40 正統派の姫

40 正統派の姫



園田先生の原稿を受け取り、編集部への道を歩く。



『STAR COFFEE』



どうしよう、入ってみようか。

もし田ノ倉さんがいたら、聞いて見たい気もするし、

あの人のこと……


「飯島さん」

「あ……」


うそぉ……このタイミングで普通会う?

しかも店内に入る前じゃないの。決断早いなぁ神様。

これはもちろん、聞きなさいってことだよね。





「すごいですね、『SLOW』が映画化だなんて」

「あぁ、はい。そのおかげで仕事がさらに増えました。
作者がほとんど素人状態なので、映画の契約や書籍の契約など、
僕らが間に全て入らないと、話しが進まなくて。
思ったよりも発表までに時間がかかってしまいました」

「そうなんですか」


表に出るのは作品と作者だけれど、実際には裏方として動く編集者の仕事は、

見えないだけで本当に量が多い。


「飯島さんと食事に行く時間を取ろうと思っても、なかなか自由にならなくて。
ごめんなさい、約束だけしておいて、信用出来ない男だと思いましたよね」

「いえ……そんな」


信用出来ないと言うよりも、ここに一緒に座っていた女性が、

とっても気になりまして。


「この間、僕がここで……」

「はい!」


あ……なんだろう、私。

大きな返事をした後、思い切り身を乗り出している。

いかにも知りたがっているのが、見え見えだ。


「いつの話なのか、わかっていただけている……ということですね」

「はい……」

「それなら話は早いです。ここで一緒に座っていたのが、『映報』の社長の娘で、
阪井実玖と言うのですが、あいつの兄貴と僕が大学の同級生でして」


あのお嬢さんのお兄さんか。

きっと、その人も素敵な人なんだろうな。

田ノ倉さんと並んで歩いても、嫌にならないのだから。


「実玖はまぁ、血はつながっていない、妹みたいなものです」



あら……

血のつながらない妹だなんて、どこかで聞いたフレーズです。



「大学院を卒業して、初めての仕事をこの作品で一緒にすることになりそうで、
あっちが見たい、こっちが見たいとわがままを言うものですから、
連れまわされてました」

「園田先生のところにも?」

「はい、行きました。漫画家の生活が見たいと言うので、
園田先生なら何でもOK出してくれますからね」


そうそう、そういう大きさはありますよね、あの人。


「でも、今週は『BOOZ』が忙しいですよね」

「はい、締め切りもありますし、ネットでの『水蘭を探せ』の応募も終了になりますし」

「そうですか……では、そちらの締め切りが終わったら食事しましょう」

「はい」


なんだ、こうして会ってみたら、ちょっとしたもやもやなんて、すぐに解決するんだ。

ちゃんと約束だって、覚えていてくれた。

あの人は美人で大手企業のお嬢さんだけれど、

田ノ倉さんにとっては、『血のつながらない妹』みたいなもので……





血のつながらない……





「今日、噂になっていましたよ、本社で」

「本社で? 何が」

「『映報』のお嬢さんが、わが『秋月出版社』の王子のお相手だって」


『SLOW』ファンの細木さんは、ちょっと時間があると本社をうろつくようになり、

『SLOW』の情報だけでなく、いらない情報まで運んでくるようになった。


「そりゃそうですよね、年齢的にも適齢期だし、家柄も申し分ないし、
相当美人らしいですしね。『王子様』と『お姫様』ってところですか」


思わず、窓ガラスに映る自分の顔を見た。

そんなに崩れているとは思えないけれど、

とてもコンテストに出られるような顔ではないな。

お母さんに『女は愛嬌』だって言われて育ってきたから、それでいいと思っていたのに、

ほら、結局男は顔でしょう。


「田ノ倉さん、阪井実玖さんは血のつながらない妹だって、言ってましたよ」



そう、そう言ってましたよ。ここはしっかりアピールしておこうっと。



「ほら、ほら、ほら……ほら、そうだ!」



何がそうだ! なんですか。



「血のつながらない妹、『SLOW』のはるかもそうでしょう。
諒と血がつながらないことを知り、心の中に抑えてあった感情が爆発するんですよ。
それで他の男のところに走って、さらに深みにはまってしまって、
……あぁ……そうだ、そうだ」

「それは、途中から血がつながらないことを知ったから、爆発するんです!」

「ん?」

「最初から、血がつながらないことを知っていれば、爆発はしませんよ、普通。
自分に接する態度を見ていたら、恋なのかそうじゃないのかくらいわかるでしょ」


なんだろう、私、必死に戦っている。

田ノ倉さんと実玖さんのこと、なんでもないのだと、必死に言い訳している。


「和ちゃん、なかなか言いますね。じゃぁ、とっておきの情報を。
実は藤代諒って、田ノ倉さんがモデルなんですよ」

「エ……そうなんですか?」

「そうなんです。これは東原さんも言っていたので、間違いありません。
作者の女の子が、『MOONグランプリ』で会った田ノ倉さんがあまりにも素敵で、
作品の男性名に諒ってつけたんだって」



田ノ倉諒と藤代諒かぁ……

畑山宗也に田ノ倉さんが演じられるんだろうか。



あ、いや、そうじゃなくて……



「あぁ、針平って誰か作品にしませんかね」

「細木さん、自分をモデルに作品を?」

「ん? だってそりゃねぇ、
漫画ならどれだけドラマチックに作ってもいいしさぁ……」

「『夢尾花』先生に頼めよ、すぐに喜んで描いてくれるぞ。
おかしな仮面でもつけて。ムチでも持ってさ……」

「勘弁してよ、郁。それは……」



さすが菅沢さん。こういうところはうまいんだよね。

言葉の内容は、容赦ないけど……



その日の最終郵便が届き、『BOOZ』企画、『水蘭を探せ』が終了した。

急までに届いた全ての写真を編集部員で手分けして見た後、

それぞれが候補を提出する。


「うーん……スタイルとしてはこの子かな」

「でも、ちょっと背が高すぎるな」

「そうですね、園田先生の描いたイメージとは、少し離れているな」


ホワイトボードに貼った『高部まひる』さんの写真も、菅沢さんのデスクに置かれ、

編集長と菅沢さんがなにやら話し合う。

選ばれた人には明日、合格の連絡を入れることになる。

彼女のあの必死さを思い出すと、贔屓してはならないが、ついつい祈ってしまう私。


「よし、この3人で行こう」


編集長の手に握られた写真の1枚は、

この企画を思いつかせた『高部まひる』さんだった。



41 負けず嫌い


お姫様の実玖と、お姫様になりたいまひる。そして……そこにいる和
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コメント

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妹みたいなのか……

あの女性の話が! 
妹……うーん、本当かなあ。

『畑山宗也に田ノ倉さんが演じられるんだろうか』
笑ってしまいました。
やっぱり田ノ倉さん、王子様だ!

天川さん、こんばんは

>あの女性の話が! 
 妹……うーん、本当かなあ。

ねぇ……
『血の繋がらない妹』なんて、ちょっとねぇ……

ねぇ……

と、意味深に次回へ続きます(笑)