39 実況中継

39 実況中継



陽くんが旅立ってから10日後、『秋月出版社』では、大きな掲示が貼り出された。

『SOFT』で3ヶ月前まで連載していた恋愛漫画『SLOW』が、

来年のゴールデンウィークに映画として、公開されることが決まったのだという。

『SLOW』の漫画家はまだ2年目の新人だったが、

主人公の女子高生『藤代美希』を、売り出し中アイドル『磯部莉子』が演じることになり、

その事務所の先輩、人気俳優の『畑山宗也』が、

血のつながらない兄『藤代諒』を演じることだけが発表された。


「いやぁ……畑山宗也があの兄を演じるんですね、血のつながらない兄妹だとわかって、
はるかは苦悩するわけですよ。そうか……畑山か。こりゃ今からわくわくしませんか」

「針平がわくわくしてどうするんだよ。全国の女性がわくわくするならともかく」

「そんなにすごいのか、畑山ってのは」

「編集長、あたりまえじゃないですか。
今、芸能界の若手俳優の勢力図をご存知ないんですか?
右の畑山、左の日向ですよ」


確かに、細木さんが強く訴えるように、畑山宗也と日向淳平の人気は、

今が最高潮かもしれないな。

私も『相良家の人々』、前売り買って見に行ったし。

『BLUE MOON』も、毎週録画予約して見ているし。




「どっちもウソつき男だろうが」




また、菅沢さん。

そんな滅相もないことを……一応理由を聞いてみましょうか。



「ウソつき? どういうことですか」

「飯島みたいな女の理想を、演じているだけってこと」


うわぁ……その発言は、全国のファンを敵に回しますよ。

演じているだけって、それが俳優でしょうに。





「菅沢さん。僕は、日向淳平の抑えた演技が好きです」





及川さんの発言で、編集部の空気が一変する。

聞いてもいないのに参加するなんて、本当に日向淳平のファンなのかしら。



「あ、及川さん。私もどちらかといったら、日向淳平の方が好きです。
見てますか? 『BLUE MOON』」



及川さんはその発言に返事をすることはなく、またPC画面とにらめっこしながら、

キーボードを打ち始める。



パチパチ……って



ちょっと、ちょっと……それはおかしいでしょう、普通。

あなたの話に、私が乗ってあげたんですよ。それをスルーって……。

この空気、誰か変えてよ!



「日向淳平は、『BOOZ』の読者だぞ」





「エ!」





うそ……

あの爽やかな日向淳平が、『BOOZ』なんて読まないで!

どうしよう最終ページの割引券とか、お店に行って平気で使っていたら。




私……立ち直れない。




「ウソだよ和ちゃん。そんなことわかるわけないって、からかわれているんだよ、郁に」

「ウソ?」

「飯島、目の前でいちいち立ったり座ったりするなよ、邪魔だな」


菅沢め! 陽くんがいなくなって寂しいだろうとか思ったのに、

ちょっとだけ優しい気持ちを持ったのが間違いだった。




空港で涙声だったこと、ここで発表しちゃうんだから。




「そうか、そうだったのか、
ここのところ『映報』のお嬢さんが本社に出入りしていると思ったら、そういうことか」

「『映報』? あの映画会社のですか」

「そうそう。うちの田ノ倉と『映報』の跡取りは大学の同級生だからね。
きっと作品の中で提携があるんだろう。事務所も大手がからむとなると、
結構大がかりな作品なんだろうな」



田ノ倉さんか……

『STAR COFFEE』で偶然会って以来、会ってないな。

本社には顔を出してないし、なんだか行きにくくて。



「『BOOZ』からも出ませんかね、映画化」

「出るわけないだろうが。『ピンクマシュマロ』だぞ、誰が見て、誰が金を出すんだよ」

「うーん……たとえば、『おかまちゃんバー』とか」



細木さん後先考えず、勝手に球を投げたけど、さぁ、誰が打ち返す?



「『おかまちゃんバー』だと、相当な数が集まらないと、
映画の資金にはほど遠いだろうな」



あれ? 編集長、本を読んでいるのかと思ったら、その球受け止めたんですか?



「『おかまちゃんバー』は『ピンクマシュマロ』にはつかないだろう。
あの話は一応ノーマルだぞ」



やっぱり菅沢さんが、打ち返しましたね。



「あ、そうか」

「『夢尾花』先生自体に、つくスポンサーだろうが、『おかまちゃんバー』は」

「桃農家が集まるっていうのはどうだ、どちらもピンクだし……」




『シーン』とした空気が、一瞬にして編集部に張り巡らされる。

編集長、打ち返そうとした勇気は買いますが、それは思い切りファウルです。

それに答える人は、誰もいないと思うので。




「よし、印刷所へ行ってきます」

「あ、僕も取材に出ます」



昼下がりの『BOOZ』編集部中継、これにて終了。



「飯島!」

「はい」

「お前、園田先生のところにいって、『水蘭』の案もらってこい」

「はい」


『SOFT』のような華やかな編集部ではないけれど、

映画化も商品化もほとんどないけれど、でも、私は仕事にやりがいを感じている。

何事も勉強。


「あはは……そんな話しで盛り上がったの」

「はい、いつもそうです」

「楽しいね、『BOOZ』は。なんていうの? 力が入っていないというか、
期待感がまるでないっていうのか、まぁ、どうでもいいというのか」

「園田先生、だんだんと評価が落ちている気がしますけれど」

「ん? あら、そんなことないわよ。理想を追いかける人たちは大変だってこと。
『SOFT』の諒なんて、いつも気が休まらないって言っていたもの」



あ……また、田ノ倉さんの名前だ。

いやだなぁ、あれから思い浮かべるのは、

美人さんといた時の笑顔しか出てこなくなった。


「昨日ここで愚痴こぼしていったのよ、お嬢さんと」

「お嬢さん?」

「『映報』のお嬢さん、阪井実玖さん」


阪井実玖さん。

『映報』のお嬢さんというだけで、キラリと輝く姿が想像できた。



40 正統派の姫


『SLOW』の話が、『ケ・セラ・セラ』と『はーとふる・ぷち』両方に登場!
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コメント

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右の畑山、左の日向

右の畑山、左の日向
例の二人が!
日向淳平が『BOOZ』の読者かも、とか、
淳平本人の知らないところで話題になってるのですね。笑。

読んでるな

カフェの美人は『映報』の実玖さんですか。

ホンワカムード漂う『BOOZ』の編集室
和も慣れてきて、自分のポジション確保してる。

淳平君は多分『BOOZ』を読んでいると思う、
史香に隠れて(笑)

『BOOZ』の面々

天川さん、こんばんは

>日向淳平が『BOOZ』の読者かも、とか、
 淳平本人の知らないところで話題になってるのですね。笑。

あっちの世界と、こっちの世界。
淳平は有名人ですからね。
こんなこともあるでしょう……

『BOOZ』の面々

yonyonさん、こんばんは

>ホンワカムード漂う『BOOZ』の編集室
 和も慣れてきて、自分のポジション確保してる。

はい、個性的な編集者に混じり、和も頑張っています。
実玖の正体もわかり、さらに話が進みます。