44 あいつのこと

44 あいつのこと



二番バッター、佐々木さんの『水蘭』撮影会は、和やかに進んでいった。

高部さんの時の緊張感が、ウソのようなんだけど。


「菅沢さぁ~ん、今の私、よかったですか?」


菅沢さんは、佐々木さんの問いかけに、優しい顔で頷いている。

そうかなぁ……この『水蘭』は、

なんだか愛も恋も、何もわかっていないように見えるけれど。


「ねぇカンさん、かわいく撮ってくださいね」

「OK! OK! おっといいねぇ……そのポーズ」


今、何時なのかなぁ。

私ってここに必要?

楽しそうな黄色い声が響くし、『いいよ、いいよ』の声が何度も繰り返される。

まるで子供の七五三みたい。


「おい、飯島!」

「はい、なんですか? コーヒーですか? お茶ですか?」

「お前先に編集部へ戻れ。データも渡して欲しいし」


おや? もしかしたら不満タラタラの顔が伝わりましたか?

それとも、キャピキャピした子がいるので、おばさんは邪魔ってこと?


「えぇ、はい、はい。言われなくても帰ります、なんだか息苦しいですし、
空気も悪いですし」

「何カリカリしているんだ、お前もここで脱ぎたいのか?」

「結構です!」


陽くんがいなくなって、確かに菅沢さんは自由になった。

それでも、ここのところの出来事と行動に、

人間としてなんだかレベルが下がっていく気がしてしまう。

今までも確かにガンガン怒られたし、それで腹も立てたけれど、

仕事に関してはどこか尊敬出来ていたし……



プライベートだって……



AV女優さんに、『原口高校前』に住む女性に、

そして『高部まひる』さん。

まぁ、私には関係ない。どうぞ勝手に、ご自由に!





『手をたたきましょう』のリズムに、怒りを乗せたまま歩き編集部へ戻ると、

菅沢さんの席に田ノ倉さんが座っていた。


「田ノ倉さん、そこはダメです」

「は?」

「そんな椅子に座っていると、あなたにも最低な菌が付着しますから」


秋田編集長は何が起こったのかと不思議そうな顔をして、

データを待っていた及川さんは、床を見たまま右手だけを私に向けた。





太陽は暦が秋を示し始めても、まだまだ厳しい。

屋上のテーブルで向かい合うには少し条件が悪いと、

『STAR COFFEE』で田ノ倉さんと遅めのランチをする。


「そんなことがありましたか、撮影で」

「はい……。すみませんでした、わけのわからないことを言って」

「いえ」


田ノ倉さんは秋田編集長から人の紹介を受けたようだった。

『SOFT』は『SLOW』の映画化に向けて、また慌しいみたい。


「郁は昔からそうですけどね」

「昔から?」

「はい、あいつは口と行動は別ですよ。
口で言うほど、乱れた生活はしていないと思います」

「……そうですかね」

「はい……」


田ノ倉さんがそういうと、そうかもしれないと思えるから不思議。

なんだかイライラしていた気持ちが、少し落ち着いてくる。

ごちゃごちゃしたものが、少しずつ正しい場所に戻るような、そんな気分。


「『水蘭』が3人。おそらく、そこに意味があるのではないですか?」

「意味……ですか?」

「はい」


意味かぁ……

どんな意味があるのか菅沢さんに聞いても、きっと跳ね返される気がするけれど。



「飯島さんは、郁が気になるようですね」



田ノ倉さんの一言に、私は首を左右に振った。

菅沢さんが気になるのではなくて、乱れた空気が気になるんです。


「すみません、私、田ノ倉さんに変なことを言ったから」


本当、何言っているんだろう私。

菅沢さんに対する不満は、菅沢さんに言うことであって、

田ノ倉さんには何も関係がないというのに。



……せっかく、楽しいランチに誘ってもらったのに!



「謝ることではないですよ。今のは僕が飯島さんの困った顔が見たくて、
意地悪をしただけですから」

「意地悪?」



あら……

それって。



「飯島さんだけではありません。僕も郁が仕掛けることはいつも気になります。
タネあかしをされてから、そうだったのかと思うことも、何度もありましたから。
だからきっと今回も、『趣味』だけで変えたわけではないはずです」


少し照れくさそうに笑う田ノ倉さんの顔が、私の鼓動を速くする。

それと同時に、本当に菅沢さんが何を考えているのか、それが楽しみになってきた。


「そうですよね、そう思うとタネあかしが楽しみになりました」

「そうですか、それはよかった……」

「でも……」


田ノ倉さんの笑顔を見ていたら、少しだけ心に余裕が出来て……


「もし、菅沢さんが本当に高部さんを趣味で応援したとしたら、
どうしますか?」

「どうする……って?」

「期待をさせた分、私のショックは大きいです。そうだなぁ……
もし、菅沢さんにタネあかしがなかったら、私を『SOFT』に入れてくれますか?」


田ノ倉さんの眩しいくらいの笑顔が、だんだんと曇りだす。

白い歯が見えた口は、少し強めに閉じられて……


「ごめんなさい……」


もう少し『意地悪』をしようと思ったけれど、ダメ……

田ノ倉さんを前にして、これ以上はムリ!


「ウソです。ごめんなさい。私も、田ノ倉さんのちょっと困った顔が見たくて、
そんなことを言いました」


お互いの前にサンドイッチが届く。

鼻をくすぐる、焼きたてパンの香り。

『ごめんなさい』の後に見た田ノ倉さんは、また、優しい笑顔に戻ってくれる。


「そうか……そう来ましたか。どうでしたか? 僕の困った顔の感想は……」

「はい、美味しくサンドイッチがいただけそうです」


菅沢さんの発言で、妙な気持ちだった私の心は、

田ノ倉さんの優しい言葉と笑顔に、花園のようなカラーがつけられた。



45 揺れる思い


郁をさかな……に、和、諒といい雰囲気じゃないですか。
和(のどか)の 『ケ・セラ・セラ』 な毎日を、応援してください。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪

コメント

非公開コメント

(^_^;)こんなかな?

郁のことを挟まないで、楽しくお話しできるのはいつの事かな?

困った顔の王子を私も観たいぞ!

来週は留守にするので、帰ってきてから一気読み。

近付いてはいるけど

yonyonさん、こんばんは

>郁のことを挟まないで、楽しくお話しできるのはいつの事かな?

そうだね。今のところ和と諒の間には、
なんだかんだと郁がいる状態で……
さて、発展はあるのかどうか。

話はさらに続きます。
いつでも大丈夫だよ、消えたりしませんから(笑)