48 心は裏表

48 心は裏表



『野口りお』さんと取り込み中の菅沢さんには、軽い挨拶だけを済ませ、

私は母と、本社ビルにある社員食堂へ向かう。

母は昔、父と働いていた『東西新聞社』と比べ、メニューが多いなどあれこれ語る。

昨日、突然現れた時には正直驚いたが、こうして久し振りに話が出来ると、

やっぱり嬉しい。


「へぇ……敬は相変わらずなんだね」

「そうそう、あの子はあの子よ」


私の性格も、曲がったことが嫌いの敬の性格も、母はよく知っている。


「お母さん安心した」

「安心? 何に?」

「何って、和が自然にふるまっていたから、津川家でも職場でも」


くだらない話をしていても、心の中ではいつも、私達を心配してくれているんだよね。

何でも見抜かれている気がして、嬉しいような、ちょっと照れくさいような。


「敦美がね、電話をしてきたのよ、和が男の人とデートして帰ってきたって」


……あ、田ノ倉さんとのことだ。


「デートっていうか、うん……まぁね」

「いい人? その人」

「うん、とってもいい人だよ。でも、まだ……」


まだ、宣言をするには早すぎる。何度か食事をしただけだし、

将来のことなど話したわけでもないし、いや、なんといっても向こうは、

『秋月出版社』の王子様、いつ魔法が切れるかさえ、よくわからない。


「和が選ぶ人を信じるよ、お母さん」


母はいつも私の味方をしてくれる。親友中の親友。

そんな存在かもしれない。

社員食堂の扉が開き、背の低い女性が入ってきて、その後に続くように、

田ノ倉さんが入ってきた。以前見かけた『映報』のお嬢さんとは、顔が違う。


「和……」

「ん? 何?」

「どうしたの? お知り合い?」

「あ……うん」


田ノ倉さんと目が合ってしまった。

また、ぬけたような表情で、きっと見ていたんだろうな、私。

うわぁ、どうしよう、田ノ倉さんがこっちに来ちゃう。

あ、そうだ、菅沢さんのタネあかしのこと、話した方がいいよね。


「こんにちは、珍しいですね、飯島さんがこの時間、ここにいるのは」

「あ……はい。田ノ倉さん、先日の菅沢さんのタネあかし、予想通りにありました」

「タネあかし? あぁ、はい。そうですか、どうでしたか? 納得できましたか?」

「はい、田ノ倉さんが言われたように、
3人に全く別の『水蘭』を表現させたかったようです。
ありがとうございました、愚痴を聞いていただいて」

「いえ……」


田ノ倉さんの後ろで、なんだかカメラやライトの機材が運び込まれている。

これからここで、何かあるんだろうか。


「ここで何か始まるんですか?」

「対談があります。でもまだ大丈夫ですよ、相手が来ていませんから」

「相手?」


田ノ倉さんは、目の前に座っている女性は『SLOW』の作者で、

ここにこれから『畑山宗也』が来ることになっていると教えてくれた。


「ここで対談ですか」

「はい、出版社の中でしたいというのが、彼女の意向で。
畑山サイドもOKしてくれたものですから。あと30分くらいすると、
全ての社員が立ち入り禁止になります」

「あ、そうなんですか」

「ねぇ、ねぇ、和。ここにいれば畑山宗也が来るってこと? やだ、どうしましょう」


何言っているのよ、お母さん。

日向淳平のファンだって、前に言いませんでした?


「もしかしたら、こちらは飯島さんのお母さんですか?」

「はい、和の母の、飯島あずさです」


私に合わせて、少し前かがみだった田ノ倉さんが、姿勢を元に戻し、

母に頭を下げてくれた。なんだか私のほうが緊張する。


「すみません、ご挨拶もせずに。田ノ倉諒と申します。飯島さんとは……」

「あら、あなたが田ノ倉さん? あら、そうなんですか」

「はい」

「まぁ、こんなところでお会いできるんなんて」



こんなところって、お母さん、ここは立派な職場ですけど。

しかも、田ノ倉さんのお兄さんが社長をしています。



「田ノ倉さん、ふつつかな娘ですが、末永くよろしくお願いします」




どさくさに紛れて何言ってるのよ、どうして『末永く』なるの?

ほら、田ノ倉さんが驚いているじゃないの。




「……はい」




あれ? 返事をしちゃった。

『末永く』ですよ、『末永く』


「しばらくこちらにいらっしゃるのですか?」

「いえ、これから駅に向かって帰ろうかと思っています。
息子を残していますし、私もこれでも働いていますから」

「そうですか。お時間があればと思いましたが」

「ありがとうございます。お気持ちだけで……」



田ノ倉さん、やたらに誘わない方がいいですよ。

うちの母、結構酒癖悪いんですから。



「田ノ倉さん、作者の方が待ってますから、どうぞ、お仕事続けてください。
私はもう出ますし、ね、お母さん」

「はい、田ノ倉さんにお会いできたので、宗也はあきらめて帰ります」



また、余計なことを……



「それでは、また」

「はい、はい、また!」


これ以上、母が迷惑をかけないように、私は腕を引き食堂を出た。

駅まで送ると言いながら本社ビルの玄関を出て行くと、

反対側の道路を、どこか浮かれながら歩く女性を見つける。




その隣には、菅沢さんがぴったり立っていて、

腕なんか組んじゃって、歩いてますけど……

目立ちますよ、『野口りお』さんと歩くのは。




『あぁ……『りお』がしてほしいって言うのなら、断らないよ』




そうか、そうだよね、そうなんだった。

陽くんがいなくなって寂しいし、『野口りお』さんと約束しているんだもんね、

二人でこのまま、断らないまま……戻ってこないつもりだな。



「和」

「何?」

「何ってこっちのセリフでしょ。どうしたの怖い顔しちゃって」

「怖い顔? そんな顔してる?」

「しているわよ、どうしたの?」



どうしたんだろう、私。怖い顔なんてする必要もないのに。

口を左右に動かし、目を何度か瞬きさせ、顔の筋肉を懸命に動かした。



49 女の要求


『秋月出版社』の社員食堂は、どんな感じかなぁ……
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コメント

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いつも楽しみにしています

毎日、楽しみにしています。 淳平もそのうち出てくるのかな?

ありがとう

haruさん、こんばんは
楽しみにしていただけて、嬉しいです。

淳平がからむところまで……と思いながらも、
個性的な面々を動かしているもので、進みがゆっくりですみません。

あちらの話に、時間が追いついていけば、
一緒に登場……なんてことも、あるかもしれません。
これからも、よろしくお願いします。

どちらにしようかな?

和の母は郁と諒の二入を見て、
どっちが娘に合うかしら?なんて思ったかな?

淳平の登場を私も楽しみにしてます!

どちらかな?

yonyonさん、こんばんは

>どっちが娘に合うかしら?なんて思ったかな?

あはは……諒はいいけれど、郁はどうなんだろうね。
娘にあう……と思えるシーンだったかどうか。

>淳平の登場を私も楽しみにしてます!

はい、もっと早く進む予定だったのに、あれこれ書きたいことが増えてしまって、
チョコチョコ進みを続けています。
まぁ、気長に付き合ってね。