56 水の音

56 水の音



2分ほど揺れ続けた電車ルームは、ブレーキ音とともに、駅でもないのに停車した。

私はまた、ボタンを押してしまわないように、左手を膝の上に置く。

旅をしたわけでもないのに、疲れがどっと出たわ。


「飯島……」

「はい、わかっています。もう、変なボタンには触れませんから」


私はその場で両手をあげる。

そう、サラリーマンが痴漢と間違われないようにするポーズと一緒。

触れません、触れませんってば……


「何してるんだ、お前」

「何って……あの……」




なんでしょうかね……




「陽からの電話、この1週間くらい少し減ったんだ」

「あ……そうなんですか」


なんだ、さっきのことを怒られるわけじゃないのね。

意味のない両手を下げて、ほっとため息。

陽くんかぁ……お母さんと新しいお父さんと、熊本で生活を始めたのに、

携帯を鳴らしては切ってしまう行為が繰り返されて、

菅沢さん、少し落ち込んでいたっけな。


「あいつなりに慣れてきたのかもしれないな、向こうに」

「そうですね」


ほっとしたような、でも少し寂しそうな、そんな複雑な表情をしてる。

本当に菅沢さんにとって、陽くんって、大事な存在だったのかもしれない。


「大人よりも、子供の方が強いのかな、人って」

「菅沢さん……」


あまりあれこれ言うのは、こんな場合に正しいような気がしない私は、

ただ黙って前を見続ける。

陽くんを手放してしまったこと、まだ、振りきれていないんだろうか。



それから3分後くらいに、窓ガラスに支配人さんが映り、

部屋を移動してほしいと言い出した。

あとはモデルが到着するだけだと思っていたのに……


「移動? いや、でもこの部屋で取材を……」

「すみません、今、お客様が入りまして。
この部屋を楽しみにきたと言うものですから」


カップルが評判を聞き、わざわざ『ホテル』へ来たと、支配人さんに平謝りされた。

取材時間には退室することを条件に、とりあえず空けることになる。


「それでは、こちらの部屋を……」


代わりに私たちが案内された部屋は、なぜか太鼓橋がかかっていて……




『かぐやの部屋』




本物なのか偽者なのかわからない竹が何本か植わっている。

パンダなら、喜んで食べてしまうかも。

ムシャムシャ……って。


「ここ、かぐや姫をイメージしているってことですか?」

「そうみたいだな、ワンタッチで着られる十二単が売りらしい」

「十二単?」


そう言われてリストを見ると、何着かの『十二単』と、

下町のお嬢さんっぽい、着物が並んでいた。

へぇ、着物って着るのは大変なのに、こんなふうにあらかじめ生地を重ねて作って、

マジックテープか……よく考えているな。



……でも、下町着物娘は、どういう意図?



『帯は簡単に巻け、簡単に取れます』



はは~ん、時代劇コントのような設定ね、きっと。



「飯島、モデル事務所から連絡入ったら起こしてくれ」

「は? ここで寝るんですか? 菅沢さん」

「あぁ……起きていてもすることないだろうが」




……まぁ、確かに。




豪華なダブルベッドに、横になる菅沢さん。

どうしよう……私、どこにいようかな。

太鼓橋の上に戻ると、下を鯉が泳いでいる……ように見える映像が写っていた。

念のため、ガラスの上に手を置いてみる。

やはり映像だ。でも、本物そっくり。


「あ、菅沢さん、菅沢さん!」

「なんだよ、うるさいなぁ」

「これ、ほら、これ……」

「ん?」

「ここ、鯉が泳いでいるように見えますよ。よく見ると、映像なんですけど、
ねぇ、すごくないですか? 記事に載せましょうよ」

「……いい」



はい、却下!



なによ、こういった細かいところに気付くのが、女のいいところなんですからね、

こうなったら、ちゃんとこの細工を見せないとと気合が入り、

ベッドで寝ている菅沢さんを揺らしてみる。


「ちょっと起きてください。こういう細かいところを載せるのも、
大切じゃないんですか?」

「シーッ!」


シーッ? 何よ、それ。

自分だけ陽くんの報告をしておいて。私の話は聞かないって言うんですか?

いきなり指を口の前に出され、しかたなく言葉を止めた。

ちょっと膨れた顔のまま静かにしてみると、どこからか水の音が聞こえてくる。


「水の音……だよな、あれ」

「はい」


部屋にあるシャワーが壊れている雰囲気もないし、

外に見える海の水が、こちらに向かってきているわけでもない。


「ほら、この絵ですよ。鯉が入っている池の水の音じゃないんですか?」

「鯉がいる池の水は、ジャーッと滝が流れるような音をさせるのか?」

「滝?」


そう言われて見たら、高い場所から水が落ちるような、そんな音がする。


「どこかで水道管でも……」

「いや、これは……」

「あ、菅沢さん!」


何かに気付いた菅沢さんは、カメラをベッドに置いたまま、

『かぐやの部屋』を飛び出した。



57 心のこし


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コメント

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ハハハ

え?何?何?

今時のラブホ

あれれ

あれ?コメントが途中で切れてる。

変だな?

切れたの?

yonyonさん、こんばんは
コメント切れちゃったの?

……どうしてかしら。

>今時のラブホ

そうみたいよ。ネットで色々と調べて見ました、私(笑)
昔と今は、呼び方も違うようです。
ネットって便利だよね……
(先日のブログとは正反対だわ)