46 訪問者その1

46 訪問者その1



陽くんがかけてくる電話に、心を乱されながらも我慢する菅沢さん。

一人でいると、つい電話に手を置いてしまうと、居酒屋でつぶやいた。

私は、ただ愚痴を聞くことしか出来ずに、『森山駅』へ到着する。

思えば、この階段で陽くんと初めて出会ったっけ。



『……ブス』



出会いはとんでもないものだったけれど、それからの日々は、確かに楽しかった。

でも……

お母さんのところへ戻すという判断は、間違っていたはずがないのだけれど。





「ただいま」

「お帰り!」

「……お母さん!」


いきなり上京してきた母が、津川家のご夫婦とすでに盛り上がっていた。

大好きな羊羹も、漬物も、テーブルに置いてある。


「何よ、出てくるのなら連絡くれたらよかったでしょ。すぐに戻ってきたのに」

「いいの、いいの。和のペースを乱すのは嫌だったから。
今日は津川夫婦と飲み明かすんだもんね」

「ねぇ……」


いつもは冷静な敦美おばさんも、母の前では若い頃を思い出すのか、

はしゃぎながらグラスを空にする。

どちらかというとおじさんの方が、細かく動き、つまみなど用意していた。


「あら和、お酒飲んできたの?」

「……そうだけど、どうして?」

「わかるわよ、和ってお酒を飲むと、目がトロンとするから」

「何々、誰と飲んできたのよ! ねぇ、田ノ倉さん?」


出来上がった二人に、そのまま解放してもらえるはずもなく、私もその輪に加わった。

敦美おばさんが、田ノ倉さんの名前を出したため、

相手は菅沢さんで、陽くんのことを話したのだと説明する。


「あら和ちゃん……菅沢さんと飲んでいたの」

「うん、菅沢さんも陽くんのことが気になって、話したかったみたい」

「陽くん? それは誰?」


こういうとき事情を知らない人が入り込むと、面倒くさい。

うちの母、私には関係ないからって身を引くタイプじゃないんだよね。

何でも知っておきたいタイプのくせに……



「あのね、お世話になっている仕事の先輩が……甥っ子とを生活をしていたのよ」

「甥?」

「そうなの。色々と事情はあったけれど、お母さんが再婚することになって、
それで熊本へ一緒に行ったんだけど……」

「一緒に? 誰が?」

「だから、その甥っ子。陽くん」

「なんだか面倒くさい話ね」



……知りたいタイプのくせに、理解しようと努力する人間でもないんだよね。

どっちが面倒くさいのやら。



「で、何? 帰ってきたの?」

「違うの……」

「あずささん、そうじゃなくてね」

「何? 文則さんも知っているの?」


私のイライラを感じた文則おじさんが、

酔ってしまってただでさえ理解力の乏しい母に、菅沢さんの事情を語りだした。

あぁ、よかった。これでスッキリする。


「すぐに電話を切るなんて、それは菅沢さんも気になるわね」

「うん、いけないと思いながらも、一人でいるとつい、携帯を見ちゃうんだって。
だから、仕事から戻るのも遅いし……」

「呼びなさいよ、ここへ!」

「そうね、そうそう、呼んじゃおうよ!」


酔っ払った二人の熟女は、本当にたちが悪い。

時計はすでに深夜の0時を回るというのに、

今から菅沢さんを呼ぶのはあまりにも非常識だ。


「今からは無理だってば、何時だと思っているの? 失礼でしょう」

「だって、一人じゃ寂しいのよ、きっと。
うちに来ればいいのにねぇ、和ちゃんもいるんだし」




私がいるという理由は、よくわかりませんが。




「そうそう、和もいるしねぇ」




お母さん、事情を理解していないんでしょう!




「いや、和には田ノ倉家の息子がいただろうが」

「あ! そうそう、そうだった!」




文則おじさん……また、変なパスを出す。




「何? 誰? やだ……和の奪い合い? モテモテじゃないの!
さすが私の娘、で、本命はどっちなの?」





いつ、誰がどこで私を奪い合ったの?

誰か……この酔っ払い中年トリオを、どうにかしてください。


「悪いけれど、お風呂へ入ります。明日も忙しいから」


底なしの3名をリビングに残し、私はマイペースを貫いた。





次の日、あれだけ酔っていたのに、3人の立ち直りは早かった。

私が目覚めて降りてくると、熟女二人はすでに朝ごはんの支度を終えている。


「おはよう、和ちゃん」

「和、何のんびり下りてきているの。下宿人なんだから、食事くらい作りなさいよ」

「いいのよ、あずさ。和ちゃんには休みの日に手伝ってもらっているし、
私のやりやすいようにさせてって、頼んであるんだから」

「ごめんね敦美。半人前の娘で」


半人前の娘は、冷蔵庫を開けて、いつも食べるヨーグルトを取り出さないと。


「和、今日編集部にご挨拶しに行くわ、私」

「今日? ダメだよ急に。みなさん忙しいんだし」

「別に仕事の邪魔なんてしないわよ、私だって新聞社に勤めていたこともあるんだから。
サラリーマンのように時間で動かないことも知っています。
ただ、和を採用してくれたお礼も何も、してないでしょ、
せっかく東京へ出てきたのにそのまま帰るのは失礼だもの」


もっともらしい理由をつけて、自分のペースへ持っていくのは、

昔から母の得意技だった。

こうなったら何をどう言い聞かせたって、聞くわけもない。

私は、この年になって初めて、『親同伴』で通勤した。



47 訪問者その2


子供はいくつになっても、子供……byあずさ
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コメント

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気になる!

あらら・・・同伴出勤❤ってちがうだろ!

郁も気になるね、陽君の状況。
新しい土地で新しい人との生活。
小さい心痛めてないといいけど・・・

陽のこと

yonyonさん、こんばんは

>郁も気になるね、陽君の状況。

いいことだと信じて行動したけれど、
それが正しかったのかどうか、不安な菅沢です。

お話はさらに、さらに続きますので、
お気楽にお付き合いを

陽のこと

yokanさん、こんばんは

>和ちゃんのお母さんはいい♪^^このお母さん、好きだわ~^m^

ありがとう!
『BOOZ』のみんなともご対面してますので、
続きもお付き合いくださいませ。

陽くんのことは……もう少し先へ。