっさりしているのかも……



でも……

陽くんの足が、止まってしまう。





「……郁!」





ゲートに入る寸前、陽くんはお母さんから手を離し、菅沢さんに向かって走ってきた。

あっさりなんて、しているわけがないんだ。

だって、ずっとかわいがってもらったんだもんね。

涙でぐしゃぐしゃの顔で、当たり前なんだ。


「かおる……かおるぅ……」

「ほら、陽。ママとパパと、赤ちゃんが待ってるぞ」

「だって……だってさぁ……」

「大丈夫だ、お前は強いから、すぐにお友達も出来るし、
きっと……優しいお兄ちゃんになれる」




震えてる。

菅沢さんの声、震えてるってば。




「ちゃんとママとパパの言うことを聞くんだぞ」

「うん……」

「歯磨きしてから寝ないと、虫歯だからな」

「うん……」

「手も洗って……」

「うん……」





菅沢さんは最後の最後まで、陽くんの心配をして、

最後の最後にやっと、陽くんは飛行機に乗った。

どこまでも続く空に、消えていく飛行機。


「行っちゃいましたね」

「あぁ……」


別れ際に声が震えていたこと、黙っていなきゃ。


「なんだこれ」


陽くんからの手紙は、『かおる』とひらがなで書かれた横に、

菅沢さんの似顔絵らしい顔があった。


「かおるの『お』の点がないぞ、あいつ。
それにこれ、蝶ネクタイってことは、タキシードか?」


横からのぞいてみると、確かによそ行きの服らしき絵だった。


「たまにはこういう格好でもしろってことじゃないですか?」

「は? エロ雑誌の編集部員がスーツ姿なんて変だろうが。
で、お前は何書いてあった?」

「私ですか? きっと、ブスって書いてありますよ」


なんて言いながら、ちょっと楽しみではあるんだよね。

本当にブスって書いてあったら、これから飛行機に乗って追いかけてやる。

まぁ、私も似顔絵だろうと思いながら、紙を開いた。


「なんだよ、ブスって書いてあったのか?」



いえ……

そうではないですけれど、これは見せられません。



「……ブス、ブスって書いてありました」

「ん? 本当か? 見せてみろよ」

「嫌です、これは私のですから見せません!」


菅沢さんの追求を避け、バッグの奥へと押し込んだ。

最初は首だけかと思った私の似顔絵は、白い衣装を着ていて、

菅沢さんの手紙同様、『お』に点のない文字が書いてあった。

しかも、2回も。




『かおるのおよめさん』




「なぁ、何が書いてあった」

「あぁ……頭が痛いです。早く帰りましょう」


最後の最後まで、空気を読まないんだから、あの保育園児は。

今度遊びに来たら、追求してやらないと。



そうそう、こんなことを受け入れたと思われたら困るんだから……



だから……





だから必ず、遊びにおいで……

元気な笑顔でね、陽くん。



39 実況中継


ガンバレ陽、ガンバレ郁、ガンバレ和!
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コメント

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ファイト‼

陽君の夢?
でもな~王子が居るから……

どちらにも知られないように、隠さなきゃ(笑)

頑張れ!陽君!

およめさん

『お嫁さん』
陽くん可愛い!
和にとっては
頭痛がする問題なのか~!笑

……で、続く

yonyonさん、こんばんは

>陽君の夢?
 でもな~王子が居るから……

ねぇ……和はどちらに気持ちが動くのか。
陽はこのまま幸せになるのか……

で、続きます。

……で、続く

天川さん、こんばんは

>『お嫁さん』
 陽くん可愛い!

保育園児の存在は、和だけではなく、色々な人に笑顔を振りまきました。
さて、陽の手紙は、本物となるのか……

で、続きます。